ベビイドール Baby Doll (1956)

Baby Doll (Original Soundtrack)

Theatrical poster by Bill Gold
Carroll Baker as Baby Doll Meighan
Baby Doll And Empty House by Ray Heindorf and The Orchestra – YouTube

Baby Doll 1956年
“べびいどおる”、”ベビードール”、このような映画の題名だとなんともエロティックな内容の映画かと思ってしまうでしょうが、この映画はドラマやコメディのカテゴリに分類されることはあってもけしてロリコンやエロティックの分野には入れられることはありません。 それでもアメリカ人の男性が憧れるという”幼な妻”を描いた「ベビイドール」の公開当時は大変話題となり、その突飛で風変わりな題材がアメリカの宗教的映倫機関であるLegion of Decency(カトリック系表現規制団体)からクレームがつき物議をかもし出したそうです。 このセンセーショナルな「ベビイドール」は私の好きな南部文学として知られるアメリカの劇作家のTennessee Williams(テネシー・ウィリアムズ)が1946年に書いた一幕物戯曲「27 Wagons Full of Cotton」(二十七台分の綿花、意味は綿花満載の27台の荷車)を元に作者自身が脚本を手掛け、Elia Kazan(エリア・カザン又はイリア・カザン)が監督した伝統的な南部の大農場の崩壊と復讐と正義を描いた映画です。 1962年の映画のLolita(ロリータ)のように少女を愛してしまうロリコン映画でもありません。 しかしこう聞いてもがっかりすることはありません。 なぜならそれほどセクシーとはいえませんが、たしかに足まるだしのブルマー式パジャマのベビイドールは冒頭に登場します。 19歳で指しゃぶりだなんてセクシーどころか、まさにおバカです。 この甘やかされて頭が空っぽの若い女性が修羅場をくぐった終盤にはちゃんと大人の女性に成長したというめでたしめでたしの映画です。
同じくアメリカ南部の貧農家を舞台に13歳で嫁いだ少女が夫の暴力を受けるというひどいエピソードも出てくる1941年の「Tobacco Road(タバコ・ロード)」がありましたが、幼妻をテーマにした映画といえば、黄河の農村で人身売買のように老人に14歳で嫁ぐ少女の哀れを描いた Kaige(陳凱歌/チェン・カイコー)監督の中国映画で1984年の「Yellow Earth(黄色い大地)」がありますが、サイレント映画時代に活躍した低予算のインデペンデント映画で知られたHarry Revier(ハリー・レヴィーア)が1938年に原作脚本及び監督した「Child Bride」があります。 「ベビイドール」はTiger Tail County, Mississippi(ミシシッピ)を舞台にしていますが、「Child Bride」は同じ南部でもミズーリの山岳地帯のオザーク(ヒルビリー)を舞台にした啓蒙映画です。 そこでは中年男が少女と結婚するのは稀ではなかった地域でしたが現地生まれの女性教師がその悪習を止めようと村人に説得を試みるストーリーです。 純真無垢な12歳の少女が素っ裸で泳ぐシーンが受け狙いのB級映画(幼児ポルノ)と酷評されたのですが全く自然の情景であるのでそれは穿った見方だと思います。 少女の水泳を覗き見た男が少女の父親の死を母親が殺したと脅してこの少女と結婚することを強要します。 ちなみに見世物小屋の口上師転じて俳優となったTod Browning(トッド・ブラウニング)が監督した映画であまりの怪奇さに卒倒者が続出した1932年の「Freaks(怪物團)」のAngelo Rossitto(アンジェロ・ロシット)も水汲み場の乱闘シーンや、女教師に反感を持つ一団に襲われてあわや!という場面にも登場します。 新しくは「Mad Max Beyond Thunderdome(マッドマックス3)」のザ・マスター(ザ・ブラスター)として有名かも。

テネシー・ウィリアムズの原作をエリア・カザン監督が映画化した「ベビイドール」は主な登場人物は少なく、幼な妻のBaby Doll Meighan(ベビイドール)に25歳のCarroll Baker(キャロル・ベイカー)、ベビイドールの夫である南部男のArchie Lee Meighan(アーチー)にセルビア出身の俳優で44歳のKarl Malden(カール・マルデン)、アーチーのライバルのSilva Vacarro(シルヴァ・ヴァケロ)に41歳のEli Herschel Wallach(イーライ・ハーシェル・ウォラック)です。 30代で芝居を初めこの時まだ55歳のMildred Dunnock(ミルドレッド・ダンノック)が演じるアーチーの伯母さんでボケた年寄りのローズも登場します。 ミルドレッド・ダンノックはこの役でGolden Globe助演女優賞にノミネートされたそうです。

映画の冒頭のオープニングクレジットではアメリカ南部ミシシッピのデルタ地帯の古い一軒家の絵画をバックにKenyon Hopkins(ケニヨン・ホプキンス)が作曲したスパイ映画のようにジャージーな音楽”Baby Doll And Empty House”が気だるく流れます。
このFox Tail(フォックス・テイル)と呼ばれる一軒家は南北戦争前から建っているように古く雨漏りする屋根を修理しています。 なぜフォックス・テイルと呼ばれるのかは不明です。 Foxtail Palm(キツネノオ椰子)が庭に植わっているのか、繁殖力の強い乾燥地帯に生えるエノコロ草のような雑草が生えているのか。 この屋根だけではなくてあちこちがボロボロらしいその屋敷には家業が経営不振で悪いこと続きの中年男とまだ二十歳前の妻と、料理するのにガスを付けるのを忘れるほどボケたローズ伯母さんの3人、南部の底辺に生きる人々が住んでいるのです。 そしていつも敷地の庭には何人かの黒人労働者たちがたむろしています。 当主である禿げかかった中年男の家業は黒人を使用しての摘み取りが盛んだった南部で綿花を精製する伝統的な綿繰り工場の経営だそうです。 綿繰り(種抜)とは綿糸を紡ぐ前の作業をするらしく、その昔は手動でローラーを通して綿のなかの種を取り出していた木製の道具があったとか。

Baby Doll Synopsis
「ベビイドール」のあらすじ

以下のストーリーには驚くべき結末も書かれていますからこれからビデオをご覧になる方は読まないほうが楽しめます。
映画の冒頭で、殺風景な母屋の2階に上がっていくこの家の主は2年前に未成年の妻を娶った偏屈者のArchie Lee(アーチー)です。 アーチーはベビイドールと結婚はしたものの、婚約した時は死ぬ間際の花嫁の父とある約束をしたのでした。 「娘の二十歳の誕生日まで、花嫁が心身ともに準備ができたと言うまで触れてはならぬ。」 この試練に耐えねばならぬ夫は欲求不満に陥り、しどけない姿で寝ている花嫁を隣の部屋の壁穴から覗き見るしか楽しみはないのでした。 足まる出しのパジャマを着て親指をしゃぶっている妻のベビイドール。 夫のアーチーは出歯亀よろしく妻の寝室の隣の部屋の壁穴から覗き見するのを常としていました。 今日もそこには揺り篭のようなベビイベッドにしどけなく寝そべった少女が横たわっている。 まるで赤ちゃんのように指をおしゃぶりしたまま。 覗きに気が付いたベビイドールは足が露出した短いブルーマのパジャマ姿のまま夫のアーチーが覗いている隣室に行く。 アーチーとの結婚生活に大不満のベビイドールがなじると夫のアーチーは言い返した。 「俺は法的にお前の夫だ。 あと2日経てばお前の二十歳の誕生日だ。 そうすれば。。。」 まるで関知しない若い妻は「あっそ、じゃあたしのバースデー・プレゼントは? ともかく自分の部屋に行きなさいよ!」
憤懣やるかたない様子のアーチーは戸棚に隠してあったウイスキーの小瓶を取り出してグイッとあおる。 その時、ベビイドールが入ってきたのでガーラガラペッ!とそのままうがいを装う夫です。 この後も家のあちこち、外のあちこちに隠してある酒をぐびっと呷るシーンがあります。 そう、ストレスがいっぱいのアーチーはアルコール依存症のようです。

BayBee DOLLLLL!, BaBeee DOLLLLL!
邸内に車を出してきた夫が家に向かって叫ぶ。 降りてこーい! ベビードール!ベビードール! それでも妻が出てこないからなぜか角笛を吹く夫。 「お待たせっ。」とばかりに戸口に現れたベビイドールはよそ行きのお洋服でお澄まし。 しゃなりしゃなりと夫の車に近寄るとピタッっと止まる。 「なにやってんだっ、さっさと乗れっ!」という夫に「降りてきてドアをあけなさいよ!」 こんな二人のやり取りを聞いていた黒人使用人たちはまるで「エンタの神様」でも観ているかのように笑い転げるのです。 「ヒーッヒッヒ、旦那ってば若いカミさんにコテンパンだなぁ。」と言ったどうかは不明ですが、このシーン以外にも労働者としてかなりの黒人たちが登場します。 殆どセリフはなくて何の効果も無い様にみえます。 ところがこれらの黒人たちはこの茶番劇を鑑賞している観客として重要な役割りを担っているようです。
二人は町に到着、アーチーが妻との悩みの種を医師に相談している間に、まん前の歯医者の若造と戯れているベビイドール。 ベビイドールはアーチーから離れてモテルにでも泊まって仕事を見つけようとも考えたのだった。 用事を済ますと夫は車に乗っているベビイドールにアイスクリームを買ってくる。 そこにトラックが通った。 Pay-as-You-Go 「あたしの家具がー!」とトラックを追って走るベビイドール。 その後を車で追うアーチー。 
イーライ・ウォラックが演じるのはこの土地の新参者でイタリア移民のシルヴァ・バケロです。 ちょび髭のシルヴァとその友人のロックが始めた新しい紡績機械を使用した事業により老朽化した綿繰り機を使用しているアーチーは利益が上がらず苦渋をなめていましたが、とうとう支払えない家具まで持っていかれる始末です。
ある晩のこと、絶望と挫折感に駆られたアーチーはぐいっとやった後に車で家を出た。 酒場の仲間たちはアーチーのライバルであるシルヴァ・ヴァケロの大判振る舞いで新しい工場の収穫を祝うパーティの真っ最中。 陽気に騒ぐ人々の姿をいまいまく思ったアーチー。 その直後にシルヴァ・ヴァケロの倉庫が燃え上がった。 小爆発まで起こり瞬く間に工場は火の海、焼け落ちる工場。 ガゾリン缶を見つけたシルヴァ・ヴァケロは放火の犠牲となった焼け跡で号泣する。 よそ者には保安官だって親身になってくれはしない。 そこでシシリアンのシルヴァ・ヴァケロはシシリア流の復讐を誓った。 そう、シシリアの復讐はエロかったのです。

Silva Vacarro’s Red Hot Revenge a la Sicily
放火事件の翌朝のこと、アーチーの邸内にピックアップトラックが到着、降り立ったのは焼けた工場の持ち主のシルヴァ・ヴァケロと共同経営者のロックです。 シルヴァが言うには、種抜機の倉庫が焼けたのでできなくなった27回分の棉の仕上げをアーチイに頼みたい、それもとびっきり良い値段で。 それを聞いてご飛んで火に入る儲け話しだと機嫌になったアーチーは妻のベビイドールに「善隣外交(good-neighbor policy)だ、珈琲でも勧めてお持て成ししてろ!」と申し渡すといそいそと仕事に取り掛かりに家を出ていく。 ベビイドールは歓迎の一発、大あくび。 「夕べは一人ぼっちで怖くて眠れなかったの。」 これを聞き逃さなかったシルヴァ。 さっそく兼ねてから予定の復讐を開始。 このシルヴァがたいした御仁でベビードールが腕につけたお守りのブレスレットにかこつけて足で通せん坊をすると、まったくもってさわり魔のようにベビイドールに触れる手を休めることはない。 「どうぞ奥様。」と丁重に扱われて花まで貰っちゃ悪い気はしないベビイドール。 復讐に燃えるシルヴァはこのアホな子供のような妻を誑かしてなんとかアーチーのアリバイを崩してやろうという魂胆です。
Silva: The Groper – YouTube
more of Silva: The Groper – YouTube

Good Neighbor Policy
おさわりにくすぐりと、シルヴァのあらゆる手管に戸惑いを見せながらもベビイドールに性に対する感情が芽生えた様子。 心の動揺を隠すようにしゃべり続けるベビイドールがふと洩らした「夕べ夫が夕食後に自宅から出て行った。」ことを詳しく聞こうと詰め寄るシルヴァ。 夫のアリバイが崩れるかと俄然用心分深くなるベビイドール。 証言させたいシルヴァ。 不安になるベビイドール。 触られまくって大分興奮状態のベビイドール。 「頭の中が酔っぱらったみたい、ブンブンいってるわ。」と息を弾ませて家に走るベビイドールに畳み掛けるようにシルヴァは正義について説得する。 「貴方は夫を疑ってるわ。 夫は何もしていないわ。」と家に入ろうとするベビイドールに「あの爆発火事は事故ではないと分っている。 君だってそう思ってるだろう?」と畳み掛けるシルヴァ。

Funny Tag and Hide-and-Seek
追い詰められたベビイドールは助けを求めてアーチーのいる工場に行ったところ逆に「黒ん坊が働いてるところなんかに来るんじゃない!」と叩かれてしまう。 シルヴァもやって来てアーチーのお粗末な機械に腹を立てる。 頬に手の跡がついて泣いているベビイドールにチャンスとばかりに再びアタックをかけるシルヴァ。 豚の囲いの側で涙を拭くハンカチをやったり、甘いもの好きのローズがチョコレートキャディを食べたいがために病院に行ってしまうので嘆いているベビイドールの話も辛抱強く聞いてやるシルヴァ。 ふむふむ、なるほどと庭に落ちている木の実(クルミ?)なんぞを食いながらベビイドールとアーチーの結婚のいきさつも聞く。 「今までお預けったってそれは明日までだろう。 その用意はあるのか?」 どうやらこの辺から少女、いや処女のベビイドールに対するシルヴァの気持ちに変化が起きたようだ。
「レモネードでも作るわ」と気を取り直したベビイドールはシルヴァを玄関に待たせるが、レモンの代わりに自分の指を切る。 突然、ここから早回しのドタバタ喜劇調のシルヴァの悪戯が始まる。 勝手に家に入り込み幽霊の真似をして散々脅かしたシルヴァは指を切ったベビイドールの代わりにとレモンをぶった切ってダイナミックにレモネードを作り、出来上がったレモネードを手にズカズカとベビイドールの寝室がある2階に上がって行く。 そこでシルヴァは揺り篭のようなベビイベッドを見つけた。 その傍らにはオモチャの木馬まである。 そこでシルヴァは木馬にまたがると蓄音機の針を落とす。 レコードはSmiley Lewis(スマイリー・ルイス)が歌う”Shame, Shame, Shame”。 なんてことすんだ!恥を知れ!
Smiley Lewis – Shame Shame Shame – YouTube
Smiley Lewis
1957年にImperialレコードからリリースした”Shame, Shame, Shame”が映画「ベビイドール」で使用されたスマイリー・ルイス(1913 – 1966)はニューオーリンズのR&Bの歌手で前歯が欠けているのでスマイリーというニックネームを頂戴したそうです。 サントラに使用されたバージョンの”Shame, Shame, Shame”でテナーサックスを吹いているのはLee Allen(リー・アレン)です。 スマイリー・ルイスは戦後に初アルバム「Here Comes Smiley」をリリースし、1950年の”Tee Nah Nah”をはじめ、1952年の”The Bells Are Ringing”と1955年の”Hear You Knocking”が全国ネットでヒットしたそうです。

さて、ここからが「ベビイドール」がコメディと呼ばれる山場のシーンです。 「The Pink Panther(ピンクパンサー)」のクルーゾ警部顔負けのドタバタ喜劇開始。 物音に気付いたベビイドールとそれをからかうシルヴァの鬼ごっこと隠れん坊が延々と続く。 パドルを武器に追い掛け回すベビイドールと、電球を打ち壊したり喇叭を吹き鳴らしたりして驚かせた挙句に逆にとっ捕まえて倒れたベビイドールの腹を足で踏んでくすぐるシルヴァ、それに負けじと足に噛み付くベビイドール、陳腐に繰り広げられるエピソードを全体の雰囲気を壊す無用なシーンであるとする向きもあるが私はむしろこの茶番劇を盛り上げる真骨頂とみている。 最後は屋根裏に逃げ込んだベビイドールが雪隠詰めとなる。 なぜならベビイドールが倒れこんだ部分が朽ち果てていて落下寸前だったのだ。 身動きできないベビードールに「助けてやるからこれに署名しろ」とアーチーのアリバイを崩すために用意してきた口述書を棒切れの先に突き刺してよこすシルヴァ。 汚い奴。 泣きながら仕方なく署名するベビイドール。 署名の後は紳士らしく涙を拭くハンカチも棒の先に載せて差し出してやった。 ベビイドール陥落す。
Playing Hide and Seek – YouTube

Matured Baby Doll & Mad Archie
ベビーベッドでお昼寝のシルヴァ

「君は隠れん坊をあんなに楽しんだ子供なんだよな。」と言うシルヴァをベビイドールは私のベッドでお昼寝をどうぞと寝室へ誘う。 「お父さんはきっと墓場で跳び上がるわ。」と呟きながら。 とんだオモテナシに預かったシルヴァはベビイドールのベビイベッドで寝てみせる。 寝たふりをしているシルヴァの世話をやくベビイドールの母親のような姿。
場面変わって、1935年にBig Joe Williams(ビッグ・ジョー・ウィリアムス)が歌った”Baby Please Don’t Go”をハモニカを吹きながら歌っている黒人使用人の向こうに家に入ってくるアーチーが見える。 シルヴァが要請した部品をやっとのことで金の時計で支払ってきたのに、既にシルヴァの相棒が調達していたのだった。 2階を見上げて「誰もいないのか!」と叫ぶアーチーの声がシルヴァを寝かしつけていたベビイドールに聞えた。 「行かないでね。」とシルヴァに囁くとベビイドールはスリップ姿のまま下に降りていった。 ベビイドールがなぜスリップかというと冷蔵庫から洩れた水で服を濡らしてしまったから。 なぜスリップのままかというとシルヴァと鬼ごっこが始まったから。 「なんて格好だ、きちんとしろ!」となじるアーチーは逆に放火魔としてベビイドールに非難される始末。 そこに2階からシルヴァが降りてきた。 「これは善隣外交だよ。」 一瞬狐につままれたようなアーチーだったが怪しんで「いつからここにいるんだ?」とシルヴァに尋ねる。 「厚遇を受けて午後からずっとさ。」とうそぶくシルヴァと3人で夕食を取ることに。 シルヴァが言うには新しい工場を建設するのは止めにしてアーチーに仕事を頼むことに決めた。 その間はアーチーの妻の接待を受けることになるのだと。 夕食の服に着替えるため上に上がったベビイドールを待つアーチとシルヴァの二人。 階段にしゃがみこむアーチーとその隣に座るシルヴァ。 微妙な雰囲気、二人とも頭を抱え込む。 これが可笑しい。 アーチーが電話をしている間に着替えたベビイドールが食堂に現れた。 「急に成長したな。」と言うシルヴァは電気を消して大胆にもベビイドールに熱烈なキスをする。 夕食を運んできたローズが気を利かせてか邪魔をしてか電気を付けた。 さて、夕食、所定の椅子にはベビイドールとシルヴァがまるで夫婦のように向かい合って座り、席がなくなったのでアーチーは傍らのスツールを持ってきて座る。 これも可笑しい。 二人の仲を怪しんだばかりになんだかんだとローズのケール料理にも難癖をつけるアーチーだが、そのケチのついてグリーン・スープで愉快に食事を始めた二人にマジキレしてアーチーがやおら「The Blue Angel(嘆きの天使)」のイマニュエル教授のようにコッケコッコー!とやったもんから、私はこれはとうとう精神に異常をきたしたのだと思った。 「俺はただアリバイの口述書のためだけに来たのだ。 お前は火事の犯人だ! ここに証人であるお前の妻の署名もある!」と逆に脅すシルヴァ。 これは本当。 これに逆上したアーチーは猟銃を取りに奥へ走る。 シルヴァを逃したベビイドールは電話に飛びつき、保安官にアーチーの放火のことを通報した。 外に飛び出して逃げたシルヴァを追うアーチー。 庭の大木によじ登ってクルミを食うシルヴァ。 床下まで探す狂乱のアーチー、銃声に驚いて受話器を投げて外に飛び出すベビイドール、一切合財を背負って出ていこうとするローズ、半鐘をならす黒人使用人、とアーチー邸内はそりゃもう大騒ぎ! 外に出てアーチーではなくシルヴァを探すベビイドールに木の上から手が伸びた。 「ベビードールゥー!、ヴァッキャロー、どこにいるー?」と叫ぶアーチー。 探し疲れたアーチーが泣きながら「ベビードール、ベビードール!」と呼ぶシーンはテネシー・ウイリアムズ戯曲の映画化「A Streetcar Named Desire(欲望という名の電車)」でMarlon Brando(マーロン・ブランド)が「ステラ! ステラ!」と泣きながら妻を呼ぶシーンに似ています。
こともあろうに二人が隠れている大木の下に座り込んだ疲れ果てたアーチー。 頭を木や地面に打ち付けて泣くアーチー。 そこに車が入ってくる。 木の上から降りてきたシルヴァが証人の署名を示す。 保安官らに抱えられて車に乗せられたアーチー。

Wait for Tomorrow
こうするしかないと保安官がアーチーに耳打ちした後、時は真夜中の12時を告げていた。 感慨深そうにアーチーがつぶやく。 「今日はベビイドールの誕生日だ。」 アーチーは家に入っていく妻のベビイドールを見た。 保安官に出発を促されたアーチーのうなだれたハゲ頭が痛ましい。 「この次はもっと綿を持ってくるから」と言い残してシルヴァも去った。 外にいた伯母のローズに家に戻ろうと促すベビイドール。 「何にもすることはないけどきっと明日にはあるわ。」 夫を保安官に売ったベビイドールだったが生まれ変わったようにすがすがしい。 そうでした、悪夢の一夜が明けて今日はベビイドールの二十歳の誕生日なのです。
「やれ、やれ。」と荷物を引っさげて再び中に入るローズのショットで幕。 このシーンは意図的に舞台の様式をとっているようです。 ベビイドールは成長した。 ライバルのシルヴァは復讐を果たした。 一人で貧乏クジをひいたのは夫のアーチーで、工場の経営不振と妻に触れることができないという欲求不満でまさにダブルパンチを食らった有様でしたが、アルチュウーはともかく放火の罪は重く、日本では江戸時代に火付けの罪に問われた16歳の八百屋お七は市中引廻しのうえ鈴ヶ森で火あぶりの刑だったそうです。 ちなみに私が観た映画で精神に異常をきたして最後に精神病院送りになる南部の女性を描いた印象的な作品には1951年の「欲望という名の電車」や1965年「Hush, Hush, Sweet Charlotte(ふるえて眠れ)」などがあります。
Baby Doll (Wait for tomorrow) – YouTube

「ベビイドール」のトレーラーはBaby Doll (1956) Trailer – Turner Classic Movies
Baby Doll – Original Trailer (1956) – YouTube
☆「ベビイドール」の映画ポスターが見られるBaby Doll Posters – MoviePoster.com

Eli Wallach
「ベビイドール」には大抜擢の新人女優のキャロル・ベイカーやカール・マルデンというベテランの性格俳優などが出演していますが、忘れちゃならないのがアーチーのライバルであるシルヴァ・ヴァカロを演じたイーライ・ウォラックです。(エリ・ウォラックという表記もあり) ちょっと1957年から放映されたTVシリーズの「Have Gun – Will Travel (西部の男パラディン)」に出演したRichard Boone(リチャード・ブーン)似です。(テーマソングの”The Ballad of Paladin”を歌ったのはJohnny Western) イーライ・ウォラックはこりゃもうこたえられない名演技で、映画祭の賞を何か差し上げたいくらに実に魅力的です。 なにしろ2006年の「The Holiday(ホリデイ)」で共演した若いKate Winslet(ケイト・ウィンスレット)をして最高にセクシーと言わしめたイーライ・ウォラックなのです。 そう言えば1961年の「荒馬と女」ではセクシーなジルバでゲーブルの腕からモンローを奪ったイーライでした。 ちなみに「ベビイドール」のシルヴァ役はゴールデングローブ賞にノミネートだけでしたがBAFTA Award(英国アカデミー賞)では最優秀新人賞を受賞しているそうです。 舞台出身のイーライ・ウォラックはなんとエリア・カザンやリー・ストラスバーグと共にアクターズ・スタジオの創設メンバーだったとか。 ただし映画デビューはエリア・カザン監督の「ベビイドール」で、その前はテレビドラマに出演し、「ベビイドール」の後もテレビドラマや映画では悪役などで活躍していますが、1966年にはウィリアム・ワイラーが監督したオードリー・ヘプバーンのロマコメ「How to Steal a Million(おしゃれ泥棒)」に美術品コレクターのデイヴィス・リーランド役で出演しています。 化学鑑定を恐れる贋作家の娘(ヘプバーン)に展示されているビーナス像(贋作)を手に入れたいと申し出たもんで喜んだ娘にチュッチュされてシャルウィダンス?と言われて婚約してしまう滑稽な役ですが最後は念願の像を手に入れます。(この役、イーライ・ウォラックじゃなくても…) そして同年Sergio Leone(セルジオ・レオーネ)監督の「The Good, the Bad, the Ugly(続・夕陽のガンマン/地獄の決斗)」でClint Eastwood(クリント・イーストウッド)と組んだ賞金稼ぎのTuco(テュコ)役で熱演しました。 このご縁でかイーストウッド主演のテレビドラマに数本出演していますが、イーストウッドが監督した「Mystic River(ミスティック・リバー)」では酒屋のルーニーさん役でカメオ出演しています。 なんと95歳を迎える2010年には80歳も間近のRoman Polanski(ロマン・ポランスキー)が監督した「The Ghost Writer(ゴースト・ライター)」で葡萄園の老人役、Oliver Stone(オリヴァー・ストーン)監督の「Wall Street: Money Never Sleeps(ウォール・ストリート)」では名門投資銀行のチャーチル・シュワルツの重役のJules Steinhardt(ジュール・スタインハート)役で出演しているのです。 それに私生活でも結婚離婚が繰り返されるハリウッドでは珍しく1948年に結婚したAnne Jackson(アン・ジャクソン)ひと筋です。
そして、そして、嬉しいじゃありませんか、Francis Ford Coppola(フランシス・フォード・コッポラ)監督やKevin Brownlow(ケビン・ブラウンロー)監督も受賞したという2011年の第2回米映画芸術科学アカデミー協会(Academy of Motion Picture Arts and Sciences)の名誉賞(Honorary Award)の受賞が決定したのに高齢だからと欠席したフランスのJean-Luc Godard(ジャン=リュック・ゴダール)監督が同じく名誉賞を受賞したイーライ・ウォラックへの敬意を表明したそうです。(ゴダールの本当の欠席理由はゴダール夫人が”あれはオスカー(アカデミー賞)じゃないのよ。”と耳打ちしたからだとか)

Karl Malden
ベビイドールの夫のアーチーを演じたカール・マルデンはセルビア系のベテラン性格俳優です。 1947年にエリア・カザンが監督したDana Andrews(ダナ・アンドリュース)主演の「Boomerang(影なき殺人)」にクレジットなしの刑事役で出演して注目され、エリア・カザンの映画では1951年の「欲望という名の電車」のミッチ役や1954年の「On the Waterfront(波止場)」のBarry牧師役などにも出演しています。 カザン映画の他にはRichard Widmark(リチャード・ウィドマーク)が殺し屋で衝撃的デビューした1947年の「Kiss of Death(死の接吻)」でウィリアム軍曹を演じましたが、ウィドマークが演じた殺し屋が密告者にされてしまったリゾの母親を車椅子ごと階段からつき落として殺すシーンでリゾ夫人を演じたのはこの「ベビイドール」でアーチーの伯母のローズを演じたミルドレッド・ダンノックだったそうです。 マーロン・ブランドが監督及び主演した1960年の「One-Eyed Jacks(片目のジャック)」では保安官、Troy Donahue(トロイ・ドナヒュー)が主演した1961年の「Parrish(二十歳の火遊び)」では煙草大農園主のJudd Raike(ジャッド・レイク)、Natalie Wood(ナタリー・ウッド)が主演した1962年の「Gypsy(ジプシー)」ではローズに恋する俳優のHerbie Sommers(ハービー)役などと1980年代まで多岐に渡る役柄で映画出演していました。

Baby Doll [DVD] Amazon.com

Baby Doll DVD
Baby DollDVD Import

Baby Doll DVD
Baby Doll [DVD] [Import]
上記の画像はアメリカのAmazon.comで販売されている2006年リリースの「Baby Doll」のDVDです。 こちらは国内で販売されていたDVDでフォーマットはリージョン1の輸入版(英語)、現在は売り切れです。(1998年リリースのVHSはASIN: 6300273202)
※アメリカでは2006年にリリースされた「Tennessee Williams Film Collection」があり、7枚ディスクにA Streetcar Named Desire、Cat on a Hot Tin Roof、Sweet Bird of Youth、The Night of the Iguana、Baby Doll、The Roman Spring of Mrs. Stoneが収録されています。 垂涎のテネシー・ウィリアムス映画集ですが、惜しむらくはフォーマットがリージョン1!

Baby Doll Soundtrack
ページトップの画像は「ベビイドール」のサウンドトラックです。 映画「ベビイドール」で一番エロティックなのはキャロル・ベイカーではなくKenyon Hopkins(ケニヨン・ホプキンス)が手掛けた音楽でしょうか。 オリジナルのLPはオークションでしか見つかりませんが、CD化されたサントラが2003年に再リリースされています。 挿入歌として使用されたR&B曲の”Shame, Shame, Shame!”の他に”Baby Doll and Empty House”やマンドリンが入った”Lemonade”など映画のストーリーを追った12曲を収録してあります。 音楽はケニヨン・ホプキンスが作曲してRay Heindorf(レイ・ハインドーフ)指揮によるThe Warner Bros. Studio Orchestra (ワーナーブラザース・スタジオ・オーケストラ) の演奏で大変洒落たジャージーなアルバムです。
「ベビイドール」の後にケニヨン・ホプキンスが音楽を担当した映画にはSidney Lumet(シドニー・ルメット)が監督した1957年の「12 Angry Men(十二人の怒れる男)」や1960年の「The Fugitive Kind(蛇皮の服を着た男)」の他、1961年の「The Hustler(ハスラー)」、1965年の「This Property is Condemned(雨のニューオリンズ)」などがあります。 一方、無声映画のピアノ伴奏から映画音楽を手掛けるようになったレイ・ハインドーフもDoris Day(ドリス・デイ)が主演した1949年のYoung Man with a Horn(情熱の狂想曲)や1950年のTea for Two(二人でお茶を)など1930年代から1960年代までたくさんの映画音楽を担当しています。
♪ 「ベビイドール」のサントラの試聴はBaby Doll Soundtrack – Amazon.com
映画の冒頭に流れたバージョンではなく1956年にリリースされたRalph Flanagan(ラルフ・フラナガン)のビッグバンドが演奏する45回転(RCA 47-6719)があるそうで、A面がケニヨン・ホプキンス作曲の”Baby Doll Theme”でB面が”A Rose and a Baby Ruth”だそうです。(下記はSoundtrack of Baby Doll – Deutsche RCA 20-6719でしょうか)
Ralph Flanagan – Baby Doll – YouTube

Baby Doll BOOK
Baby Doll and Other Plays: WITH “Something Unspoken” AND “Suddenly Last Summer” (Penguin Modern Classics)
この表紙画像は意味不明ですが、国内で入手できる2001年販売のテネシー・ウィリアムズの戯曲集です。(英語) 1956年の”Baby Doll(ベビイドール)”の他に1958年の”Something Unspoken(語られないこと)と”Suddenly Last Summer(去年の夏、突然に)が収録されています。 この他にも英語のペーパーバック版の「Baby Doll (French’s Acting Edition)」があります。

2 Piece Babydoll Pajama
「ベビイドール」が公開された後、女性用パジャマとして長ズボンではなくてショーティ(短いブルマー)のベビードールが登場しました。 足が見えるから男性が喜ぶセクシーな観賞用ネグリジェというだけではなく若い女性の間で可愛いお寝巻きとして人気がでました。 なかには透けるナイロン製もありましたがたいていは木綿製でフリルやギャザーがあしらってあり、提灯袖とブルーマの裾にはゴムが入っていますが、袖もパンツも短いですからセントラル・ヒーティングでも設置されていなければ冬には向きません。 このパジャマは半世紀前の代物だから現在ではフィフティズとかクラシックもしくはヴィンテージのベビードールと呼ばれています。 現在ではパジャマというよりも若い女性のセクシー・ランジェリーとなっているようです。
こんなBabydoll Pajama

Carroll Baker - Harlow VHS

元祖Carroll Baker
Harlow (1965) [VHS] [Import]
1931年生まれでポーランド系のキャロル・ベイカーはアクターズ・スタジオ入りした後にブロードウエイの舞台に出演してエリア・カザンの目に留まり「ベビイドール」のヒロイン役に抜擢されました。 キャロル・ベイカーは「ベビイドール」公開の2ヶ月前に「Giant(ジャイアンツ)」にもJames Dean(ジェームス・ディーン)が演じる石油王のジェットを好きになるも母を愛していると知りハリウッドに行ってしまう主人公の娘(ラズ・ベネディクト 二世)の役で登場していました。 ベイカーは「ベビイドール」への出演により一夜にして有名になりブロンドのセックスシンボルとしての名声を不動のものとしましたがその後は女優として大成功だったのか疑問の残るところです。 Warner Brothers(ワーナー映画)のMarilyn Monroe(マリリン・モンロー)として売り込まれたキャロル・ベイカーは元祖Bombshell(悩殺女優)のJean Harlow(ジーン・ハーロウ)と同じくプラチナ・ブロンド(染めた金髪)と多少間延びしたしゃべり方が特徴でしたがその後1958年に「The Big Country(大いなる西部)」で有力者の娘で気の強いパトリシアを演じた後、美しいかった時のミルドレッド・ダンノックが母親役で出演していたサイコ映画ではレイプがトラウマとなった女性を演じた1961年「Something Wild(傷だらけの愛)」があります。(タイトルデザインは有名なソウル・バス) 不幸にも暴行を受けた女性がトラウマを乗り越え真実の愛を見つけて家庭を持ち母親とのわだかまりも解けるハッピーエンドです。
「傷だらけの愛」はキャロル・ベイカーの夫だったJack Garfein(ジャック・ガーフェインが)監督した映画で、Saul Bass(ソウル・バス)が手掛けたタイトル・デザインとAaron Copland(アーロン・コプランド)の音楽が話題になりました。 セックスシンボルではないベイカーとして好演した映画は1961年の「Bridge to the Sun(太陽にかける橋)」で、外交官を演じるハワイ出身の日系人俳優のJames Shigeta(ジェームズ繁田)と夫婦役で出演していますが、晩年に霊界発言で話題をまいた丹波哲郎の顔も見られます。(丹波哲郎は1973年テレビ放映された「ジキルとハイド」が凶暴で特異だが1974年の「砂の器」での今西刑事役は父子お遍路と共に好演) その後クラーク・ゲイブルやリチャード・ウィドマークなど大物と共演するも次第にキャロルは成熟していきます。 1964年には1962年の「How the West Was Won(西部開拓史)」でも共演しましたが、1960年の「The Subterraneans(地下街の住人)」や「Breakfast at Tiffany’s(ティファニーで朝食を)」のGeorge Peppard(ジョージ・ペパード)と共演した「The Carpetbaggers(大いなる野望)」がありますが、このあたりではもうファムファタル的な役柄になっています。 異色なのは1968年のイタリアン・サスペンス映画でフランスの二枚目スターのJean Sorel(ジャン・ソレル)と共演した「Il Dolce Corpo Di Deborah(デボラの甘い肉体)」でしょうか。 「デボラの甘い肉体」で共演したマカロニ・ウエスタンのGeorge Hilton(ジョージ・ヒルトン)とはキャロル・ベイカーがジュリーとマリーという双子の姉妹を演じる1971年のダイアをめぐるミステリー映画「Il diavolo a sette facce(The Devil With Seven Faces)」もしくは「Bloody Mary」でも共演しています。(二番煎じのような日本未公開のミステリー映画はStelvio Cipriani(ステルヴィオ・チプリアーニ)のテーマ曲とキャロル・ベイカーの悲鳴以外は印象にありません。 ジョージ・ヒルトンは曲者です) その後熟女となったキャロル・ベイカーはジャーロ映画(イタリア)に出演し、1974年にアルコール依存症のお役御免の人妻を演じたベイカーが全裸を見せたイタリアンポルノ「Il corpo(”肉体”という意味でヌードとラヴシーンがいっぱい、トリニダードのエキゾチックな混血美女ファムファタールが流れ者の若い色男と企んで中年の愛人を殺害し島を脱出しようとするも悲劇に終わるストーリー)」は日本未公開でモンド映画のLuigi Scattini(ルイジ・スカチーニ)が監督しています。 ベイカーは1975年に学生の憧れとなる教師を演じた「Lezioni private(課外授業)」で全裸の自慰シーンまで見せていましたが、どんどん役柄が落ちていき1977年にはAndy Warhol(アンディ・ウォーホル)制作のとてもユーモアとは言えないブラック・ユーモア映画「Bad(BAD)」に出演します。 当時45歳のキャロル・ベイカーは美容サロン経営を兼ねた狂気の女殺し屋派遣業者を演じますが、これが全く嫌な女で人種差別発言の連発により殺害されます。 この犯人を演じた黒人俳優の身を案じてしまった私ですがブラックだからダイジョウブだったのでしょうか。 いくらブラックユーモアでも赤ん坊を窓から投げ落とすなどあらゆる残虐で衝撃的な恐ろしいシーンがあるのでよほどのスプラッシュ&ホラー好きでないとちょっと観ておれないひどい映画です。 音楽を担当したのはオープニング・シーンでも流れるように1960年代にニューポート・フェスティヴァルでも活躍したが1981年にヘロインの過剰摂取で死亡したブルース・ギタリストのMike Bloomfield(Michael Bloomfield/マイク・ブルームフィールド)でした。 ちなみに1988年のChet Baker(チェット・ベイカー)の伝記的キュメンタリー映画「Let’s Get Lost(レッツ・ゲット・ロスト)」にキャロル・ベイカーの名があって驚いたところ、なんとチェット・ベイカーの3番目の妻が同じ名前だそうです。 こちらは本物のキャロル・ベイカーが「BAD」から20年後の1997年に66歳で出演した「The Game(ゲーム)」ですが家政婦役では見ていても全く気がつきませんでした。
☆キャロル・ベイカーで特筆すべきはその風貌が、”ベイビー”と呼ばれた1930年代のセックス・シンボルのJean Harlow(ジーン・ハーロー)に似ていることだそうです。 1964年に「The Carpetbaggers(大いなる野望)」でもジーン・ハーローをモデルとした役を演じましたが、続いて1965年にはちょっとコミカルなジーン・ハーロー伝記映画の「Harlow(ハーロー)」で主演しています。 1959年から1年間放映されたテレビ・シリーズのアクション・ドラマ「Tightrope!(タイトロープ)」で主演したMichael Conners(マイク・コナーズ)が男優役で、ハーローの義父役でイタリア俳優のRaf Vallone(ラフ・バローネ)が、そして実在のハーローと結婚するも二ヶ月後に謎の拳銃自殺を遂げたPaul Bern(ポール・バーン)をPeter Lawford(ピーター・ローフォード)が演じたこの映画は1947年に「West Side Story(ウェスト・サイド物語)」を書いたIrving Shulman(アーヴィング・シュルマン)が1960年に執筆したジーン・ハーローの暴露本の「Jean Harlow(ハーロー その異常な愛と性)」を元にしたGordon Douglas(ゴードン・ダグラス)監督のハーロー伝記映画(カラー)です。 ちなみに同年に同名の映画が競作されこのモノクロ版「ハーロー」では「バニーレークは行方不明」のCarol Lynley(キャロル・リンレー又はキャロル・リンレイ)が華奢なハーローを演じました。(2019年死去) キャロル・ベイカーはゴードン・ダグラス監督の映画には「ハーロー」に続いて1965年に女流詩人伝記映画の「Sylvia(シルビア)」でもキャロル・ベイカーがヒロインを演じピーター・ローフォードと共演しています。
ちなみに2003年の「シルヴィア」ではグウィネス・パルトローとダニエル・クレイグが共演しています。
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Elia Kazan (1909 – 2003)
アメリカに移住したギリシャ人のエリア・カザンは第二次世界大戦後の冷戦時代の産物である現代の魔女狩りにも等しいハリウッドの赤狩り事件後では告発が同胞への裏切り行為だと糾弾されました。 体制の良き協力者は時代が変わって卑怯者になったのです。 それから45年後のこと、1998年のアカデミーの名誉賞授賞式では非難を浴びて会場が騒然となったこともありました。 迫害されて国外での映画作りを監督や仕事がなくなり不遇の人生を送った俳優たちの中には私の好きな人物がたくさんいました。 しかし、エリア・カザンは監督として素晴らしい作品をたくさん手掛けているので私には好きな監督の一人となっています。 ユダヤ人問題をハリウッドで浮き彫りにした最初の映画である「Gentleman’s Agreement(紳士協定)」を監督したエリア・カザンが「East of Eden(エデンの東)」に次いで監督したのが「ベビイドール」です。 その後も1957年の「A Face in the Crowd(群衆の中の一つの顔)」や1961年にNatalie Wood(ナタリー・ウッド)が主演した「Splendour in the Grass(草原の輝き)」や1963年の「America, America(アメリカ アメリカ)」などがあります。 アクターズ・スタジオの創設やメソッド演技法の教授を例にとっとも分るように演劇から入ったエリア・カザンは監督業の前には俳優として1930年代中頃から映画に出演しています。 出演映画にはAnatole Litvak(アナトール・リトヴァク)監督の1940年の「City for Conquest(栄光の都)」や1941年の「Blues in the Night(夜のブルース)などがあります。

Tennessee Williams (1911 – 1983)
1938年、アメリカの戯曲作家であるテネシー・ウィリアムズが27歳の時、刑務所での実話をもとにした”Not About Nightingales(C監房棟の男たち)”で注目された作品は残念ながら未読ですが、それ以外の作品は殆ど読んだ筈と思い込んでいる私です。 後期の作品はホモセクシュアル色があまりにも濃過ぎてそれらがテネシー・ウィリアムズの一部であっても辟易しました。 テネシー・ウィリアムズは”テネシー”というペンネームが示すように南部のミシシッピの出身ですから南部を舞台にした自伝的な作品が多いのです。 テネシー・ウィリアムズの作品の映画化は1945年のThe Glass Menagerie(ガラスの動物園)の後に1947年の「A Streetcar Named Desire(欲望という名の電車)」、1955年に「The Rose Tattoo(バラの刺青)」、そしてこの「ベビイドール」、Cat On a Hot Tin Roof(熱いトタン屋根の猫)、そして1959年の「Suddenly, Last Summer(去年の夏突然に)」、本は読んでも映画は全く存在することすら知らなかった1961年の「The Night of the Iguana(イグアナの夜)」、ギターを抱いた渡り鳥、マッチョな流れ者のValentine ‘Snakeskin’ Xavier(ヴァル)を演じたブランドが1960年の「(蛇皮の服を着た男)」やPaul Newman(ポール・ニューマン)が主演した1962年の「Sweet Bird of Youth(乾いた太陽)」、そして私好みの「The Roman Spring of Mrs. Stone(ローマの哀愁)」や1965年の「This Property is Condemned(雨のニューオリンズ)」などとタイトルを並べてみるだけでも残酷なまでの愛の渇望と渦巻く欲望と悲しみ、その異常ともいえる南部的濃いドロドロさ加減にワクワクするのです。