ヘレン・ケイン Helen Kane

The Boop‐Boop‐a‐Doop Girl: Helen Kane (1904 – 1966)
漫画”ベテイ・ブープ”のモデルはヘレン・ケインです! Boop Boop Bee Doop!という文句が入っている歌「I Wanna Be Loved By You(アイ・ウォナ・ビー・ラヴド・バイ・ユー)」は、元祖「 Boop Boop Bee Doop!」といわれる1920年代~1930年代頃に人気だった歌手で喜劇女優のHelen Kane(ヘレン・ケイン又はヘレン・ケーン)が出演した1928年のブロードウエイ・ミュージカル「Good Boy」で歌われた曲です。 コミカルに幼女の声色で歌った Boop Boop Bee Doop!は当時のFlapper(フラッパー)のトレードマークとなりました。 電話のピッポッパ(Beep boop beep)という音にも使用されるBOOPは可愛い感じを表しているのでしょう。 赤ちゃんも喜びます。
フラッパーとは1920年代((Roaring Twenties/ローリング20s))に流行った新しいタイプの若い女性のことです。 ファッションはというと、フランスのデザイナーであるココ・シャネルに代表される”ギャルソンヌ”に類似した丈の短いスカートをはいて髪型はボブヘアのギャルソンヌ・ルック(garconne)とでもいうのでしょうか、酒や煙草をたしなむようなタブーだった行為を得意げにひらけかしました。 世の東西を問わず女性の命と呼ぶべき長い髪をバッサリと切って男性のように活発になった、いわゆる時代の先端を行く不良少女又はモダンガールです。(日本でもモガと呼ばれました)
☆ Boop Boop Bee Doop!(プップッビドゥ~!)とは「I can’t get no satisfaction.(うんもう、つまんない~)とか(満足できない〜)」の意味を含んでいるのだそうですが、気まずい雰囲気を破る時にもふざけて使うとか。
Boop-Boop-A-Doop!はBoop-Oop-A-DoopとかBoop-Boop-Ee-Doop、Boop Boo Be Doopなどとも書き表します。

I Wanna Be Loved By You……Boop Boop Bee Doop!
後に「Dr.Strangelove Or: How I Learned To Stop Worrying And Love The Bomb(博士の異常な愛情)」のラスト水爆シーンで”We’ll meet again(また会いましょう)”が流れた第二次世界大戦時にイギリス軍の人気歌手だったVera Lynn(ヴェラ・リン)やFred Astaire(フレッド・アステア)が出演した1950年のミュージカル映画「Three Little Words(土曜は貴方に)」で、ヘレン・ケイン役を演じたDebbie Reynolds(デビー・レイノルズ)の吹き替えとしてヘレン・ケイン自身が歌っていますが、この「貴方に愛されたいのに」という曲は1959年の映画「Some Like It Hot(お熱いのがお好き)」でMarilyn Monroe(マリリン・モンロー)がカバーしたバージョンの方が知られています。 「お熱いのがお好き」ではマリリン・モンローが扮するクラブ歌手のシュガーが劇中でコミカルというよりはセクシーに歌っています。
videoデビー・レイノルズの”プップッビドゥ~!”が見られる「土曜は貴方に」のトレーラーはThree Little Words (1950) Trailer – IMDb
☆ マリリン・モンローの”I Wanna Be Loved By You”が聴けるAudio-Visual Trivia内の「お熱いのがお好き

Helen Kane as Betty Boop
1930年代になって、ニューヨークのアニメーション制作会社「Fleischer Studios(フライシャー・スタジオ)」がBoop Oop a Doop Girlのヘレン・ケインの髪型や声をモデルにした漫画のベティちゃん「Betty Boop(ベテイ・ブープ)」を制作したそうです。 そのベティちゃんはカールした髪、イヤリング、左脚のガーターベルトが特徴の漫画にしてはウルトラセクシーなキャラクターです。 漫画の声を吹き替えた声優は何代か替わりましたが、ヘレン・ケインのそっくりさん優勝者だったMae Questel(メー・ケストル)が最長だそうです。 人気漫画「ポパイ」の恋人でのっぽのオリーブオイルの声も担当したメー・ケストルは1932年のベテイ・ブープ映画「Let Me Call You Sweetheart(恋人と呼ばせて)」ではテーマ曲を歌ったEthel Merman(エセル・マーマン)と共演しています。 ”恋人と呼ばせて”という曲ははブロードウエイのダンサーだった日系アメリカ人の川畑文子(Fumiko Kawabata)が二世ジャズシンガーとして1933年に日本で吹き込んだそうです。
☆ アルバム「Betty Boop: Boop-Boop-Be-Doop」(ASIN: B000008DOO) からメー・ケストルが歌う”Do Something”が聴けるwfmuラジオのプレイリストは「Playlist for Irwin – April 2, 2003」(Listen to this show (RealAudio)をクリックしてクリップ・ポジション(再生バー)を中ほどの2:32:52に移動)

ベテイ・ブープ伝 (1988年)
ベティ・ブープ・カートゥーンを紹介したとしてその功績が讃えられている昭和63年に発行された筒井康隆氏の単行本「ベテイ・ブープ伝」は絶版になってしまい、古書として探す他はなかったのです。 1980年代になってベティさんが「ベティ・ブープ伝―女優としての象徴 象徴としての女優」(ISBN-10: 4120016838)として再浮上したのですが現在は再び入手困難。
☆ベティちゃんの漫画については漫画の音楽を担当し自らも面白いパーフォーマンスを見せたCab Calloway(キャブ・キャロウェイ)

Get Out and Get Under the Moon
「月光値千金」という曲は 1929年の”When You’re Smiling”で知られたLarry Shay(ラリー・シェイ)がCharles Tobias(チャールス・トビアス)とWilliam Jerome(ウィリアム・ジェローム)と共同で作ったポピュラーソングです。 1928年に最初にヘレン・ケインが吹き込みましたが、同年にMildred Bailey(ミルドレッド・ベイリー)と共演したPaul Whiteman’s orchestra(ポール・ホワイトマン楽団)も演奏しています。 Get Out and Get Under the Moon(月光値千金 – げっこうあたいせんきん)として日本で通称「エノケン」と呼ばれた榎本健一が昭和11年に吹き込んでいます。 その後もMGM専属になった作曲家のLarry Sher(ラリー・シェイ)にひっぱられたBing Crosby(ビング・クロスビー)やNat King Cole(ナット・キング・コール)などが歌いました。
「エノケンの月光値千金」はビング・クロスビーの大ファンだったジャズ歌手で巨漢コメディアンの岸井明が”月に告ぐ(お月様おいくつ)”として訳詞をして自身も歌ったそうです。(私が観た映画は「少年猿飛佐助」の三好清海入道) 白塗りの顔にギョロ目の榎本健一(1904~1970)が1936年(昭和11年)に発表した「エノケンのダイナ」(ダ~ンナ!飲ませてちょ~ダイナ!……愛してちょ~ダイナ!)もスゴイです。 新宿コマ劇場で「エノケンの法界坊」などの当たり役を演じた人気者でしたが1962年(昭和37年)に右足切断にもめげずその後も松葉杖で舞台に立ちました。 晩年のエノケンさんは歌詞と歌詞の間に咳払いのような合いの手を入れるのですが、これがリズム感が良くてとても素晴らしく感心した思い出が有ります。(私が聴いたのは1950年代後期) 「月光値千金」という素晴らしい曲名は当時の演劇関係者の伊庭孝氏が漢詩から取り入れたのだとか。

Boop-Boop-A-Doop CD
ページトップの画像は2004年に発売された元祖”Boop”のヘレンケインのアルバムで、I Wanna Be Loved By YouとGet Out and Get Under the Moonが収録されているモノ録音盤ですが、現在は入手困難となりました。
Boop-Boop-A-Doop by Helen KaneBoop-Boop-A-Doop: 27 Original Mono Recordings 1928-1951

♪ 試聴はBoop-Boop-A-Doop – CDandLP.jp
“I Wanna Be Loved By You”の歌詞はI Wanna Be Loved By You Lyrics – Genius.xom
“Get Out and Get Under the Moon(月光値千金)”の歌詞もGet Out and Get Under the Moon Lyrics – Genius.com

The Original “Boop-Boop-a-Doop” Girl, Classic Years — 1928-1930
Boop-Boop-A-DoopClassic Years — 1928-1930: Boop-Boop-A-Doop Girl
このCDは現在入手困難となり他に2009年発売の「Boop-Boop-A-Doop’ Girl」というCDや試聴の出来るMP3アルバム(ASIN: B004L9CDFG)がありますが曲目は多少違っています。

ヘレン・ケインは10年間も乳がんと闘いましたが1966年に62歳で亡くなりました。 同じ病気で亡くなった有名な女優にはCharles Bronson(チャールス・ブロンソン)と結婚歴があるJill Ireland(ジル・アイランド)、Rosalind Russell(ロザリンド・ラッセル)、Susan Strasberg(スーザン・ストラスバーグ)、Ingrid Bergman(イングリッド・バーグマン)、Bette Davis(ベティ・デイヴィス)、イタリア女優のSylva Koscina(シルヴァ・コシナ)などがいます。

Ebonics’ double negative
黒人英語の二重否定
“Boop Boop Bee Doop”が意味する「I can’t get no satisfaction(メッチャ満足できない)」のように否定語を2度重ねるこの否定文は本来の英文法には無く、米国内の特に南部の黒人によって使われた訛った黒人英語のEbonics(エボニックス)らしいですが、Rolling Stone(ローリング・ストーンズ)の歌で一般的になったそうです。(で、どういう意味? 満足なんてできねえ!) ストーンズの歌詞では二重否定ではなく後のNOは繰り返すことによる強調だとか。
エルヴィス・プレスリーなどが歌うハウンド・ドッグの歌詞にある‘ain’t nothing but’は二重否定形なのに、「お前はまったくの女たらしだ。」という意味だそうです。 つまり、積極的肯定を表す二重否定なんだそうだ。(?うっう、強い否定文じゃないのか?)