(The Big Sleep, Dark Passage, Key Largo, To Have and Have Not)

You know how to whistle, don't you, Steve?
Bogie & Bacall in To Have and Have Not (1945)
Ernest Hemingway(1899年 - 1961年)
アメリカの作家「アーネスト・ヘミングウェイ」が1929年に発表した作品に「To Have & Have Not(持つと持たぬと)」があります。 ヘミングウェイの作品の多くを読んだり映画を観たりしている私ですが、活劇を交えてアメリカの貧富の差を描いている「持つと持たぬと」は長編といっても比較的短く簡潔文体なので興奮を覚えるほど一気に読めました。
ヘミングウェイの小説では1926年に書かれた「The Sun Also Rises(日はまた昇る)」、1929年の「A Farewell to Arms(武器よさらば)」、1938年の「The Snow of Kilimanjaro(キリマンジャロの雪)」、1940年の「For Whom the Bell Tolls(誰がために鐘は鳴る)」、1952年の「The Old Man and the Sea(老人と海)」などがハリウッド映画となりました。 感動的な映画はそれぞれ、1943年に「誰がために鐘は鳴る」、1952年に「キリマンジャロの雪」、1957年に「(日はまた昇る」と「武器よさらば」、そして1958年に「老人と海」が公開されています。
今作の「To Have and Have Not(持つと持たぬと)」は1945年にボギー&バコール(ハンフリー・ ボガートとローレン・バコール)で映画化され邦題が「脱出」となりました。 Howard Hawks(ハワード・ホークス)が制作に関わった1932年のScarface(暗黒街の顔役)や1943年のOutlaw(ならず者)」の製作者のHoward Hughes(ハワード・ヒューズ)が「脱出」の映画化権利を持っていたのを買い取り、ノーベル賞作家のWilliam Faulkner(ウィリアム・フォークナー)に脚本を依頼したそうです。 「持つ者と持たざる者」という貧富の格差に関する社会的背景を描いた原作をほぼ無視した形で、ハワード・ホークス流の観客が喜びそうな当時話題のボギー&バコールのロマンスに集中して完全な商業用映画となっています。 「脱出」はノーベル賞作家(ヘミングウエイ)の原作をもう一人のノーベル賞作家(フォークナー)が脚本を担当した唯一の映画といわれています。 う~ん、すごい!偉大なるロスト・ジェネレーション!
「男だけの世界」を執筆したほどに極端なまでのマチズモ(男性優位主義)はヘミングウエイ文学の特徴ともなっていて、裏返せば自らの弱さへの恐怖を表しているともいわれます。 それが猟銃自殺へと導いたのでしょうか。・・・う~ん、マンダム!
余談ですが、昔私が「持つ者と持たざる者」について何の知識も無しに手にしたのが言語版のペーパーバックでしたので、英語が苦手な私は題名を「ハムレット」に倣って「持つべきかそれとも持たぬべきか」と解釈していました。
原作者のヘミングウェイがハワード・ホークス監督はこの作品を「映画化出来っこない!」と言ったそうですが、私が思うには殆ど小説の原型を留めていないし、題名ともそぐわず、単に主人公のラブストーリーとなっています。 原作を読んだ時の緊張感を求めるとちょっと拍子抜けします。 とはいえ、後々語り継がれたエロティックな「Anybody got a match?(マッチある?)」や「You know how to whistle, don't you, Steve? You just put your lips together and blow.(口笛の吹き方知ってるわよね。)」などの話題になるシーンが盛り込まれていてエンターテイメント的なボギー&バコール映画としては大いに楽しめます。
脱出(1945年)
ハワード・ホークスが監督した白黒映画「脱出」はローレン・バコールのデビュー作品であり、ボギー&バコールが出会った映画です。 Humphrey Bogart(ハンフリー・ボガート)が船長のHarry 'Steve' Morgan(ハリー・スティーヴ・モーガン)、Lauren Bacall(ローレン・バコール)が女スリでレジスタンスに肩入れする流れ者のクラブ歌手という謎めいたMarie 'Slim' Browning(マリー・スリム・ブラウニング)、西部劇の名優「Walter Brennan(ウォルター・ブレナン)」がモーガン船長の片腕で酒飲みのおしゃべり「Eddie(エディ)」、名曲「Stardust(スターダスト)」の作曲者として有名なピアニストで歌手のHoagy Carmichael(ホーギー・カーマイケル)がCricket(クリケット)役で出演してクラブのシーンでピアノを弾き、ハスキー・ボイスのバコールとジャズのスタンダードになっている「Am I Blue?」をデュエットしています。 ハリーが密航を手助けする仏レジスタンスの闘士「De Bursac(バーサック)」 を演じるのはWalter Molnar(ウォルター・モルナール)で、その妻「Mme. Hellene de Bursac(ヘレン夫人)」を演じるのが金髪グラマー女優「Dolores Moran(ドロレス・モラン)」です。
舞台は政治的事情により、原作のキーウエストやキューバの密輸から カリブ海にあるフランス領のマルチニーク島に移されました。 第二次世界大戦中のこと、チャーター・ボートの船長を務めるハリーは惚れた歌手のマリーのため金を作ろうと気が進まなかった政治犯の逃亡に関わるヤバイ仕事を引き受けます。 これに対するドイツ・ヴィシー政府の汚いやり方にハリーの怒りが爆発します。 なんたって警察は大酒飲みのエディに酒を飲ませないなんていう拷問で責めたのです。
☆「脱出」の写真が見られる日本の素晴らしい「ボギー」のサイトBogie Photos - ZiZi's WebSite
脱出のスティール写真が見られるイタリアの映画サイトAcque del Sud Photos - FILM.TV.IT
「脱出」のトレーラーはTurner Classic Movies(mediaのwatch a movie clipではバコールがボギーに口笛の吹き方を教えるシーンやバコールとカーマイケルのデュエット「Am I Blue?」、ホークス監督夫人がファッション誌のモデルだったバコールを見て監督に紹介した経緯を語ったPeter Bogdanovich(ピーター・ボグダノヴィッチ)監督のクリップなども観られます。)
その他のトレーラーはTo Have and Have Not Trailer - VideoDetective
To Have and Have Not Trailer - Reel Classics
映画「脱出」の中での有名なローレン・バコールのセリフ
「You know how to whistle, don't you, Steve? You just put your lips together and blow」が聴けるgot wavs - To Have and Have Not
Humphrey Bogart
ハンフリー・ ボガートといえば1941年の「The Maltese Falcon(マルタの鷹)」のSam Spade(サム・スペード)に代表されるような渋い男前のハードボイルド俳優ですが、それは単に銀幕上のタフガイの役柄のことだけではありません。 映画でのギャング役のJames Cagney(ジェームス・キャグニー)やハードボイルドな刑事役のGeorge Raft(ジョージ・ラフト)のように大暴れする役の多いボギーですが、何度もの結婚とトラブル、より良き役柄を巡っての映画会社との紛争、強い酒をあおるアルコール依存などの私生活じゃかなわないでしょうね。 フランク・シナトラ一家で有名なラットパックの元はボギーだったそうですから。
ニューヨーク生まれのボギーは医師と画家の両親を持つお坊ちゃんです。 ところが医師にならずに海軍に志願してしまうのですが、ボギーの特徴となる唇の切り傷や舌もつれが生じたのはこの海軍時代ともいわれています。 除隊後に芝居に出るようになり、1930年代には映画にきり換えます。 ボギーが舞台「The Petrified Forest」で好評だった殺人犯のギャング「Duke Mantee(デューク・マンティー)」を1936年に「The Petrified Forest(化石の森)」として映画化されて大当たりしましたが、後は1937年の「Dead End(デッドエンド)」以外はボギーの気に入る役はこなかったそうです。 1941年になってRaoul Walsh(ラオール・ウォルシュ)監督で脚本がJohn Huston(ジョン・ヒューストン)のHigh Sierra(ハイ・シエラ)でジョージ・ラフトが蹴った強盗犯の役を演じることでその後のボギーの原型が出来上がったようです。 そしてジョン・ヒューストンの監督デビューとなる「マルタの鷹」で最初のフィルム・ノワールの探偵「ハードボイルドなサム・スペード」の出来上がりです。 派小戸ボイルド以外にも1954年にはピューリッツアー賞受賞小説をエドワード・ドミトリク監督が映画化した戦争映画の「The Caine Mutiny(ケイン号の叛乱)」では軍艦の艦長を演じてアカデミーの主演男優賞にノミネートされました。
※Film noir(フィルム・ノワール)とはフランス語で"黒い映画"という意味ですが、1940年代後期から1950年代のハリウッド映画の中でも犯罪ものを指します。 1930年代のアメリカの恐慌時代に始まった道徳的には如何わしくてセクシーな刺激を強調したハードボイルド映画に端を発しているそうです。
男性陣はボギーのタフガイさに憧れ、女性陣はボギーのセックスアピールにうっとり♪ ですが、一番印象的なボギーの映画といえば、そうです! 「As Time Goes By」の音楽とあの飛行場での別れのシーンが忘れられない映画史上最高のラヴストーリー「Casablanca(カサブランカ)」です。 ヒロインのIngrid Bergman(イングリッド・バーグマン)とは当時のボギー夫人が心配するようなこともありませんでしたが、問題はその後の作品、バコールが現れた「脱出」でした。 バコールはまさにボギーにピッタリの女性でしたから、この時は夫人もあきらめて離婚を承諾し、その11日後にボギーとバコールは結婚したそうです。 既に40代になっていたハードボイルドなボギーを虜にした「The Look」というニックネームの元となった上目づかいの新人女優「ローレン・バコール」はなんと当時19歳でした。 ボガートが恋したのはバコールではなく役柄のマリーだなどとハワード・ホークス監督が言ったそうで、バコールは生涯マリーを演じることになったのだとか。 そのせいか、これまでのボギーの3度の結婚がいずれも短期間で破局を迎えたのに対し、ボギー&バコール夫婦はボギーの死まで添い遂げました。 なんといってもハワード・ホークス監督が気に入って契約したバコールでしたからボギーに横取りされた形です。
ボギー&バコールはこの後にも、ホークス監督作品の1946年の「The Big Sleep(三つ数えろ)」、1947年の「Dark Passage(潜行者)」、1948年の「Key Largo(キー・ラーゴ)」と立て続けに共演していますが、ボギー&バコール共演の「脱出」が大ヒットしたので、既に撮影が終了していた「The Big Sleep(三つ数えろ)」の公開を延期してボギー&バコールのシーンを追加したそうです。
ビデオや音声クリップのあるボギーのトリビュート・サイトはTribute to Humphrey Bogart(Sound ClipsとFilm Clips)
ボギーの幼少時代や歴代のボギー夫人達の写真も見られるBogart Non-Film Images
Lauren Bacall
色っぽい目つきのローレン・バコールは1940年代に映画デビューする以前に有名ファッション雑誌のHarper's Bazaar(ハーパース・バザー)のやVogue(ヴォーグ)の表紙も飾っています。 17歳にしてニューヨークの有名デパートのモデルでしたが当時流行りのグラマータイプではなくヒョロ長い体型で顔は無表情で真っ直ぐカメラを見据えたそうです。 つまりファッションショーでステージを闊歩するような今風なモデルだったということです。
ホークス夫人が監督に見せたハーパース・バザーのローレン・バコールの写真はThe Sheila Variations: Lauren Bacall and Harper's Bazaar(中ほど)
40年代の典型モデルといわれたローレン・バコールの写真はAmerican Vintage Blues: History of Fashion 1940-1950
ヴォーグの表紙が見られるALWAYS IN VOGUE(Paris December 1978)
ローレン・バコールの「脱出」を含む写真が見られるReel Classics(3ページあります)
Madonna Vogue(Bacallで検索)
1957年のボギー亡き後、エヴァ・ガードナーと離婚して気楽な独り者となっていたフランク・シナトラとの関係はマスコミに露見して1958年に終止符を打ち、1961年にボギーと似た経歴でボギーの死後に映画界入りしたJason Nelson Robards Jr.(ジェイソン・ロバーズ)と結婚して子供を産んでいます。 ジェイソン・ロバーズは1968年に「Isadra(裸足のイサドラ)」と)Sergio Leone(セルジオ・レオーネ)監督の「C'era una volta il West(Once Upon a Time in the West/ウエスタン」にも出演しています。
1979年にバコールが執筆して発刊した自伝「By Myself(ローレン・ バコール/私一人)」が全米図書賞を得てベスト・セラーになったそうで70年代に一部の女性たちのバイブルともなったとか。 その後も"By Myself and Then Some"など何冊か出版しています。
Lauren Bacall Oscars Fashion 1987 - YouTube
Dolores Moran
実生活ではボギーの従兄弟と恋仲だったDolores Moran(ドロレス・モラン)は不運にもバコールの出現で主役の予定を取り消されました。 恋多きドロレス・モランは撮影当時にはハワード・ホークス監督とも不倫関係だったとか。
1941年にワーナー映画のタレントスカウトで見出されハリウッドに招かれトレーニングを受け、メイクの魔術師によってドロレスの髪は見事なプラチナ・ブロンドに染められました。 Jimmy Stewart(ジェームス・スチュアート)の目に止まったドロレスはジェームス・スチュアートが自身の役で主演した1942年の米・空軍ドキュメント「Winning Your Wings」にブロンドのダンサーとしてエキストラ出演しています。 ドロレス・モランはその後、数本の映画に出演し、第二次世界大戦時の週刊誌のYankやThe Army Weekly、又はEsquireのカバーガールをしたことにより戦時中の兵士に人気のピンナップ・ガールの一人となりました。
「脱出」でのドロレス・モランの写真が見られるMovieActors.com
Dolores Moran & Rita Hayworth
ドロレス・モランの写真がいっぱいのThe Private Life and Times of Dolores Moran
ローレン・バコールの貴重な歌声「How Little We Know」が聴ける2006年発売の廉価版DVD(白黒)は日本語字幕が選択出来ます。
脱出 特別版
2003年版の「脱出 特別版」DVDもあります。
To Have & Have Notの輸入2000年版VHSは原語です。
To Have & Have Not
日本語の1997年「脱出 (字幕版)VHSもあります。
「脱出」のサウンドトラックは見つかりませんが、1947年の「Dark Passage(潜行者)」の音楽も担当したFranz Waxman(フランツ・ワックスマン)作曲です。 最初は吹き替えの予定だったバコールが歌う「How Little We Know」はホーギー・カーマイケル作曲でJohnny Mercer(ジョニー・マーサー)作詞という素晴らしい曲です。 このコンビの曲は他にHong Kong BluesとThe Rhumba Jumpsが収録されていますが、ホーギー・カーマイケルとバコールのデュエット「Am I Blue?」はHarry Akst作曲でGrant Clarke作詞の1929年の曲です。
上記の3曲が収録されているCD「ハンフリー・ボガート映画のサントラ」のトラックの2番で、The Big Sleepのバコールが歌うAnd Her Tears Flowed Like Wineも3番にあるようですが試聴がどこにもないので肝心な「How Little We Know」がバコールの歌なのか曲だけなのかが不明です。
Music from Humphrey Bogart Movies (Original Soundtrack)
カサブランカ、三つ数えろ、化石の森、ハイ・シェラ、デッドエンド、マルタの鷹、潜行者、黄金、アフリカの女王、愛の勝利などのサントラ
洋書(ペーパーバック)To Have and Have Not by Ernest Hemingway
To Have and Have Not
日本語の「持つともたぬと」が収録されているのは三笠書房発行のヘミングウェイ全集 第5巻だそうです。
※1942年の「カサブランカ」の監督であるMichael Curtiz(マイケル・カーティス)がボギーの「脱出」から5年後の1950年にJohn Garfield(ジョン・ガーフィールド)主演で「脱出」のリメイクといわれる社会派映画「The Breaking Point(破局)」を撮りました。 ジョン・ガーフィールドはこの「破局」に出演した1年後に赤狩りによってハリウッドを追放されています。
マイケル・カーティスは「破局」の前の1945年のMildred Pierce(ミルドレッド・ピアース)、その後の1954年にはWhite Christmas(ホワイト・クリスマス)など数え切れないほどの名作を監督しています。
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トム(Tom5k)さん、こんばんは!リンク大歓迎ですよ。
「女性に対するデリカシーが少し不足している」とお感じでか。 うmmm、なにしろロストジェネレーションにハードボイルドやノワールですからねえ。それがカッコいいらしいです。
まあ、男性の理想なんでしょう。女性もレディファーストとかフェミニストに憧れる反面、不良っぽい男性や少々邪険に扱われるのもイイみたいですよ。 マゾ
P.S.
申し遅れましたが、無断でリンクさせていただいていますが、よろしかったでしょうか?
koukinobaabaさん
こんばんは、お久しぶりです。
アーネスト・ヘミングウェイは『老人と海』『誰がために鐘は鳴る』などを高校時代に読み、たいへん感動した記憶があります。
そして、一連のボギー&バコールシリーズやフランスのジャン・ギャバンやアラン・ドロンのフィルム・ノワールなどは一時代を築いた作品群であり、わたしも大好きです。
ただ、彼らの作品には女性に対するデリカシーが少し不足している印象も持っています。実際、女性から観るとどうなのでしょう?