チェット・ベイカー Chet Baker

Chet Baker (1929 – 1988)
伝説のトランッペター: チェット・ベイカー

ウエスト・コースト、クールジャズ、トランペッター、麻薬、色男というキーワードが相応しいChet Baker(チェット・ベイカー)ですが、私が最初にチェット・ベイカーを知ったのはトランペットの演奏ではなく時には、外れている?と思うほど不安定でおぼろげでメランコリックな歌でした。 50年代の初期には想像を絶するほど人気があったトランペット奏者のチェット・ベイカーの余技が特技化したのか、隠し芸(座興)がお家芸(十八番)になったのか分かりませんが、か細く甘い歌声で世界中の女性たちをメロメロにさせたのでした。 チェット・ベイカーは軍隊でドイツに駐留していた頃にラジオでDizzy Gillespie(ディジー・ガレスピー)のトランペットを聴いて影響を受け、トランペットをただ単に吹くのではなく、トランペットを歌わせるトランペッターとなりました。 Charlie Parker(チャーリー・パーカー)のように麻薬に溺れることのなかったディジー・ガレスピーは70年代のチェット・ベイカーのカムバックをサポートしてくれたそうです。

チェット・ベイカーは1952年にビバップのアルトサックス奏者であるチャーリー・パーカーに見いだされて共演したのがチェットのジャズシーン登場でした。 ウエスト・コースト(西海岸)のGerry Mulligan(ジェリー・マリガン)のバンドに参加して名盤を残しています。 ところが1953年にマリガンが麻薬で拘留されたためにバンドは解散になってしまい、チェット・ベイカーは自分のコンポを結成して活動したところ大人気となりました。

“There will never be Another You”のように歌のイントロや間奏に聴けるチェット・ベイカーのトランペットはとてもリリカルで新鮮でした。 麻薬中毒のチャーリー・パーカーと演奏していた頃はパーカーから守られていたのですが、チェットの麻薬の師匠であるRichard Twardzik(リチャード・ツワージク)の死亡後に常習化したらしく、麻薬常習により歯が悪かったチェットは1966年の麻薬関連の暴行事件によりトランペット吹きには命ともいえる歯の殆どを失ったそうです。(事実覚せい剤常習者は口が渇くので虫歯が悪化、いや歯がボロボロだとか) チェット・ペイカーのコンボに在籍していた有望な若手ピアニストのリチャード・ツワージクがチェット・ベイカーに同行したヨーロッパツアーの最中の1955年にパリで麻薬の打ち過ぎにより24歳で急死したことがチェット・ベイカーをずっと苦しめていたそうです。

1970年代にカムバックしたものの、麻薬常用のチェット・ベイカーはすでに深刻な麻薬過のため、かってのプリンスの容貌は驚くほど変わり果ててしまい、本国アメリカではふるわなくなって1959年にヨーロッパに渡って演奏活動をしていました。 そして1986年と1987年の日本公演後の1988年に西ドイツ公演が大成功したものの、チェット・ベイカーはアムステルダムでホテルの自室の窓からの転落事故により死亡してしまいました。(ホテルの室内には麻薬の痕跡があったとか) 窓は窓でもアムステルダムの飾り窓からだなどという噂も流れました。 チェット・ベイカーの急死を告げるニュースをラジオで聴いた時はショックでした。 兎に角落っこちたのは未だ1988年のチェット・ベイカーの華麗にして悲惨な音楽人生を追ったドキュメンタリー「Let’s Get Lost(レッツ・ゲット・ロスト)」が出来上がっていない時で、私はその後日本で公開された時に劇場で観ました。 「共に我を忘れる」人を亡くした思いがいっぱいでした。 もしも貴方がチェット・ベイカーのファンなら本人の映像がドキュメンタリーで観られる「レッツ・ゲット・ロスト」にはウルウルします。 Arrivederci …
☆ ちなみにチェット・ベイカーが演奏する”Let’s Get Lost”はJohn Coltrane(ジョン・コルトレーン)の”My Favourite Things”と共に2011年の「Shame(シェイム)」のサウンドトラックで使用されています。 Steve McQueen(スティーヴ・マックィーン)監督の映画では2013年の「12 Years a Slave(それでも夜は明ける)」や2008年の「Hunger(ハンガー)」にも出演したMichael Fassbender(マイケル・ファスベンダー)が性依存症の男を演じてカンヌの映画祭で話題となりました。

“My Funny Valentine”(愛しのヴァレンタイン) はRichard Rodgers(リチャード・ロジャース)とLorenz Hart(ロレンツ・ハート)コンビが作って1937年のミュージカルの「Babes in Arms」のなかで歌われました。 ヴァレンタインというさえない恋人に対する愛を綴った女心を表していますが、ミュージカルは1939年に「Babes in Arms(青春一座)」というタイトルで映画化され1943年の「Girl Crazy(ガール・クレイジー)」でも共演したMickey Rooney(ミッキー・ルーニー)とJudy Garland(ジュディ・ガーランド)のコンビが出演しています。 当時はパッとしなかったのに1953年に「Ratpak」のFrank Sinatra(フランク・シナトラ)が”My Funny Valentine”をLPに収録してから人気が出たそうですがチェット・ベイカーはそれ以前からマイファニーバレンタインを好んで歌っていたのだとか。
現在CDではオリジナルが1954年録音の「Songs for Young Lovers/Swing Easy!」(ASIN: B0000073TP)などがあります。
♪ 試聴はSongs For Young Lovers + Swing Easy! – Masterworks – Jazzyell.jp

チェット・ベイカー関連の映画
チェット・ベイカーはPascale Petit(パスカル・プティ)が主演した1958年のMarcel Carne(マルセル・カルネ)監督の「Les Tricheurs(危険な曲り角)」で当時パリにいた多くのジャズメンと共にトランペッターとして出演したのを初め、1962年の”Watermelon”が大ヒットしたHerbie Hancock(ハービー・ハンコック)が音楽を担当した1986年の‘Round Midnight(ラウンド・ミッドナイト)ではKenny Dorham(ケニー・ドーハム)が作曲した”Fair Weather”を歌ったり演奏したりと数多くの映画に出演及びサントラに収録されています。 チェット・ベイカーの”Fair Weather”は1959年のアルバム「Chet Baker in New York」に収録されています。
♪ 試聴はIn New York: +1 – HMV.co.jp

Hells Horizon (1955年)
1960年代のTVシリーズのCOMBAT!(コンバット)にも携わったTom Gries(トム・グライス)監督が脚本も手掛けた日本未公開の映画「Hells Horizon」にチェット・ベイカーが出演して歌とトランペットを披露しています。 映画の主役は1949年に「All The King’s Men(オール・ザ・キングスメン)」でジャックを演じたJohn Ireland(ジョン・アイアランド)です。

All The Fine Young Cannibals(夜が泣いている) (1960年)
当時大人気のトランペッターだったチェット・ベイカーをモデルにした私の好きなロマンス映画でNatalie Wood(ナタリー・ウッド)とRobert Wagner(ロバート・ワグナー)が初共演しました。 当初は主役に本人のチェット・ベイカーを予定していたそうですがチェット・ベイカーはそれを受けずに欧州公演(イタリア)に旅立ってしまったのでロバート・ワグナーがトランペッターを演じましたが、トランペット演奏の吹き替えはチェット・ベイカーだそうです。
そのイタリア時代の1959年にストリングスをバックに吹き込んだLPアルバム「With Fifty Italian Strings」では10曲のうち5曲のバラードを歌っています。 「With Fifty Italian Strings」はCD(ASIN: B000000YRI)もありますが、私は1959年のCD「Milano Sessions」(このページの最期にリンク)もしくは「1959 MILANO SESSIONS」(ASIN: B00008GYGA)にも収録されているメランコリックな”Angel Eyes”が大好きです。

Urlatori alla sbarra (1960年)
「レッツ・ゲット・ロスト」で使用された”Arrivederci(アリヴェデルチ)”のオリジナルは日本未公開でしたがイタリア青春映画の「Urlatori alla sbarra」にチェット・ベイカーがアメリカ人のミュージシャン役で出演して歌っています。 この1960年の映画(英語では”howlers at the bar”)の中で私が一番観たいと思ったのはCatherine Spaak(カトリーヌ・スパーク)が主演した「Dolci Inganni(十七歳よさようなら)」というイタリア映画の主題歌となったUmberto Bindi(ウンベルト・ビンディ)作曲の”Arrivederci(アリヴェデルチ)”という曲をチェット・ベイカーが歌っているシーンなのです。 大木の下に寝そべって女の子の髪をなでながらロマンティックに歌い、トランペットも吹きました。 森で若者たちが戯れるこのシーンはJohnny Depp(ジョニー・デップ)が出演した1990年のロカビリー映画「Cry-Baby(クライ・ベイビー)」の中盤にちょっと似た部分がありました。
Chet Baker in Italy- Arrivederci 1960 – YoutTube
チェット・ベイカーのイタリア滞在期の1962年にはEnnio Morricone(エニオ・モリコーネ)との最高のコラボでイタリア語で歌ったことがありますが、ここでは”Arrivederci”はイタリア語ではなく英語の歌詞です。 チェット・ベイカーの歌とトランペットでとてもセンチメンタルな演奏が聴けます。 「Urlatori alla sbarra」にはカンツォーネ歌手のMina Mazzini(ミーナ・マッツィーニ)やセクシー女優のElke Sommer(エルケ・ソマー又はエルケ・ゾマー)が出演する他、イタリアの人気歌手が勢ぞろいしたこの青春映画では、”Ciao Ciao Bambina”で有名なジェノヴァ出身のカンツォーネ歌手で2007年春に亡くなったJoe Sentieri(ジョー・センティエーリ)やイタリアンポップスのGianni Meccia(ジャンニ・メチア)が出演し、ミーナが日本でも流行った”Tintarella Di Luna(月影のナポリ)”や”Whisky”を歌う他、日本では1961年に”24000回のキッス”が人気だったイタリアンロックのAdriano Celentano(アドリアーノ・チェレンターノ)が”Blue Jeans Rock”などを歌い、チェット・ベイカーが歌った”Arrivederci”の作曲者であるUmberto Bindi(ウンベルト・ビンディ)も出演していたそうです。 ですがチェット・ベイカーはもうこの時期にはヘロイン中毒が進んでおり、処方箋偽造や大量の薬物を持ち込んだとしてイタリアでも1960年に1年以上も拘留されたそうです。 チェット・ベイカーがその刑務所内で作曲した4曲を録音したのがRCAのエニオ・モリコーネとのセッションだそうです。

Stolen Hours(愛の勝利) (1963年)
Susan Hayward(スーザン・ヘイワード)が主演した1958年の「I Want to Live!(私は死にたくない)」ではジェリー・マリガンの音楽が使用されましたが、Daniel Petrie(ダニエル・ペトリ)監督でスーザン・ヘイワードが不治の病に侵された娘役で主演した人生ドラマにチェット・ベイカーが自身の役で出演したそうですが、映画テーマ曲の”Stolen Hours”はチェットではなくFrankie Avalon(フランキー・アヴァロン)の歌がリリースされています。

The Talented Mr. Ripley(リプリー) (1988年)
映画の中でマット・デイモンがマイファニーバレンタインをチェット・ベイカーそっくりに唄いますが、サウンドトラックにチェット・ベイカーの”My Funny Valentine”が収録されています。
☆映画についてはAudio-Visual Trivia内の「The Talented Mr. Ripley(リプリー)」
“My Funny Valentine”の曲は「リプリー」のほか、Jane Russell(ジェーン・ラッセル)が主演した1955年の「Gentlemen Marry Brunettes(紳士はブルーネット娘と結婚する)」、フランク・シナトラとKim Novak(キム・ノヴァク)が共演した1957年の「Pal Joey(夜の豹」)、Nicole Kidman(ニコール・キッドマン)が主演した1993年の「Malice(冷たい月を抱く女)」などの映画で使用されています。

Stealing Beauty(魅せられて) (1996年)
One Night at McCool’s(ジュエルに気をつけろ!)」のカーワッシュがセクシーだったLiv Tyler(リヴ・タイラー)が主演した「魅せられて」は父親探しと夢のロマンスをたどるうちに真実の恋を見つけるという全てが美しい青春ドラマでしたが、これまた美しいチェット・ベイカーの”Tenderly”が映画で使用されています。 人気ランクの上位にあるTenderly(テンダリー)は下記のアルバムの「In Paris: Barclay Sessions 1955-1956」(ASIN: B00004SC6V)や2枚組の「In Paris: the Complete Original Recordings」(ASIN: B008X6VRJG)や「Jazz ‘Round Midnight」(ASIN: B00000479V)などに収録されている他、ビッグバンドでは「Chet Baker Big Band」(ASIN: B000005HBE)に収録されています。

L.A. Confidential(L.A.コンフィデンシャル) (1997年)
チェット・ベイカーの”Look For The Silver Lining”がサントラで使用されたのはJames Ellroy(ジェームズ・エルロイ)の原作をCurtis Hanson(カーティス・ハンソン)監督が映画化したクライム映画の「L.A.コンフィデンシャル」です。 カーティス・ハンソンは2005年の「In Her Shoes(イン・ハー・シューズ)」を監督したりOscar Peterson(オスカー・ピーターソン)が音楽を担当した1978年の「The Silent Partner(サイレント・パートナー)」などの脚本を手掛けています。
Jerry Goldsmith(ジェリー・ゴールドスミス)が音楽を手掛けた「L.A.コンフィデンシャル」の人気オリジナル・サウンドトラック「L. A. Confidential (1997 Film)」(ASIN: B000003BLF)にはチェット・ベイカーの”At Last”はありませんがLook For The Silver Liningとマリガン&チェット”のMakin’ Whoopee”が収録されています。

Flic ou voyou – Le Guignolo / Philippe Sarde (Universal France 159 899-2)
1970年代のJean Paul Belmondo(ジャン・ポール・ベルモンド)がMarie Laforet(マリー・ラフォレ)と共演した1978年の「Flic ou voyou(警部)」と1980年の「Les Guignolo(道化師)」でPhillippe Sarde(フィリップ・サルド)が音楽を担当しましたが、それら2枚のサウンドトラックを一緒にCD化したサントラアルバム「Flic ou voyou – Le Guignolo」(ASIN: B000BRHXXE)にはチェット・ベイカーの”Pour Chet”が入っています。 チェットの他にRon Carter(ロン・カーター)も参加している「Flic ou voyou」のサントラは当初はフランスだけでリリースされたそうですが2000年に日本でも発売されました。
♪ 試聴はFlic ou voyou / Le Guignolo – Philippe Sarde – Allformusic.fr

Let’S Get Lost (1988)
チェット・ベイカーの大ファンがチェット・ベイカーの大ファンに贈るチェット・ベイカー集大成、元ファッション写真家のBruce Weber(ブルース・ウェバー)が監督したドキュメンタリー「レッツ・ゲット・ロスト」は日本ではVHSしか見つかりませんが、ブルース・ウェバーがデザインした「レッツ・ゲット・ロスト」のTシャツはオークションなどでまだ入手可能らしいです。 「レッツ・ゲット・ロスト」は悲運の美男トランペッター「チェット・ベイカー」の演奏とインタビューをつないだドキュメンタリー映画ですが充分にチェット・ベイカーの壮絶な人生と素晴らしい音楽を知ることが出来ます。 初期には甘いマスクと歌声で女性を虜にしたチェット・ベイカーが、麻薬が原因と云われる暴漢に襲われる事件でトランペット演奏には重要な歯を折られたことから面相が変貌しさらに麻薬に溺れていく様はチェット・ベイカーのファンとしては大変辛いものです。 歯抜けのままで歌うチェットや入れ歯でトランペットを吹くチェットは見るに忍びないこと。 「レッツ・ゲット・ロスト」はドキュメンタリーですからディジー・ガレスピーやロイ・エルドリ ッジなどの1950年代の貴重な映像もチラリと見ることができます。 もしも「レッツ・ゲット・ロスト」が俳優を使った伝記映画だったらいったい誰がチェットを演じていたでしょう。
Arrivederci…
1991年輸入版のVHSは「Let’s Get Lost」ですがもう少ししたら取り扱わなくなるかもしれません。 日本語字幕版のDVDがリリースされることを希望します。
アメリカのAmazon.comにあるDVDは「Chet Baker – Let’s Get Lost [Region 2]
オリジナルは1989年にリリースされたサウンドトラックは「Chet Baker Sings and Plays from the Film “Let’s Get Lost」(ASIN: B0000004XM)

チェット・ベイカーのアルバム
My Funny Valentine
ページトップのCD画像はチェット・ベイカーの定番アルバムの1枚でアルバムタイトルとなっているチェットの甘い歌声の”My Funny Valentine”や演奏のみの”Moon Love”など14曲を収録しています。 1952年頃の音源らしい”Someone To Watch Over Me”などのバラード曲をチェットが歌いトランペットを演奏します。 同じカバー画像で色違いの10枚組CDには2008年発売の「Chet Baker: My Funny Valentine 10CD set(マイ・ファニー・ヴァレンタイン 10CDセット)」(ASIN: B001EKB5LI)があります。(モノラル録音のChet Baker, Vol. 1からChet Baker, Vol. 10をボックスセットにしたもの)
♪ 試聴はMy Funny Valentine – レコチョク
♪ ページトップで聴けるトランペット演奏の”My Funny Valentine”はアルバム「Jazz Moods: Cool」(ASIN: B00082ZSCK)に収録された東京公演のライヴ録音だそうです。
♪ 試聴はJazz Moods Cool – Prestomusic.com
My Funny Valentine(マイ・ファニー・バレンタイン)という名曲はチェット・ベイカーのオープンなトランペット演奏のみならず、多くのニュージシャンが取り上げる人気曲ですがなかでも有名なのが1956年のThe Miles Davis Quintet(マイルス・デイヴィス・クインテット)のマラソンセッションの一枚で”Cookin'”に収録されているミュートのトランペット演奏のマイ・ファニー・バレンタインです。

Prince Of Cool: The Pacific Jazz Years: 1952-1957
マリガンカルテットとの共演でLove Me or Leave Meを収録したBlue Noteレーベルの3枚組アルバム
Prince Of Cool: The Pacific Jazz Years: 1952-1957 by Chet BakerPrince of Cool
♪ 試聴はPrince of Cool – CDandLP.jp

Chet Baker Sings
オリジナルは1956年のチェット・ベイカーといえばコレ!と誰でもが一番にあげるアルバムです。
国内盤は「チェット・ベイカー・シングス」(ASIN ‏ : ‎ B01N4MQW9L)
Chet Baker SingsChet Baker Sings
♪ 試聴はChet Baker Sings – CDandLP.jp
※ アルバム画像で歌っている若きチェット・ベイカーの左は1950年代にずっとチェットの音楽を支えたピアニストのRuss Freeman(ラス・フリーマン)です。 ラス・フリーマンはシカゴ出身のクラシックピアニストでしたが、ビバップのなんたるかを逸早く掴んだウエストコースト派のピアニストでした。 21歳にしてチャーリー・パーカーの伴奏をつとめたそうですがニューヨーク時代に麻薬に溺れて同病のArt Pepper(アート・ペッパー)などと演奏していたそうです。 最悪の状態から立ち直り1951年からチェット・ベイカーと一緒に組むようになりました。 1952年のPacific Jazzのレコーディングでは選曲及びアレンジを手掛け、チェット・ベイカーにコード進行などを手ほどきしたそうです。

This Time The Dream’s On Me: Chet Baker Quartet Live, Volume 1
オリジナルはチェット・ベイカーの麻薬がまだそれほど影響を与えていなかった1954年のライヴ録音のCD化でStella by Starlightなどノリノリの演奏で、曲の間にチェットの声で紹介が入ります。
国内盤は「ジス・タイム・ザ・ドリームス・オン・ミー」(ASIN ‏ : ‎ B000056JXR)
This Time The Dream's On Me - Live Vol. 1This Time The Dream’s On Me – Live Vol. 1
♪ 試聴はジス・タイム・ザ・ドリームス・オン・ミー – CDandLP.jp

“Chet”by Chet Baker 1959
Alone Together、You’d Be So Nice to Come Home To、You and the Night and the Music、Come Rain Or Come Shine、September Songなどのチェット・ベイカーのロマンティックなトランペット演奏を収録した1958年から1959年の録音を集めたアルバムで夜のBGMにはピッタリ! 共演するミュージシャンが豪華! ピアノはBill Evans(ビル・エヴァンス)、ギターはKenny Burrell(ケニー・バレル)、ベースはPaul Chambers(ポール・チェンバース)、ドラムがPhilly Joe Jones(フィリー・ジョー・ジョーンズ)とConnie Kay(コニー・ケイ)、バリトンサックスはPepper Adams(ペッパー・アダムス)だそうです。
Chet by Chet BakerChet – The lyrical trumpet of chet baker (CD)(ASIN ‏ : ‎ B07JK2HXJ5)
♪ 試聴はChet – CDandLP.jp
1942年にCole Porter(コール・ポーター)が作詞作曲した”You’d Be So Nice to Come Home To”は日本ではHelen Merrill(ヘレン・メリル)でお馴染みですがJulie London(ジュリー・ロンドン)やSarah Vaughan(サラ・ヴォーン)やAndy Bey(アンディ・ベイ)も歌い、演奏ではArt Pepper(アートペッパー)やBud Powell(バド・パウエル)などのバージョンもあります。

My Favorite: “Born to Be Blue
チェット・ベイカーが歌う私の好きな”Born to Be Blue”を収録したアルバムは少ないのですが、オリジナルの録音が1965年アルバム「Baby Breeze」(ASIN: B00000HXFL)ではタイトル曲のBaby Breezeの他、Everything Depends on Youも収録されています。
♪ 試聴はBaby Breeze (Expanded Edition) – Mora.jp
Born to Be Blueはアルバム「Chet for Lovers」(ASIN: B0000A0I6C)などにも収録されています。
チェット・ベイカーの歌とトランペットで有名な”Born to Be Blue”は、”The Christmas Song“で名高いBob Wells(Robert Wells/ボブ・ウェルズ)と天才ジャズシンガーのMel Torme(メル・トーメ)コンビにより作られた人気のスタンダード曲で、オリジナルは1946年にMel Tormé and His Mel-Tones with Sonny Burke & His Orchestraが演奏したシングル「Born to be Blue」がリリースされたそうです。 ”Born to Be Blue”は多くのジャズミュージシャンが演奏しており、なかでもFreddie Hubbard(フレディ・ハバード)のトランペット演奏やWynton Kelly(ウィントン・ケリー)のピアノ演奏、また1962年に録音されたWes Montgomery(ウェス・モンゴメリー)のギター演奏などが素晴らしいです。 フレディ・ハバードの”Born to Be Blue”と、ウィントン・ケリーの「Full View(フル・ヴュー)」(ASIN: B001V7DJCW)に収録された”Born to Be Blue“も聴いてみて下さい。 ボーカルでは”You’d Be So Nice to Come Home To”のHelen Merrill(ヘレン・メリル)が1955年に録音、1961年にはNancy Wilson(ナンシー・ウィルソン)がThe George Shearing Quintet(ジョージ・シアリング・クィンテット)と吹き込んだそうです。
Born to Be Blue MOVIE
まんま! 2015年に「ブルーに生まれついて」というチェット・ベイカー映画が作られました。 これはチェット・ベイカーの大フアンである私が劇場で観た1968年のドキュメンタリー「Let’s Get Lost(レッツ・ゲット・ロスト)」とは違って俳優が演技をする映画です。 チェットを演じるのは多才な天才といわれるEthan Hawke(イーサン・ホーク)で以前から希望していた役だとか。 ちなみに1960年にNatalie Wood(ナタリー・ウッド)が主演した「All The Fine Young Cannibals(夜が泣いている)」では主人公のトランペッター役をチェット・ベイカーにオファーするも拒否されてRobert Wagner(ロバート・ワグナー)が演じたことがありました。

Deep in a Dream 1952
“My Funny Valentine”がチェット・ベイカーのヴォーカルとトランペット演奏の2バージョンとレアな”Petite Fleur(プティット・フルール)”も収録されているアルバムは「Deep in a Dream: Ultimate Chet Baker Collection」(ASIN: B0000658PC)です。
♪ 試聴はTDeep In A Dream: The Ultimate Chet Baker Collection – Bol.com
※ プティット・フルール(小さな花)はSidney Bechet(シドニー・ベシェ)が1952年に妻の誕生日に捧げた曲だそうです。

The Best of the Gerry Mulligan Quartet with Chet Baker
Bernie’s Tune、Walkin’ Shoes、Nights At The Turntable、Makin’ Whoopeeなどのスタンダードに定番の”My Funny Valentine”が収録されている1999年盤で、オリジナルは1952年にBlue Noteからリリースされたアルバムだそうです。 ジェリー・マリガンとチェット・ベイカーとのピアノレス・コンボで、メンバーはベースがCarson Smith(カールソン・スミス)など、ドラムはChico Hamilton(チコ・ハミルトン)が1年在籍の後にLarry Bunker(ラリー・バンカー)など。
The Best of the Gerry Mulligan Quartet with Chet BakerThe Best of the Gerry Mulligan Quartet with Chet Baker

♪ 試聴はThe Best of the Gerry Mulligan Quartet with Chet Baker – Mora.jp
50年代のロスアンジェルスを舞台にした犯罪映画「L.A. Confidential(L.A.コンフィデンシャル)」ではこのCDからThe Lady Is A TrampやMakin’ Whoopeeの他、女性をシビレさせたチェット・ベイカー(初期)のヴォーカルでLook For The Silver Liningが使用されました。
“The Lady Is A Tramp”はロレンツ・ハートが気の強いミュージカル女優のMitzi Greenのために書いた曲で、”Tramp”とは宿無しとかあばずれ女の意味があります。

Bird and Chet/Live at the Trade Winds 1955
チェット・ベイカーのドキュメンタリー映画「Let’s Get Lost(レッツ・ゲット・ロスト)」を観た頃に前後して、ジャズ好きのClint Eastwood(クリント・イーストウッド)が監督したチャーリー・パーカーの伝記映画「BIRD(バード)」も公開されました。 これも劇場に駆けつけて観た私でしたがチャーリー・パーカーもチェット・ベイカーも麻薬で苦しんでいたミュージシャンで、どちらも胸に迫るものがありました。 「バード」の方はForest Whitaker(フォレスト・ウィッテカー、もしくはフォレスト・ウィテカー)という俳優がバード(チャーリー・パーカー)を演じているので物語として観ることができます。 映画ではバードが倒れるまで演奏していた”Lover Man”をはじめ壮絶な人生を凝縮したような熱演が印象的でした。
アルバムですが、除隊後のチェット・ベイカーが既に著名なアルトサックス奏者となっていたチャーリー・パーカーのオーディションに合格して共演したオリジナルが1952年のカリフォルニアのTrade Winds Club(レストラン)で録音されたライヴアルバム「Inglewood Jam – Bird & Chet Live At The Trade Winds」だそうです。 トランペットを演奏したのはかけ出しのチェット・ベイカー、アルトサックスがチャーリー・パーカーとチャーリー・パーカーに影響を受けたアルトサックス奏者のSonny Criss(ソニー・クリス)、ピアノがAl Haig(アル・ヘイグ)とRuss Freeman(ラス・フリーマン)、ベースがHarry Babasin(ハリー・ババシン)でドラムがLarance Marable(ラレンス・マレイブル)でした。
Bird and Chet/Live at the Trade WindsBird & Chet / Live at the Trade Winds
♪ 試聴はBird & Chet / Live at the Trade Winds 16 June 1952 – レコチョク
Squirrel、Irresistible You、Indiana、Lizaの4曲を収録したCD「1952 Inglewood Jam」の国内盤は「イングルウッド・ジャム(紙ジャケット仕様)
♪ 試聴はイングルウッド・ジャム/バード & チェット・ライヴ・アット・ザ・トレード・ウィンズ 1952 – Diskunion.net

Chet Is Back!
ムショ帰りのチェット・ベイカーを待っていたのがイタリアでの録音でテナーサックスにはBobby Jaspar(ボビー・ジャスパー)が参加しています。 ボーナストラックとしてイタリア映画音楽の巨匠である「エニオ・モリコーネ」のオーケストラと共演しているチェット・ベイカーの歌4曲などを収録したアルバムは最近になってやっとアメリカでリリースされたそうです。 Chetty’s Lullaby、So Che Ti Perdero、Motivo Su Raggio Di Luna、Il Mio Domaniの4曲はチェットがイタリア語で歌っていますが、興味深いことにはチェットの裁判に同席したイタリア人の速記者がイタリア語の歌詞を書いたのだそうです。 特に”Chetty’s Lullaby”はチェット・ベイカーが息子を思って獄中で作曲した子守唄です。 なんと、チェット・ベイカーには妻子がいたのです! 最初の妻と別れたチェットが1956年に結婚したパキスタン人の奥さんとの間に出来た息子がいました。 ところがです、1964年にはイギリス女優とイタリアで結婚して二人の息子と娘が一人いるそうです。
Chet in Italia: Chet Is Back!Chet Is Back! CD (ASIN: B00008VGMX)
♪ 試聴はChet is Back! – レコチョク

The Incredible Chet Baker Plays And Sings
オリジナルはチェット・ベイカーのイタリア時代、1977年のミラノのスタジオで録音というレアなアルバムは廃盤になったようですが1993年及び1994年盤は入手可能らしいです。(ASIN ‏ : ‎ B07XW8DX28 MP3アルバムはB0818N9PKF) チェット・ベイカーが歌うAutumn LeavesやWhatever Possessed Meなど7曲が収録されていますが、演奏メンバーはヴォーカルとトランペットがチェット・ベイカー、ソプラノサックスとフルートがベルギーのサックス奏者のJacques Pelzer(ジャック・ペルツァー)、テナーサックスがイタリアのGianni Basso(ジャンニ・バッソ)、ピアノがBruce Thomas(ブルース トーマス)、ベースがイタリアのLucio Terzano(ルーチォ・マッシモ・テルツァーノ)、ドラムもイタリアのGiancarlo Pillot(ジャンカルロ・ピロ)だそうです。
♪ 試聴はThe Incredible Chet Baker Plays & Sings – チェット・ベイカー – レコチョク

ラヴ・ソング チェット・ベイカー
1987年に日本でRVCからリリースされたスウィング・ジャーナル・ゴールド・ディスクのLP盤ではありませんが、同じ曲目を収録した2006年リリースのCDは「ラヴ・ソング
♪ 試聴はChet Baker – ラヴ・ソング- Tower.jp

♪ 今丁度聴いているアルバムは、レアなチェット・ベイカーのFlugelhorn(フリューゲル)演奏が聴けるオリジナルが1965年の録音の「Stairway To The Stars」で”ノリノリのCherokee”やCarpsie’s Groove、スローなChabootie”などが収録されています。
Stairway to the Stars by Chet BakerStairway to the Stars
♪ 試聴はStairway to Stars – Prestomusic.com
1965年に欧州公演から帰ったチェット・ベイカーのセッションメンバーはテナーサックスのGeorge Coleman、ベースのHerman Wright、ドラムのRoy Brooks、そして「Everything Happens to Me」という自己名義のアルバムをリリースしているピアノのKirk Lightsey(カーク・ライトシー)です。

♪ Chet Baker – Goodbye (1959 Milano Sessions) (The Album includesI Should Care, Violets for Your Furs, Song Is You, When I Fall in Love, Goodbye, Autumn in New York, Angel Eyes, Street of Dreams, Forgetful, Deep in a Dream, Lady Bird, Cheryl Blues, and Tune Up, Line for Lyons)

チェット・ベイカー Chet Baker」への5件のフィードバック

  1. chat-baker より:

    初めまして、チェットの30年来のファンです。故に相当なコレクションがいつの間にか…でもここでも話題になってます’Arrivederci’、コレが残りの最終目標と思っていましたがなんと”Urlatori alla sbarra”に入っているとの言にビックリしました。ebayでそのビデオをイタリアから取り寄せ専門業者にCDに焼いてもらってituneからipodと密かに楽しんでましたが’Arrivederci’は入っていません。業者がミスったのでしょうか?長いから勝手にカットした?私には判りません。調べる必要がありそうです。確かに<http://www.imdb.com/title/tt0053401/soundtrack>にもあるようにこの映画にサウンドトラックとして入っているはずなのに焼いてもらったCDに入っていないー不思議です。

  2. chat-baker より:

    少々迷いましたが思い切って投稿します。作家片岡義男氏のラジオ番組で耳にして30年来の男性ファンでいつの間にかコレクターになっちゃいました。初回観て衝撃を受けつごう3回も九州から往復した大阪心斎橋のたもとのキリンホール。そこでの映画”レッツゲットロスト”の風に揺らぐヤシの木の葉っぱのモノクロ映像の美しさにも何度も涙を流しました。そんな想いの入ったこの映画のラストを飾った”Arrivederci”、当然Urlatori alla sbarra (1960年)に入っているはずだと確信してebayにてイタリアからVHSを取り寄せ万札を支払って専門業者にCDに焼いてもらいitune-ipodで楽しんで来ましたが入っていません。業者が勝手にカット?もとより違う映画に入っていた?-どうもよくわかりません。御教示頂けたら幸いなのですが…。

  3. koukinobaaba より:

    「chat-baker」さん、申し訳ありませんが私が観たUrlatori alla sbarraは本物のビデオではなくYouTubeなので確認のしようがありません。その時点では他のたくさんのイタリア歌手とチェットの”Arrivederci”を歌うシーンがアップされていました。今でもチェットのシーンを http://www.youtube.com/watch?v=tayaLb18Q7w で観ることができます。
    当ブログ内の記事「激しい季節」のようにビデオになるとあるシーンがカットされていることはままにあるようです。

  4. chat-baker より:

    koukinobaaba様へ
    何度も投稿しお騒がせしまして申し訳ありません。
    ebayにてDVDを入手して映画「レッツゲットロスト」にもエンディングに
    使用されていた’Arrivederci’を確認できました。
    PCにて間違いなく視聴できました。
    映画の撮影機材がデジタル化していないフィルムの時代の極上の
    モノクロ画質で観る事ができました。
    有り難うございました。

  5. koukinobaaba より:

    「chat-baker」さんが究極のチェットのアリベデルチをご覧になれてホッとしました。ドキュメンタリー映画の「Let’s Get Lost」は劇場公開された時すぐ観にいきました。

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