シドニー・ベシェ Sidney Bechet

シドニー・ベシェが若妻に捧げた小さな花
Sidney Bechet
(1897 – 1959)
ニューオリンズ出身のシドニー・ベシェはジャズ界で最初のソプラノサックスのソロ演奏をしたといわれヴィブラートの効いたアドリブで1940年代から人気を得ました。 1940年代後期にはニューヨークで白人クラリネットやサックス奏者のBob Wilber(ボブ・ウィルバー)とも共演しています。
1950年に再度フランスに渡ったシドニー・ベシェはその翌年に若いフランス女性と結婚したのですが数年後の自分の誕生日に62歳で亡くなりました。 1938年に録音した”Summertime”と共にシドニー・ベシェの作曲になる”Petite Fleur”は名曲となっています。 シドニー・ベシェは後のアルトサックス奏者のJohnny Hodges(ジョニー・ホッジス)に多大なる影響を与えました。

Sidney Bechet plays Petite Fleur(Small Flower)
J’ai cache
Mieux que partout ailleurs
Au jardin de mon cœur
Une petite fleur
「小さな花(プティット・フルール)」は日本ではPeanuts Hucko(ピーナッツ・ハッコー)のクラリネット演奏で1959年にヒットしましたが、私の心に残る”小さな花”はラジオから流れてきたヒットパレードの曲でした。 アメリカで1959年にビルボード入りした英国トラッド・ジャズのトロンボーン奏者のChris Barber(クリス・バーバー)が演奏したバージョンです。 このChris Barber’s Jazzbandが演奏する”Petite Fleur”でフィーチャーされたクラリネット演奏はシドニー・ベシェとGeorge Lewis(ジョージ・ルイス)の信奉者として知られるMonty Sunshine(モンティ・サンシャイン)でした。 このバージョンははBillboard Hot 100に入っています。 最近では2018年の「オーシャンズ8」でアン・ハサウエイとリチャード・アーミティッジが会うシーンで流れます。
モンティ・サンシャインをフィーチャーしたクリス・バーバー・ジャズバンドの曲では「Chris Barber and His Jazz Band: The Pye Jazz Anthology」(ASIN: B01N4QK719)というアルバムに収録された”Hushabye“も好きです。
Petite Fleur by Chris Barber’s Jazz Band 1959 – YouTube

黒人ミュージシャンの中でも最もひどい生活を送っていたのが道端で歌ったり演奏したりして小銭を稼いでいたブルースやR & Bのストリートミュージシャン達だったそうです。 かりにチャンスを得て歌を吹き込んでも煙草銭ほどの金額に甘んじていました。(レコードが売れても印税無し) しかしクラリネット奏者のシドニー・ベシェは演奏活動をする以前に家業の仕立て屋(テイラー)で成功していたので黒人のミュージシャンの中でもアル意味で上流階級だったそうです。 シドニー・ベシェはアメリカの大恐慌でニューヨークのハーレムにあった”コットン・クラブ”などが閉鎖された時は仕立て屋で生計を立てられたのだとか。

「小さな花」は、ニューオリンズの歴史的ジャズマンで、1940年代の終わりに二度目の渡仏をしたクラリネットやソプラノサックス奏者のシドニー・ベシェが、晩年の1952年に若い奥さんの誕生日を記念して贈った曲だそうです。 「小さな花」は先ずパリやヨーロッパで大評判となり、その後渡米して世界的に有名になった曲です。 フランス語の歌詞は”Luna Rossa(月への祈り)”で有名なFernand Bonifay(フェルナン・ボニファイ) & Mario Bua(マリオ・ブア)によって1959年に付けられました。
My Favorite Version – Sidney Bechet – Petite Fleur (LIVE from the Olympia Concert Paris 1954) – YouTube
Sidney Bechet – Petite Fleur (1952) – YouTube
☆小さな花の歌詞はPetite Fleur Parole – International LYRICS Playground

「小さな花(プティット・フルール)」はクリス・バーバーの他にもJohn Gill Band(トロンボーン奏者のジョン・ギルの楽団)、Edmond Hall(デキシー・クラリネットのエドモンド・ホール)、そしてジャズトランペット奏者のChet Baker(チェット・ベーカー)などクラリネットやトランペット奏者がこぞって演奏しています。 イタリアのGil Ventura(ギル・ヴァンチュラ)のテナーサックスやFausto Papetti(ファウスト・パペッティ)のアルトサックスのバージョンもセクシー!
Chris Barber with Monty Sunshine(cla.) 1956 – Petite Fleur – YouTube

The Best of Sidney Bechet
ページトップの画像のCDには”Petite Fleur”は収録されていませんが、”Summertime”や”St. Louis Blues”、”Basin Street Blues”、”Black and Blue”の他”Bechet’s Fantasy”など全18曲を収録した1994年発売のベスト盤CDです。
ちなみに私が好きなべシェの曲の中にべシェが作ったという1941年録音の”Egyptian Fantasy”があります。 ”エジプトの幻想”として2003年から始まったテレビ番組のオープニング曲として使用されていますがべシェの演奏ではなく、1986年に結成されたバンドのThe Klezmatics(クレズマティックス)の演奏のようです。 日本にも広まった東欧ユダヤ音楽のクレズマーは大抵はクラリネットとバイオリンの他トロンボーンも入っています。 酔いどれの感じがするのでしょうか。
試聴は「吉田類の酒場放浪記」オープニング曲
★シドニー・ベシェの”Egyptian Fantasy”は、この1994年販売の「The Best of Sidney Bechet」(ASIN: B000005GXB)と同名で2011年販売の試聴ができる15曲収録のデジタル・アルバム「Best of Sidney Bechet」(ASIN: B004Y1Y76Y)に収録されています。 ちなみに10曲収録した「酒場放浪記 サウンド・トラック」のTVサントラはASIN: B00ET821E2ですが試聴は無し。

Sidney Bechet Greatest Hits
“プティット・フルール”と”サマータイム”が収録されているシドニー・ベシェのCD
Greatest Hits Sidney Bechet Greatest Hits
試聴はGreatest Hits – CD Universe

Petite Fleur
パリ時代の演奏を収録した日本盤(Bmg Japan)で海外にも輸出されて評判のCD(2000年盤)にはジャズ・スタンダードのカバーとニューオリンズ・ジャズの「Tin Roof Blues(ティン・ルーフ・ブルース)」を収録してあります。
Sidney Bechet Petite Fleur/小さな花小さな花 Original recording remastered
(アルバムカバー画像の写真が「Blues In My Hea」や「V4 1943-1952: House Party: Ori」や「Complete Blue Note Recordings(The Complete Blue Note Recordings Of Sidney Bechet)」と同じの2000年販売のCDは超ヴィンテージ価格ですが試聴あり)
ヨーロッパのレーベルのQuadromania Jazz(クワドロマニア)から「Petite Fleur」というタイトルの4枚組み輸入盤アルバムもリリースされています。
“Tin Roof Blues”はWalter Melrose(ウォルター・メルローズ)と1920年代のシカゴジャズの人気バンドだったNew Orleans Rhythm Kings(ニュー・オルリンズ・リズム・キングス)のコルネット奏者のPaul Maresが編曲したという代表的な曲ですが、Louis Armstrong(ルイ・アームストロング)の演奏でも知られています。

Art Tatum Trio and Sidney Bechet
シドニー・ベシェのアルバム”Tropical Mood”、”Caribbean Music Roots”、”Sidney Bechet: Selected Favorites, Vol.16″、” Productinformatie Classics 1938-1940 – Sidney Bechet “などに収録されている南米の伝統的音楽のTropical Moon(トロピカル・ムーン)が聴けるシドニー・ベシェとThe Art Tatum(アート・ティタム)とのセッション盤
The Art Tatum Trio and Sidney BechetThe Art Tatum Trio and Sidney Bechet
全曲試聴はSidney Bechet / Art Tatum – Allmusic.com

Tropical Mood Meringue
☆Glenn Miller(グレン・ミラー)の音楽に加えて、シドニー・ベシェが作曲したTropical Mood Meringueが1980年のWoody Allen(ウディ・アレン)が監督及び主演した「Stardust Memories(スターダスト・メモリー)」のサウンドトラックで使用されています。 Charlotte Rampling(シャーロット・ランプリング)も出演したアレンの白黒映画は1963年にFederico Fellini(フェデリコ・フェリーニ)が監督した「8 1/2」へのトリビュートと云われています。 あえてモノラルにしたという「スターダスト・メモリー」のサントラはウディ・アレン自身のレコードコレクションから、Django ReinhardtのI’ll See You in My Dreams、Dick HymanのHebrew School Ragなどスタンダードジャズを選んだそうですが、シドニー・ベシェが演奏するTropical Mood MeringueはイギリスのAmazon.co.ukのMP3アルバムで試聴できます。
Tropical Mood Meringue (Woody Allen’s Film Stardust Memories) – Amazon.co.uk

Jazz Greats
“Petite Fleur”や”Summertime”や”Saint Louis Blues”などを収録したオリジナルのレコードでは1949年から1958年の音源という「Jazz Greats」があり、1998年のCDが販売されています。 ジャケット(カバー画像)がユーモラスなカリカチュアでお洒落です。 2003年発売のCD(ASIN: B000024X9A)の試聴はSidney Bechet: Jazz Greats – Jpc.de

廃盤
ピーナッツ・ハッコー・オール・スターズ/ベニー・グッドマンに捧ぐ(25R2-47)
ピーナッツ・ハッコー・オール・スターズ/ルイ・アームストロングに捧ぐ(25R2-46)
☆「小さな花」ではありませんが、1945年パリでの録音でPeanuts Hucko(ピーナッツ・ハッコー)とDjango Reinhardt(ジャンゴ・ラインハルト)をフィーチャ-したGlenn Miller(グレン・ミラー)楽団の演奏メドレーの他にHenri Rene(アンリ・レネ)のアレンジもお洒落ですが、「小さな花」はスウェーデンのインスト・グループのThe Sputoniks(スプートニクス)までが「スプートニクス:永遠のスプートニクス・ベスト:哀愁のジャパニーズ・ヒット・メドレー(ASIN: B0002S8BCE)」や「ベスト!/ザ・スプートニクス」や「霧のカレリア~ベスト・オブ・スプートニクス(ASIN: B0000566Q2 )」などで演奏しています。
アンリ・レネのPetite Fleurが収録されているのは私の大好きなアルバム、楽しいパリを舞台にした映画音楽風のラウンジミュージックの「Bachelor in Paris: Ultra Lounge 10」(ASIN: B000002U23)で試聴は「Ultra-Lounge, Vol. 10: A Bachelor in Paris

Peanuts Hacko with Helen Ward
「鈴懸の径」が聴ける!(2007年発売)
ピーナッツ・ハッコーのバンドをバックに歌うスイング王のBenny Goodman(ベニー・グッドマン又はベニイ・グッドマン)楽団専属歌手だったHelen Ward(ヘレン・ウォード)のRCA時代の録音から20曲を収録したオリジナルが1958年というピーナッツ・ハッコー・ウィズ・ヘレン・ウォードのスゥイングアルバムは試聴ができる「With A Little Bit Of Swing(ウィズ・ア・リトル・ビット・オブ・スウィング)」(ASIN: B000SM6ZM2)です。
参考に2007年7月からリリースが開始されたRCAの女性ジャズヴォーカル・シリーズについてはCDJournal.com – RCAの女性ジャズ・ヴォーカル20W、リマスター&1,000円で登場

★ ちなみに私が持っている”Petite Fleur(小さな花)”のレコードは1953年鈴木章治の”鈴懸の経”で有名になったクラリネットのPeanuts Hucko(ピーナッツ・ハッコー)とBob Crosby and His Orchestra featuring the Bob Cats(ボブ・クロスビー&ボブキャッツ)の演奏です。 B面はクラリネット奏者でもあるBill Stegmeyer(ビル・ステグマイヤー)が作詞・作曲したヒット曲でSuch A Long NightをCha-Cha-Chaのリズムで演奏しています。

シドニー・ベシェのCDではこれがいいかも!試聴が出来る2000年にリリース、2001年販売の2枚組CDでガーシュインのSummertimeやべシェ自身の作曲した楽曲など全45曲を収録しています。べシェが作った”Viper Mad”や作者不明のSt. James InfirmaryやKokomo ArnoldのMilk Cow Bluesなど何曲かはボーカル入り。お試しあれ!
Shake 'Em UpShake ‘Em Up

Sidney Bechet Quintet – Summertime – 1939 Blue Note 78 rpm – YouTube
シドニー・ベシェの1920年代から1940年代の名演奏が聴けるSidney Bechet – Jazz On Line(Sidney Bechetで検索、曲名をクリック – http://jazz-on-line.com/pageinterrogation.php?keymatrix=&keylabel=&keyartist=Sidney+Bechet&keyword=&keyyear=&keycatNumber=&B1=Submit)

Annes Bechet by Sidney Bechet
シドニー・ベシェのCD情報はアルバム・カバー画像が見られるMLes années Bechet – Les Originaux Petite Fleur

シドニー・ベシェの演奏ではありませんが”Wheels(峠の幌馬車)”で知られたThe Billy Vaughn Orchestra(ビリー・ヴォーン楽団)のPetite Fleur(小さな花)が1999年の癒し系女優と呼ばれるJeon Do-yeon(チョン・ドヨン)が主演したハッピーエンドじゃないシュールな韓流エロティックサスペンス映画「Haepi-endeu(Happy End/ハッピーエンド)」のエンディングクレジットで使用されています。 チョン・ドヨンは2003年にヨン様(Yong-jun Bae/ペ・ヨンジュン)の「Untold Scandal(スキャンダル)」にも出演しています。
ビリー・ヴォーンの”小さな花”が収録されているアルバムは「The Best of Billy Vaughn」ではなく、試聴ができる「ビリー・ヴォーン楽団のすべて」(COLEZO!TWIN ビリー・ヴォーン楽団 ASIN: B000BONQ1U)で邦題の曲目が見られます。

愛妻に捧げた曲、聴いてくれた?
Sidney Bechet

シドニー・ベシェ Sidney Bechet」への2件のフィードバック

  1. kazuaku より:

    54歳の男性です。小学生の頃、住んでいる田舎では数少ない、いや唯一のデパートへ親に連れて行かれたとき、BGMで流れていた曲が「小さな花」でした。これは後にザ・ピーナッツが歌っていたので曲名は知っていたのですが、あのときデパートで流れていた曲そのものを聴きたいと思い、検索したところ、ここまで詳しく紹介してくれているサイトがあるとは感激です。
     また、何の縁か、私はジャズが好きで、シドニー・ペジェの名前は知っていたのですが、まさかジャズマンの作曲、そして私が生まれる1年前に作られた曲とは、ますます感激しました。私がデパートで聴いた曲は、クリス・バーバーでした。
     詳しい紹介に脱帽と感謝。

  2. koukinobaaba より:

    kazuakuさん同様に私も「小さな花」が大好きです。私がピーナッツ・ハッコーのバージョンを買った1950年代にはシドニー・ベシェのことは何も知りませんでした。 ♪ザ・ピーナッツがデビューした「可愛い花」も大好きです。

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