ルイ・マル ダメージ Louis Malle’s Fatale (Damage) (1992)

ジュリエット・ビノシュのファム・ファタル
Juliette Binoche dans Fatale par Malle Louis
Les etres qui ont souffert sont dangereux,
parce qu’ils savent qu’ils peuvent survivre

既に傷ついた人々は危険である。
なぜなら切り抜けられることを知っているから
Damage (1992年)

「ダメージ」は英国の作家であるJosephine Hart(ジョゼフィン・ハート)が書いた1991年の小説「Damage」を映画化したLouis Malle(ルイ・マル)監督の英・仏作品です。(ジョゼフィン・ハートは2011年6月に逝去) よってフランス語のタイトルは”Fatale”ですが英語のタイトルは”Damage”です。 出演はDr. Stephen Fleming(スティーブン・フレミング)にJeremy Irons(ジェレミー・アイアンズ)で、その息子の恋人のAnna Barton(アンナ)にJuliette Binoche(ジュリエット・ビノシュ)で、アンナの母親のElizabeth Prideaux役でLeslie Caron(レスリー・キャロン)が出演しています。 フレミング氏の妻役のイギリスの演技派女優のMiranda Richardson(ミランダ・リチャードソン)がアカデミーやゴールデン・グローブでノミネートされました。 ミランダ・リチャードソンは2004年のThe Phantom of the Opera(オペラ座の怪人)ではボックス席案内人のMadame Giry(マダム・ジリー)を演じます。

厳しい父親に育てられ自分を出す事をしないで生きて来た政治家と少女時代にダメージを受けてここまで生き延びてきた女、この二人が一人の男性の父親とフィアンセとして出会った時、禁断の恋が芽生える。
「あなたと会えるからあなたの息子と結婚するのよ。」と囁かれ、息子の恋人と恋に落ちて破滅する政治家の話で、不倫の二人が格闘技並みのラブシーンを熱演する映画です。 嘘か真か、撮影中にジェレミー・アイアンズがラブ・シーンで激しく燃え過ぎてしまい、ジュリエット・ビノシュが怒って出て行ってしまったという話も伝わったとか。(ビノシュの艶技すごっ!) 映画史上、実演の「In the Realm of the Senses(愛のコリーダ)」や「9 Songs(ナイン・ソングス)」や「Wild Orchid(蘭の女)」は別として真面目に演技したベッドシーンとしてはナンバーワンといえそうに迫真の演技でした。 ジュリエット・ビノシュみたいに魅力的な女性なら”どんな”男性だってその気になるでしょう。
狂った父親の教授が息子の嫁との逢瀬を耐えているのはまさに麻薬患者の禁断症状。 それにしてもこのラヴシーンともベッドシーンとも呼べない程の激しいセックスシーンに気を取られてもおれません。 もし貴方がスティーブンの妻だったら、もしあなたがスティーブンの息子だったら。
家庭が崩壊していくのほどの狂った愛欲の饗宴劇がおぞましく繰り広げられます。 ちなみに美貌の女性の罠にはまる男の話といえば、2004年の「Sotto falso nome(そして、デブノーの森へ)」(Le prix du désir)ではJerzy Novak(セルジュ・ノヴァク)というペンネームで高評を得るも私生活を隠した作家のDaniel Brodsk(ダニエル)再婚する相手でグレタ・スカッキが演じるイタリア女のニコレッタの連れ子(義理の息子)の結婚式に列席するための船旅で出会った若い女性ミラと運命の一夜をともにします。 ところが息子(義理の)の花嫁がその女性ミラだったのですがこれが仕組まれた罠だったのか。 執拗にダニエルを誘惑した息子の嫁のミラはファムファタールというよりは同郷の友人でポールの娘エヴァの仇討ちに加担したのでしょうか。 ダニエルが発表した最初の作品は若くして自殺した亡きポールのものだったからと。 いづれにせよミラが出現しなければダニエルが一切合切を失うことはなかったのか、何があろうと親友ポールとダニエルとの秘密が世に出てしまえばこのようか結果になるのかも。 デブノーの森のポールの隣に眠ったダニエル。

ジェレミー・アイアンズは舞台出身のイギリス俳優で、主役ではありませんでしたが1979年のロシアのバレーダンサーの悲劇「Nijinsky(ニジンスキー)」でデビューしましした。 評価の割れたMarcel Proust(マルセル・プルースト)原作の難解な「A la recherche du temps perdu(失われた時を求めて)」の一巻の映画化で、1983年のとてつもなく美しいフランス映画「Un amour de Swann(スワンの恋)」では爵位のない紳士シャルル・スワンを見事に演じました。 1983年にドイツのVolker Schlondorff(フォルカー・シュレンドルフ)が1979年の「Die Blechtrommel(ブリキの太鼓)」の後に監督したこの「スワンの恋」ではゲルマント公爵夫人を演じたFanny Ardant(ファニー・アルダン)とゲイのシャルリュス男爵を演じたフランス俳優のAlain Delon(アラン・ドロン)と「Mort d’un pourri(チェイサー)」でも共演したイタリア女優のOrnella Muti(オルネラ・ムーティ)もオデット役で出演しています。 映画の冒頭でスワン(ジェレミー)が高級娼婦オデット(オルネラ・ムーティ)の見事な胸元のカトレアに顔を埋めるシーンが秀逸。
ジェレミー・アイアンズはその後もトニー賞、エミー賞やアカデミー主演男優賞とゴールデン・グローブ最優秀主演男優賞などを受賞した演技派です。 「ダメージ」の後の1993年には1996年の「Crash(クラッシュ)」も監督しているDavid Cronenberg(デヴィッド・クローネンバーグ)の禁じられた恋を描いた「M. Butterfly(エム・バタフライ)」でフランス外交官を演じています。(ジェレミー・アイアンズの女装は?だけどジョン・ローンの女装がすごい!) ジェレミー・アイアンズはあまり印象的ではありませんでしたがBernardo Bertolucci(ベルナルド・ベルトルッチ)が監督する1996年のLiv Tyler(リヴ・タイラー)観賞映画「Stealing Beauty(魅せられて)」(戦後コクトー作品で活躍したJean Marais(ジャン・マレー)最後の映画)や、1997年では禁断の恋で物議をかもし出した「Lolita(ロリータ)」での教授役が素晴らしかった。 最近でも2004年の「ヴェニスの商人」などに出演しています。

不倫現場を目撃したショックで階段から落ちて死亡した息子を追ってジェレミー・アイアンズ一糸纏わぬ姿で駆け寄り抱きかかえる一方、きちんと外出着に着替えたジュリエット・ビノシュですが現場を一瞥すると放心した様子で通り過ぎて外へ出て行ったのです。 そこで刑事がジェレミー・アイアンズの問いかけます。 「本当に息子さんはあなた方の不倫を知らなかったのですか?」 この刑事を演じているのが1993年にMike Leigh(マイク・リー)が監督したNaked(ネイキッド)で主人公を演じてカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞したDavid Thewlis(デヴィッド・シューリス)です。 家庭は崩壊し一人国外で失ったアンナと息子と一緒の写真を毎日眺めて暮らす詫びしいスティーヴンス。 一方アンナは過去に一度別れた恋人と子どもを設ける普通の結婚をした普通の女だった。 なんであんな普通の女にスティーヴンは狂ったのか。

video「ダメージ」のトレーラーはDamage Trailer – VideoDetective
Juliette Binoche in Damage (Louis Malle, 1992) – Tailer – YouTube

ジュリエット・ビノシュの母親役を懐かしき1951年のミュージカル映画「An American In Paris(パリのアメリカ人)」のLeslie Caron(レスリー・キャロン)が演じます。

Quand une passion devient… Fatale
(情熱が逸脱すると・・・致命的)

「Fatal(フランス語)」は致命的で、「Damage(ダメージ)」は「傷がつくこと、汚れること」の意味・・・「傷を負った者は癒す方法を見出す・・・そして、時として致命的なダメージは快感となり憧れともなる」 ??? 若い頃に厳格に育てられた将来有望な政治家と少女時代に実兄との禁断の関係を結んだ女。(そのせいで兄が自殺したと思っている)

ルイ・マルの1957年の衝撃的な監督デビュー作品「Ascenseur pour L’echafaud(死刑台のエレベーター)」も狂恋の果ての殺人事件で、次作の1958年の「Les Amants(恋人たち)」も「死刑台」と同じくJeanne Moreau(ジャンヌ・モロー)が主演していますが映画史上最高の不倫名作でした。 その後、アメリカでの第一作1976年のロリコン映画1978年の「Pretty Baby(プリティ・ベビー)」で路線を変え、同じく制作から脚本及び監督した自伝的な1987年の「Au revoir les enfants(さよなら子供たち)」を経て、晩年に本来の不倫の「ルイ・マル」に戻ったのがこの作品だといわれます。 私的には異色といえば1960年のドタバタ喜劇「Zazie dans le métro(地下鉄のサジ)」が印象に残ります。

2006年発売のDVD
Damage DVDダメージ

1999年発売のDVD
Louis Malle's Fatale DVDダメージ

ダメージ 書籍
愛を問いなおすジョゼフィン・ハートの小説(日本語 単行本)
Damage Bookダメージ
この他、1993年に文藝春秋が出版した「ダメージ」(ISBN-10: 416313820X)や文庫版(ISBN-10: 4789717836)もマーケットプレイスで1円からあります。Kindle版はASIN: B00Q7ZITQO

☆人気のある「ダメージ」のサウンドトラックはZbigniew Preisner(ズビグニエフ・プレイスネル)の美しい音楽で、1992年の第18回LA批評家協会賞で音楽賞を受賞したという悲しみと絶望を表現するミステリアスな室内楽とジャズの融合です。 が、この輸入盤も国内盤(ASIN: B000064EMJ)共に現在は入手困難です。
「ダメージ」のサウンドトラックCD、”Damage (OST)”
Damage SoundtrackDamage: Original Motion Picture Soundtrack (ASIN: B0000014T8)
Performed by The Symphonic Orchestra of Varsovia – conducted by Wojciech Michniewski, Lead Cello – Zdzislaw Lapinski Lead Piano – Konrad Mastylo, Jazz music by Tomasz Stanko Group
ビノシュの映画では「トリコロール」三部作を手掛けたポーランド出身のズビグニェフ・プレイスネルが音楽を手掛けたサントラの試聴はDamage Soundtrack – CD Universe
曲目は序章に始り、密会、アンナ、離れられない関係、2人のアパート、悲劇の結末、愛の代償、ダメージ、エンド・タイトルなどの全21曲です。

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ルイマル監督のデビュー作は死刑台のエレベーター(1957年)
ルイマル監督の作品はルシアンの青春(1973年)