ロベール・ブレッソン スリ Pickpocket (1960)

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Michel tente de dérober le contenu d'un sac à main.
Pickpocket
Pickpocket de Robert Bresson

スリ (1960年)
日本にも古くは三木のり平が演じる老スリと小林桂樹が演じる刑事のせめぎ合いを描いた「大日本スリ集団」やハコ師を描いた2000年の「スリ」という映画がありますが、私が初めて観たフランスのRobert Bresson(ロベール・ブレッソン)監督の映画は制作年が1959年ともいわれる「スリ(掏摸)」です。 日本ではアメリカと同じ1960年に公開されたそうですが私が劇場で観たのはそれから3年は経っていたと記憶しています。 映画「スリ」は巾着切り(スリ)の芸術的な秘密の手口を披露するサスペンス映画でもあり、又一方では非暴力的な窃盗行為にのめり込んた孤独な一人の男の人生ドラマでもあります。 多分、当時映画館から出てきた観客は私同様に自分が「スリ」になりたいと思ったかもしれません。 実際私は帰宅してから家族を相手にスリの練習をしてみました。 しかし、修行が足らずに今日に至っています。

警察と癒着していたというスリの大親分の仕立て屋銀次とはちょっと違い、Fyodor Dostoyevsky(ドストエフスキー)のCrime and Punishment(罪と罰)にも似た自分にスリの才能があることを発見してしまった男の罪の贖いを描いたモノクロ映画です。
なにしろスリをしている最中には他人にその手を見られることを隠すわけですから、実際にスリ現場をドキュメントすることは不可能です。 映画ではその不可能を可能にしてくれるのがカメラの眼です。 ブレッソン監督は出演者には演劇の素人(シロウト)ばかりを起用してドキュメンタリー調に仕立て上げています。 演技が要求されることはなく、スムースな慣れた身体の生の動き(手つき)に重きが置かれ、現実をそしてその存在を表現しているのだそうです。
「スリ」を監督する前年のこと、Francois Truffaut(フランソワ・トリュフォー)も助手として参加しているそうですが、実話を映画化した1956年の「Un condamné à mort s'est échappé ou Le vent souffle où il veut(抵抗/レジスタンス-死刑囚の手記より)」で死刑囚の脱獄の緊迫感を次々と方法を試すLieutenant Fontaine(仏将校)の「」に焦点をあてて表現したように、ブレッソン監督はスリの技を磨く「」を繰り返し、繰り返し映し出して、男の心のなかの道徳的混乱を表現したようです。 ちなみに「抵抗」で主演したのは1977年にGood-bye, Emmanuelle(さよならエマニエル夫人)を監督したFrançois Leterrier(フランソワ・ルテリエ)でした。 フランソワ・ルテリエ監督の俳優としての日本公開映画は「抵抗」の他にはJean Paul Belmondo(ジャン=ポール・ベルモンド)が主演した1973年のStavisky...(薔薇のスタビスキー)でAndré Malraux(アンドレ・マルロー)役を演じただけです。
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ロベール・ブレッソン監督の映画は寡黙です。 殆ど音楽はありません。 聴こえるのは僅かな生活音、そして後は静寂です。
Jean Luc Godard(ジャン・リュック・ゴダール)監督いわく「ドストエフスキーがロシアの本であるように、ロベール・ブレッソンはフランスの映画である」と称賛したほど、ブレッソン監督はフランスのヌーヴェルヴァーグ界に影響を与えた名匠の一人であります。 ブレッソンが修道女の罪と魂の救済を描いて長編デビューした1943年の「Les Anges du péché(罪の天使たち)」から偽札が一人の男を変えてしまったラストが壮絶な1983年の「L'Argent(ラルジャン)」まで数少ない作品の全てが名作といわれています。(観るべし!)

Picking in PickpocketPickpocket by Robert Bresson主人公のMichel(ミシェル)は貧乏大学生ですが、温和な態度やキチンとした身なりから誰も「スリ」だとは疑いもしません。
それが彼をスリの誘惑へと導く理由の一つです。 自滅への衝動に駆り立てられた男を描いた真面目かつ緊張感溢れる秀作で、最初の競馬場の掏るシーンから観客はあたかも自分がその行為を演じてるかのように息を呑むことになります。 一貫して無表情なミシェルの顔に陶酔の喜びがよぎる時、それはスリとった瞬間です。 しかし、すぐに強迫観念に襲われるのです。 彼の友人が就職の機会を与えても無駄でした。 とうとう学業を放棄し、スリの修行に専念し、スリのカモフラージュ・テクニックを考案したり、早業に磨きをかけることに時間を費やす日々を過ごします。 掌や指をしなやかにしたり、受験生がやるように指先でペンをクルクル回したり、遊技場のピンボールも修行の内なのです。 しかし、スリ行為はミシェルが思ったほど人目につかなかったわけではありません。 警察だけでなく、本職のスリ連中に目を付けられ仲間に引き入れられてしまいます。 そのプロのスリ集団が地下鉄で行う一連の巧妙なテクニックの数々はため息さえ出ます。 乗客から財布をスリ盗り、次々と仲間に手渡され、最後にはカラの財布が元の乗客に返されるのです。 これじゃ気が付くのも遅いですよね。
危なくなったミシェルが逮捕逃れのために2年間のロンドン逃亡生活を送ります。 が、帰ってくれば「元の木阿弥」で又スリに戻ってしまうのです。
感動的なラスト・シーンが「女の愛」は不可能と思えることを成就できる力を持つものであると実感させます。 ミシェルを愛する女性(ジャンヌ)を演じたのが驚く事に1974年の「Emmanuelle(エマニエル夫人)」でSylvia Kristel(シルヴィア・クリステル)とレズビアンを演じたMarika Green(マリカ・グリーン)です。 マリカ・グリーンは1943年にストックホルム(スエーデン)で生まれたそうですから「スリ」に出演した時は17歳くらいでしたが、「エマニエル夫人」の時には熟れた30歳のナイスボディをご披露しています。
映画「スリ」に登場する共犯者の一人にPierre Étaix(ピエール・エテックス又はピエール・エテ)が出演しています。 画家であり写真家でもあったピエール・エテですが、1958年にJacques Tati(ジャック・タチ)監督の「Mon Oncle(ぼくの伯父さん)」で助監督を経験し、1965年にYoyo(ヨーヨー)を監督及び主演してJean-Luc Godard(ジャン・リュック・ゴダール)に絶賛されたそうです。 ちなみに故ジャック・タチの原作(脚本)をSylvain Chomet(シルヴァン・ショメ)監督が映画化した2010年のアニメ「L'illusionniste(イリュージョニスト)」が2011年新春に公開予定とか。


Pickpocket DVD
スリのテクニックを学ぶならコレ!
1998年にリリースされたロベール・ブレッソンの「スリ」DVD
Pickpocketスリ (字幕版)
 「ロベール・ブレッソン DVD-BOX」として2008年に発売になった日本語字幕付きロベール・ブレッソンの3枚組DVDセットは11,747円です。 日本未公開ですが1962年の「Le proces de Jeanne d'Arc(ジャンヌ・ダルク裁判)」、1974年の「Lancelot du Lac(湖のランスロ)」、1977年の「Le Diable probablement(たぶん悪魔が)」が収録されています。
ミシェルlが手にしている新聞はスルためのカモフラージュ(痴漢もよく使う手ですね)

ロベール・ブレッソンの"スリ"字幕版VHSビデオ
pickpocketVhs.jpgスリ

ロベール・ブレッソンは1964年に「Au Hassard Balthazar(バルタザールどこへ行く)」を監督しましたがそれはストイックにバルタザールという一頭のロバの一生を描いた作品です。 子供の頃読んだAnna Sewell(アンナ・シュウエル)が1970年代に書いた名作「Black Beauty(黒馬物語)」が思い浮かぶ作品です。 1969年には「Une femme douce(やさしい女)」がありますが質屋通いの女性客が店主に口説かれて結婚したものの諍いが絶えず愛を押し売りする横暴さに夫殺害まで考えますがそれもならず、遂に夫の留守中に飛び降り自殺を企てたヒロインを美貌のDominique Sanda(ドミニク・サンダ)が演じています。 原作がFyodor Dostoyevsky(フョードル・ドストエフスキー)の短篇小説で意思の疎通に問題ありの孤独感を描いていますが1990年のLe mari de la coiffeuse(髪結いの亭主)もAnna Galiena(アンナ・ガリエナ)が演じた熱愛されている妻マチルドが身を投げる話は「美しいままの私を愛して、浮気される前に死にます。」でした。 両作品ともに熱愛を受け止めて結婚を承諾した美しくも謎めいた女が自殺するストーリーでしたが、女はミステリアスで残虐な魔物かもと絶句。 いや、率直で究極な美意識の権化なのかも。

Pickpocket Movies
"スリ"をテーマにした映画というとロベール・ブレッソンの「スリ」の前に同名の映画がありました。 1953年にSamuel Fuller(サミュエル・フラー)が監督したフィルムノワール「Pickup on South Street(拾った女)」で、地下鉄の車中で美人のバックから財布(マイクロフィルム)をスリ取ったばかりに狙われるスキップをRichard Widmark(リチャード・ウィドマーク)が演じています。 元彼のジョーイが共産党のスパイとは知らずに政府の機密情報(化学式)を収めたフィルムの運び屋となりそれをすった三度の前歴のあるスキップから取り戻す羽目に陥った元娼婦のキャンディを「Niagara(ナイアガラ)」のJean Peters(ジーン・ピータース)が演じています。 波止場から突き出た壊れそうな釣り小屋に住むスキップの情報を刑事とキャンディに売る元女スリでネクタイ売りのモウに「三十四丁目の奇蹟」でクレジットなしでサンタに消防車が欲しいと言うピーターの母親を演じたThelma Ritter(セルマ・リッター)。 体調が思わしくないモウが部屋に戻った時に蓄音機にかけるレコードは1947年のヒット曲で"Mam'selle"(小さな喫茶店でマドモアゼルとデート)で、キャンディがスキップの住所としてモウの部屋を教えたのでやってきたコミュニスト組織の諜報員ジョーイが幹部に渡された銃を手に脅します。 全てに疲れ切って素敵な葬儀を話すモウの台詞と歌詞がシンクして曲が終わると同時に銃声が響きます。(名場面) モウの殺害犯としてスキップが警察に逮捕されるのを防いだのがFBIのエンヤート(冒頭の地下鉄シーンで赤い組織の大者を掴もうとキャンディをずっと追っていた二人のFBIの一人)。 スキップの居所を教えなかったために銃殺された身寄りのないモウが無縁墓地に埋葬されるないように遺体を引き取ったスキップが隠していたフィルムを取り出すと、スキップの犯罪歴を消そうとしたキャンディは気絶させて自分が警察に出頭し首謀者の大捕り物に加担するのです。 ジョーイはフィルムのコマが足りないと激怒して逃げようとするキャンディを銃で撃ち、住所を手に入れてスキップの小屋に行く。 空港でのフィルムの引き渡しを阻止したスキップのおかげで首謀者は逮捕、誤解が解けたキャンディも回復してハッピーエンド。 警部は一ヶ月もしないうちに逮捕すると豪語するがスキップにもう四度目はないだろう。 最後の音楽は"Skip Leaves with Candy"で、ドリス・デイのヒット曲"Again"を作曲したLionel Newman(ライオネル・ニューマン)の作品なので出だしが同じです。 映画の音楽はLeigh Harline(リー・ハーライン)でサントラ「Pickup on South Street (Ost) [1953]」(アメリカのAmazon.com ASIN: B002YEXE3K)がリリースされ"Again"、"Mam'selle""Skip Leaves with Candy"(曲のイントロがAgainと同じ)など12曲を収録しています。(試聴はMP3アルバム ASIN: B00H292EJ2) 限定盤の「Pickup on South Street」 オリジナルのサウンドトラックはリチャード・ウィドマークが出演した「Red Skies of Montana(赤い空)」(ライオネル・ニューマンが音楽を監督)のJoseph M. Newman(ジョセフ・M・ニューマン)が監督した1953年のフィルムノワール「Dangerous Crossing」と抱き合わせだったそうです。
他のスリ映画には1973年にはBruce Geller(ブルース・ゲラー)が監督した犯罪映画の「Harry in Your Pocket(黄金の指)」があります。 集団スリの手口を描いた「黄金の指」には1963年にThe Great Escape(大脱走)に出演したJames Coburn(ジェームズ・コバーン)が主演しました。 ブルース・ゲラーは1966年から放映されたTVシリーズのMission:Impossible(スパイ大作戦)が有名です。(5拍子のテーマ曲がユニーク)

Robert Bresson - Pickpocket