愛をつづる詩 ’Yes’ by Sally Potter (2004)

Simon Abkarian as He and Joan Allen as She in Sally Potter's Yes
愛をつづる詩(うた)(2004年)

He: Forgive my question, but are you alright?
She: I’m fine, thank you.
He: Are you sure?
She: Yes, quite.
監督のサリー・ポッターはこの映画「愛をつづるうた」の主人公のセリフを非日常的な韻文詩の形で表現する方法を試みています。 まるで、シェークスピア劇のように。

イギリスの女流作家であるVirginia Woolf(ヴァージニア・ウルフ)の原作を革新的に大河ドラマ的に映画化した1992年の映画「Orlando(オルランド)」で名監督と評判が高いイギリスのSally Potter(サリー・ポッター)女史が脚本も手掛けた映画的抒情詩「愛をつづる詩(Yes)」は宗教や政治も含む異文化の交流をテーマとするホロ苦いロマンス・ドラマです。

サリー・ポッター監督は、2001年9月11日の同時多発テロによって起こった「誰かを悪者にする」流れに歯止めをかけたいという想いからこの映画の筋書きを考えついたそうです。 さらにミニマル芸術の作曲家であるPhilip Glass(フィリップ・グラス)が作曲した”Paru River(ブラジル北東部の河のこと)”が映画「愛をつづる詩」の構想にあるヒントを与えたのだそうです。

河は流れる → 詩である台詞は河のごとく流れ、溢れ出て → 氾濫を招く

主人公のカップル”She”と”He”を西洋と中東の象徴としているそうです。 2001年9月11日、ニューヨークの同時多発テロ以降、深く根付いたアラブ世界との断絶を埋めるかのように、西洋と中東との現代の相違及び混乱を描いています。 テロリストと根深い関連のある紛争の地として、二人の主人公の祖国はそれぞれ、Belfast(Sheの祖国は北アイルランドのベルファスト)とBeirut(Heの祖国はレバノンの首都ベイルート)に設定されています。

Yes by Sally Potter
“He” placing his curly-haired head on “She”‘s silk lap. – Sally Potter’s “Yes”

「愛をつづる詩」の主人公達に特定の名前は有りません。 思わせぶりに代名詞(人称)の「She(彼女)」と「He(彼)」となっています。 このような設定は、公開当時の日本では「二十四時間の情事」でしたが1959年にAlain Resnais(アラン・レネ)が監督した「ヒロシマモナムール(Hiroshima mon amour)」 にあったと記憶しています。
既婚のアイルランド系アメリカ人の女性科学者であるShe(Joan Allen ジョアン・アレン)は結婚生活(夫)に息詰まりを感じています。 そんな時夫婦で出かけたロンドンのレストランで、亡命中でレストランで働いている中東レバノン人の外科医であるHe(Simon Abkarian サイモン・アブカリアン)と出会います。 二人は『一目合ったその日から、恋の花咲くこともある』とばかりに、人種の壁を超えた情熱的な恋へと発展します。 さて、二人の共通点は? 祖国のテロ? 宗教は? 人生観は? そして、その他は?
ロンドンからベルファストとベイルート、 ハバナへと辿る大人の恋物語です。

イエスともノーともつかない返事、そう、「場合によっては。。。」というどっちともとれる、あるいはどっちも意味しない、又は分析はしても判断をしていない答え、「Yes」 and 「No」

She: ちょっとサリー・ポッター似のアメリカ女優のジョアン・アレンは「二十日鼠と人間」に出演したゲイリー・シニーズやジョン・マルコビッチと共にシカゴのSteppenwolf Theatre Company(ステッペンウルフ劇団)(1976年)設立メンバーの一人だそうです。

He: アルメニア人俳優のサイモン・アブカリアンは2002年にAtom Egoyan(アトム・エゴヤン)監督の「Ararat(アララトの聖母)」でアーシル・ゴーキーを演じましたが英語での映画出演は初めてだそうです。

The Husband: 「She」の夫(Anthony)で妻に裏切られるイギリスの政治家という難しい役を演ずるのは1993年の「Jurassic Park(ジュラシック・パーク)」で考古学者のグラント博士を演じた北アイルランド生まれのSam Neill(サム・ニール)です

The Cleaner: そしてもう一人はShirley Henderson(シャーリー・ヘンダーソン)が扮する歌舞伎の黒子的登場人物がいます。 ストーリーの解説者としての”She & The Husband”夫婦宅、East Endの掃除婦のThe House Cleanerです。 映画の中でのツアー・ガイドとして、「家政婦は見た! 」のように彼らの生活を覗き見ては、人生の不完全性について哲学的に皮肉っぽく考察します。

video「愛をつづる詩」のオフィシャル・サイトは「Yes – Official Site」ですが現在は予告編は観られません。
アメリカでは2005年にニューヨークとロスアンゼルスで公開されましたが、日本公開も同年10月です

Yes DVD
2006年発売の「愛をつづる詩(うた)」のDVD
Yes - DVD愛をつづる詩(うた)

Yes Soundtrack
「愛をつづる詩」ではこれまでにサウンドトラックでも定評のあるサリー・ポッターが、過去4作品でも演奏しているギタリストのFred Frith(フレッド・フリス)と共同で「愛をつづる詩(Yes)」のオリジナル曲の”Pink Shoes”(試聴6番)などを作曲しています。
フレッド・フリスについてはFred Frith – CANTERBURY ALBUM CATALOG- Rock Bottom
サントラでは「愛をつづる詩」のテーマに基づき、ブルースからクラシック、ラテンと多種の音楽を織り交ぜてアレンジしていますが、この映画のテーマ曲は冒頭で述べたようにアメリカの作曲家であるPhilip Glass(フィリップ・グラス)のParu River(パル・リヴァー)で、Uakti(ワクチ、又はウアクチ)が演奏する前衛音楽です。 「ワクチ」とは配管パイプやゴムチューブなどの日用品で作った創作楽器により独特の音楽を生み出すブラジルの5人異色パーカッション楽団だそうです。
「愛をつづる詩」のサウンドトラックで他にも珍しい楽器があり、ヴェネズエラの音楽家Gonzalo Grau(ゴンサロ・グラウ)が編曲した”El Carretero”にDuduk(ドゥドゥック)が初めてサルサに使われたそうです。 「ドゥドゥック」とは1,500年の歴史を持つアルメニア(He役である俳優サイモン・アブカリアンの祖国)の民族楽器で木管楽器のオーボエに似たものです。
Le Duduk
Duduk – ECAI

Yes」のサウンドトラック
YesifYes Soundtrack
サントラの試聴はYes [Original Motion Picture Soundtrack] – Amazon.com
このサウンドトラックの中で、ブルースとしてはEric Clapton(エリック・クラプトン)とB.B. King(BBキング)の”Ten Long Years”(試聴3番)が使用されていますが、The Husband役のサム・ニールがこの曲に合わせてAir Guitar(エア・ギター)を演じます。 ちなみにJETの”Are You Gonna Be My Girl”でエアギターして優勝した2006年と2007年のエアギター・チャンピオンの日本のお笑いの大地洋輔(ダイノジ・おおち)はエアーではなく本物の特注クリアボディ(透明アクリル)のFlying Finn(フライング・フィン)のギターをゲットしました。 極めつけはラストにパンツを見せて話題だった2004年チャンピオンのミリちゃんです。 この後、2014年にはフィンランドで開催された「世界エアギター選手権」で再び日本人、しかも19歳の女性がチャンピオンとなりました。 それはサムライガールことNanami “Seven Seas” Nagura(名倉七海)
同じく日本では2011年にグループバンドなのに楽器を演奏しないエアー・バンドなるゴールデン・ボンバーが話題となります。
Ochi “Dainoji” Yosuke (Japan) 2006 – YouTube
Danny DeVito’s Air Guitar Solo – YouTube
Miri “Sonyk-Rok” Park – The 2004 Air Guitar USA Champion – YouTube

1988年の映画「Big Time(ビッグ・タイム)」のサントラや2003年に「Coffee and Cigarettes(コーヒー&シガレッツ)」に出演してお馴染みのシンガーソングライターであるTom Waits(トム・ウェイツ)とKathleen Brennan(キャサリン・ブレナン)夫妻のコラボ作品であるアルバム「Alice(アリス)」に収録された美しい曲の”Fawn”をサリー・ポッターとフレッド・フリスがアレンジしています。
「愛をつづる詩」サントラの演奏は映画「ライジング・サン」のサントラでも収録されていた古典的な電子楽器のOndes Martenot(オンド・マルトノ又はオンデ・マルテノ)奏者のThomas Bloch(トマ・ブロッホ)はフレッド・フリスと”Pink Shoes”を演奏しています。
その他クラシックとしてはChopin(ショパン)やErik Satie(エリック・サティ)、そしてBrahms(ブラームス)などのピアノ曲を取り上げています。 ☆トム・ウェイツといえばフランシス・フォード・コッポラが1982年に監督した倦怠期カップルのファンタジー映画「One from the Heart(ワン・フロム・ザ・ハート)」でクールなサントラを手がけ、映画の冒頭から辛辣かつロマンチックな歌詞でCrystal Gayleとのデュエット曲が流れます。
トム・ウェイツのサントラが試聴できるアルバムは「One From The Heart (1982 Film)」(ASIN: B0000025P6)

☆Audio-Visual Trivia内のサリー・ポッター監督の映画は「タンゴ・レッスン」(1997年)

愛をつづる詩 ’Yes’ by Sally Potter (2004)」への4件のフィードバック

  1. greenhouse より:

    数年前の記事ににコメントしてすみません。。。どうしても気になったのでコメントさせていただきます。
    文章の中に「そんな二人にハバナの海辺での哀しい別れが訪れようとは」とありますが、レンタルしたDVD の中ではハッピーエンドでした。エンディングは一つではないんですか?

  2. koukinobaaba より:

    greenhouseさん、重要なご指摘を有難うございます。
    4年前のこと、後で観たいと思ってメモ的に書いたのですが、そのままとなり、思い込みでかなりあいまいな内容となっています。
    ☆まことに図々しいお願いですが、もしよろしければラストシーンのネタバレをお願いします。
    DVDではラストが何通りもあるケースは実際に存在しますが、この「愛をつづる詩」については未確認です。

  3. greenhouse より:

    素早いレスポンスありがとうございます。
    私もDVDを数か月前に借りただけなので、正確ではないのですがラストは、Sheのおばさんが亡くなった後、SheはHeに電話をかけ「一緒にキューバに行こう」と伝えます。そのとき、Heはすでにベイルートに帰国しておりキューバ行きに対して明確な返事はしませんが、Sheは「チケットを送るから」と電話を切ります。
    Sheはキューバへ行き、観光をしたりこれまでの神の考え方や生活について振り返ります。
    そのときHeがきて、海辺でキスをしながら終わる感じでした! 
    素敵な映画でした。

  4. koukinobaaba より:

    greenhouseさん、ラストを教えて下さってありがとうございます。これですっきりしました。
    キューバのおばさんの死にさいしてSheが南米に行ったことは分っていたのですが、sheの誘いにHeが明確な返事がなかったことで別れを勝手に想像しました。Sheが夫と完全に別れてHeと生涯暮らす気になったのでしょうか、Tsutayaで借りるかAmazonで購入するか只今迷っている最中です。
    かなりいい加減なブログですが今後ともサポートをよろしくお願いします。

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