愛より強く Gegen die Wand (Head-On) (2004)

トルコ系ドイツ人の悲恋物語
Head-On
Birol Ünel & Sibel-Kekilli im Duvara Karsi in Gegen die Wand
Gegen die Wand(HEAD-ON)(愛より強く)(2004年)

Gegen die Wand
英語のタイトルは「HEAD-ON」というファティ・アキンが監督した「Gegen die Wand(愛より強く)」は2004年第17回EUROPEAN FILM AWARDS(ヨーロッパ映画賞)で作品賞を受賞しました。 映画のタイトルはトルコ語でDuvara Karsi(壁に向かって)というそうで、この映画はトルコ系ドイツ人のFatih Akin(ファティ・アーキン又はファティフ・アクン)監督がドイツのハンブルグにおけるトルコ人の移民と同化問題を描いています。

トルコ系ドイツ人移民の労働者階級のカップルを演じたのはBirol Ünel(Unel ビロル・ユーネル又はビロル・ユネル)とSibel Kekilli(シベル・ケキリ又はシベル・ケキッリ)です。 ビロル・ユーネルは欧州版アカデミー賞ともいうべきこのヨーロッパ映画賞で男優賞にノミネートされました。 2004年2月のベルリン映画祭では「金熊賞(最優秀作品賞)」を受賞していて、ヒロインを演じたシベル・ケキリはGerman Film Awards(ドイツ映画賞)の主演女優賞を受賞しています。 トルコ系ドイツ人の女優のシベル・ケキリは2006年のドイツ映画「Der letzte Zug(アウシュビッツ行 最終列車 ヒトラー第三帝国ホロコースト)」にも出演しましたが日本では未公開でした。(その後6本ほど出演した映画もずっと未公開) 2010年に最優秀映画賞をはじめ各賞を総なめした「Die Fremde (離別)」に家族に背いてドイツで生き抜こうとするトルコ系の女性役で出演したシベル・ケキリは「愛より強く」と同じく最優秀女優賞(ローラ賞)を受賞したそうです。

孤独な男とその男よりもっと寂しい女、そして現状に悩む女ともっと過去に取り付かれた男。 男は失恋、女は父と宗教という”愛の奴隷”の二人。
自分のいる世界と闘う二人を描いた「愛より強く」はドイツのトルコ移民の生活に光をあててセンセーションをまき起こし、ちょっとした社会現象となったそうです。 ちなみにワールドカップのMichael Ballack(ミヒャエル・バラック)もトルコ系ドイツ人だそうです。

「愛より強く」のあらすじ
映画の冒頭はエキゾチックな音色の音楽を奏でる6人編成Selim Sesler(セリム・セスレル)の楽団で女性歌手の İdil Üner(イディル・ユネル)が”Saniye’m”を歌います。 続いて空き瓶広いをする労働者風の男、これが主人公のCahit Tomruk (ジャイト)です。 40歳だからそう若くはありません。 酒場のカウンターで酒を煽るジャイトに近づいてきた女を袖にしたことから荒れて摘み出される。 この後、妻を失って自暴自棄のジャイトは車を暴走させ、遂にHead-On! 正面からレンガ壁に激突する。 神経を病んでいるということで精神病院に運ばれ首にギブスを当てたジャイトはカウンセリングの待合室で手首を切って自殺を計かり精神科に収容された女と出会います。 偶然二人ともトルコ出身の移民でした。
ヒロインの女は1980年代にドイツのハンブルグで働くトルコ系ドイツ人という設定ですが、まるでずっと古い封建的な時代にでも生きているようなものなのです。 女の父(家族)は厳格なイスラム教徒ですが、ドイツに移住したトルコの海外出稼ぎ労働者にとっては宗教そのものはさほど問題ではありません。 自殺未遂も保守的なイスラム教徒の家族から逃れる手段だったのです。 逆に言えばきちんとした家族は今時の不良娘に手を焼いているのかも。 自由奔放に生きたい女にとって問題なのはその信仰がどうかすると悪い方向に向けられるのを避けるためには独立すること、つまり、保守的な父親のお眼鏡にかなう夫を見つけることなのです。 たとえ、偽装でも。 だから自分からジャイトに声をかけた女は名前を聞くと、「Cahit Tomruk … Sibel Tomruk」とつぶやいて微笑んだのです。 その女の名前はSibel(シベル)。 そこからこの悲劇が始まります。

ある日ジョギングをしているシベルは散歩中のジャイトに声をかけ内密で病院を抜け出して夜の町で会うことに。 しかし胸の谷間を見せて誘惑しても乗らないジャイロに絶望したかシベルは突然テーブルの上のビンを叩き割って自分の手首を切ったのです。 帰りのバスで泣きながら訴えるシベル、君は狂っていると言いながらも病院に家族が面会に来て困っている様子のシベルを見ていたジャイトはシベルから持ち出された結婚の申し出を、不幸なシベルを救うために受けることにしたのです。 一度は死んだような自分が何か意義のあることが出来るような気がして。 このシーンの後に再びSelim Sesler(セリム・セスレルとイディル・ユネル)の演奏する”Penceresi yola karsi”の映像。

床屋でヒゲを剃ってさっぱりしたジャイトがシベルの家を訪ねて結婚の申し込みをしているシーンで小さなカップで飲んでいたのはトルコ・コーヒーでしょうか。 さて首尾よく結婚式も終わり二人は祝福されてジャイトのアパートに帰って来ます。 シベルにせがまれてお姫様抱っこでドアを通るも妻を忘れられないジャイトは奥の部屋に行け!と怒鳴ります。 偽装結婚だから愛など存在しない。 実家を出られたシベルは自由を謳歌し一夜限りの恋を胆嚢し、ジャイトは恋人と夜を過ごすこともあった。(これが激しい) しかし日が経つに連れて、ジャイトはシベルを愛しく思うようになってきたので帰らぬシベルを焦燥の念で待った。 この後にSelim Sesler and Orchestra, Idil Üner(セリム・セスレル楽団とイディル・ユネル)の”Na cu e rushja né saba”の映像。

ある晩にシベルがジャイロにのためにピーマンにひき肉を詰めて手作りするDolma(ドルマ)が美味しそう。(トルコのお袋の味か) 男の心を掴むには美味しい食事。
遊び歩くシベルに怒り心頭に発したジャイトは嫉妬心からとうとうシベルを口説く色男のニコを殺害してしまい刑務所行きとなる。(ニコを演じるのはドイツ人俳優のStefan Gebelhoff(シュテファン・ガーベルホッフ))
この事件にショックを受けたシベルはこの時も手首を切るのです。(切り傷の縫合シーンが生々しい) 恐らくシベルは自傷行為という精神疾患を持っているのでしょう。 恐らくジャイトもしかり。 シベルの実家では新聞のニュースで事の顛末を知り、嘆き悲しんだ父親は可愛かったシベルの写真を全て焼き払いました。 シベルが刑務所にジャイトに面会するシーンの後ではセリム・セスレル楽団とイディル・ユネルの演奏で”Roman oyun havasi”の映像。
シベルを想うジャイトを目の当たりにしたシベルは自分もジャイロを愛していることが分かったもののどうすることも出来ず、母国トルコのイスタンブールへ戻って行ったのです。 ジャイトへの愛を抱いたシベルは髪も切ってまるで男のような風体となった。 寂しさを紛らわせるために以前から嗜んでいた酒や麻薬に溺れて荒んだ生活を送っていた。 シベルが乱闘の末に路上で血まみれで路上に横たわるシーンの後にセリム・セスレル楽団とイディル・ユネルの演奏の映像。(曲名は不明)

それから数年経ち、故意の殺人でなかったためか短期間で刑務所から出られたジャイトはイスタンブールにいるシベルに会いに行った。 シベルはその頃には結婚して平和に暮らしていたが、ジャイトとの逢瀬を胆嚢したシベルは二人で旅立つことに応じた。 荷造りはしたもののシベルは母親になっていたので子供を置いてはいかれない。 ジャイトとの待ち合わせにシベルは現れなかった。 傷心のジャイトを乗せたバスは出発する。 ラストの映像はセリム・セスレル楽団とイディル・ユネルの演奏で”Şu Karşıki Dağda Bir Fener Yanar”

最後に失意のシベルが帰って行ったトルコの故郷の町 Istanbul (イスタンブール)が美しいのと同様に、ジャイトとシベルが住む薄汚いドイツのHamburg(ハンブルグ)の労働者街の廃屋でさえある種美しいといえるのでしょう。
映画の中のカップルのワンシーンに臍にピアスを付けたヒロインが音楽にのって踊るところはMargot Stilley(マルゴ・スティリー)が出演した2004年の問題作「9 Songs(ナイン・ソングス)」に似ています。
Gegen die Wand Dancing scene – YouTube

Head-On Trailer (2004) – The New York Times
ニューヨークタイムズの映画欄の読者調査では少なくとも四つ星☆☆☆☆評価を得ている映画です。
ヨーロッパでは2004年に公開され、2005年1月に米国ニューヨークのマンハッタンで公開されました。
日本では2006年4月29日からですが、2005年6月12日(日)に有楽町朝日ホールにおける「ドイツ映画祭」で上映されるようです。
「愛より強く」の日本のオフィシャルサイトは現在消滅しました。

同じく2006年4月29日からファティ・アキンが2000年に監督して出演もしているトルコ・ドイツ映画「Im Juli(太陽に恋して)」も公開されます。 ”Opening & Eclipse of the sun”や””Istanbul sunrise”を演奏したUlrich Kodjo Wendt(ウルリヒ・コジョ・ヴェント)の音楽ですが、映画の中でヨーロッパで人気のあるイギリスのロックバンドであるThe Cure(ザ・キュアー)の”Friday I’m In Love”を使用したかったのに版権が高かったのでカナダのバンドのCowboy Junkies(カウボーイ・ジャンキーズ)の女性歌手であるMargo Timmins(マーゴ・ティミンズ)が歌う”Blue Moon”に変更されたんだとか。(ブルームーンは下記の映画の予告編で流れます)
Im Juli. (In July) Trailer (German) – YouTube

Gegen die Wand DVD
現在はビンテージ価格となった2007年発売の「愛より強く」のDVDです。
Gegen die Wand (Head-On)愛より強く スペシャル・エディション
※このDVDがリリースされる以前はドイツ又はデンマークのみで発売されていました。

Head-On / Gegen Die Wand Soundtrack
中近東とロックの融合”Gegen die Wand”のサウンドトラックはドイツのロッカーであるAlexander Hacke(アレクサンダー・ハッケ)とアメリカのファンク界のテナーサックス奏者であるMaceo Parker(メイシオ・パーカー)との合作です。下記のドイツのアマゾンで試聴してみて下さい。
Gegen die Wand SoundtrackGegen Die Wand (Head on)
試聴はGegen Die Wand Soundtrack – Amazon.de(映画の冒頭シーンで使用されたエキゾチックな中近東音楽Saniye’mは1番)
Maceo Parker – Off the Hook – YouTube

Selim Sesler and Idil Üner
映画「愛より強く」ではセリム・セスレル楽団とイディル・ユネルの音楽が舞台の幕間のように挿入されています。 セリム・セスレルとはトルコのイスタンブールから西方にあるトラキア出身のジプシーで酒場や結婚式などで演奏していたクラリネット奏者だそうで、ジプシー音楽やトルコの伝統音楽を世界に広める活動をしているイスタンブール(トルコ)では有名な音楽家だそうです。 セリム・セスレル楽団の演奏で歌っていたのはトルコ系ドイツ人の女優で歌手のイディル・ユネルです。 ファティ・アキンが監督した2000年のコメディ映画「Im Juli.(太陽に恋して)」では女優として出演しイディル・ユネルが作詞した映画のテーマ曲である”Günesim(トルコ語で太陽という意味)”がサウンドトラックに収録されています。

Können Sie Deutsch lesen? Wenn Sie nicht Deutsches verstehen können, können Sie nicht dieses Buch lesen.
2004年に出版されたファティ・アーキン監督の映画Gegen die Wandの脚本、題材解説、インタビュー、記者会見などについてのドイツ語版書籍(ペーパーバック)は「Gegen die Wand. Das Buch zum Film von Faith Akin. Drehbuch, Materialien, Interwiews und Pressestimmen.」ですが現在は見つかりません。