ヴァレリー・カプリスキー 私生活のない女 Valerie Kaprisky (1984)

 

Valérie Kaprisky dans La Femme Publique
私生活のない女(1984年)

Ethel gagne sa vie en posant nue pour un photographe artistique.
La Femme Publique
「私生活のない女」は1982年に「Aphrodite(聖女アフロディーテ)」でデビューしたValérie Kaprisky(ヴァレリー・カプリスキー)がヒロインのEthel(エテル)役で主演するソフトコアというふれ込みのドラマです。 Rene Cleitman(ルネ・クレトマン)制作によりポーランド出身(チェコ亡命者)のAndrzej Zulawski(アンジェイ・ズラウスキー)が監督し、脚本家のDominique Garnier(ドミニク・ガルニエ)とアンジェイ・ズラウスキーが脚本を書いています。 1984年モントリオール世界映画祭で審査員特別大賞や観客投票第1位を獲得しています。
アンジェイ・ズラウスキー監督は「私生活のない女」以前には、カンヌ国際映画祭でパルム・ドール女優賞をイザベル・アジャーニが受賞した1981年の「Possession(ポゼッション)」、その後はアイドルだったSophie Marceau(ソフィー・マルソー)を脱がせた1985年の「L’ Amour braque(狂気の愛)」を監督しこの後マルソーとは5~6年間事実婚関係がありました。 「私生活のない女」では女優が全裸になってもエロティックなわけじゃなく、どれもこれも私には難解の一言に尽きます。

ルネ・クレトマンは1998年のカトリーヌ・ドヌーヴ主演の「Drôle d’endroit pour une rencontre(夜のめぐり逢い)」や1995年のJuliette Binoche(ジュリエット・ビノシュ)主演の「Le Hussard sur le toit(プロヴァンスの恋)」などを制作を手掛けています。 映画音楽はAlain Wisniak(アラン・ウィスニアク)で、ヴァレリー・カプリスキーがトップレスでリビエラの海辺に出没するティーンエイジャーを演じた1984年の「L’année des méduses(サロメの季節)」でも音楽を担当しているそうです。

映画の冒頭では、 Saturday Night Fever(サタデー・ナイト・フィーバー)のJohn Travolta(ジョン・トラヴォルタ)みたいに颯爽と歩くエテルが映し出されます。 エテルがとあるスタジオに入るや否やいきなり全裸になって激しく踊り出します。 ヴァレリー・カプリスキーとそれを激写するカメラ小僧(親爺)のシーンで度肝を抜かされますが、これは女優志願のエテルがアルバイトとしてヌードスタジオで稼いでいたのです。 即席写真のポラロイドを使用していたらしいその客は、激写の挙句に興奮してショック死したようでした。(これはブラックユーモ?) なんと、エテルはその男を跨いで男が撮った写真を拾って見ると男が激写したのはアソコばかり、軽蔑したかのように投げ捨ててスタジオを去っていくのです。(ヴァレリー・カプリスキーのヘアがウィグばり)

女優志願のエテルはチェコ移民の新人監督というケスリングによって劇中劇のFyodor Dostoyevsky(ドストエフスキー)原作の「The Possessed(悪霊)」を脚色した新作映画のリサ役に抜擢されます。 意欲的に取り組むケスリングに惹かれるエテルですが、瞬く間にケスリングにより現実と虚構(芝居)の境界が見えなくなっていきます。 ケスリングの部屋に泊まったエテルが見たものは、あの殺人事件の女が履いていた赤い靴。 ケスリングに疑惑を持ち始めたエテルは演技をけなされてLambert Wilson(ランベール・ウィルソン)が演じるチェコの亡命者Milanの元へ飛び込みます。 しかし、同郷のケスリングにかくまわれているミランは死んだ(殺された)恋人を忘れられないことを知り、夜な夜なミランとパリの街を遊び歩いたりして恋人の身代わりを演じるエテルでした。 そしてミランはといえば、ケスリングにより次第にテロリストとして暗殺遂行へと操られていきます。

ある日、テレビがリトアニアの大司教の暗殺場面を映し出した時、エテルは、その画面に、ケスリングの顔と傍らでピストルを握った男の手が誰のものかを確信することになります。 その暗殺事件の日、ミランの部屋はケスリングが率いる男たちによって荒らされていたのでした。 エテルはミランを捜し出すため街へと出て行きます。 ミランへの愛を通じて自分が演じるべき女性であることを自覚したエテルは、いつしか、本物の女優に変身していたのです。 映画の撮影現場に戻ったエテルが見たTVニュースではミランの無惨な死を報じていたのです。 撮影所ではケスリングの演じるスタヴローキンの自殺のシーンが撮られています。 首をくくったのは、果たして芝居の中のスタヴローキンか、それとも俳優のケスリングなのか。

芝居と政治の世界をテーマとした映画「私生活のない女」では、ドストエフスキーの「悪霊」のごとく何かに取り憑かてた狂った登場人物たちがハンディ・カメラで縦横無尽に移動し続けるSacha Vierny(サッシャ・ヴィエルニー)の素晴らしい撮影によって描写されます。 特にオープニングのヴァレリー・カプリスキーの通りを歩くシーンはJohn Travolta(ジョン・トラボルタ)主演の「Saturday Night Fever(サタディナイト・フィーヴァー)」の冒頭を彷彿させるものです。 スタジオでのダンス・シーンやテニスのシーンなどのローアングルのカメラが効いています。
アッと意表をつくラスト・シーンは俳優たちの閉幕の挨拶です。 つまり劇中劇。 こちらもどれが劇でどれが現実なのか分からなくなってきます。 この幕閉めテクニックは、1982年の深作欣二監督の映画「蒲田行進曲」で初めて観ましたが、1995年の「Get Shorty(ゲット・ショーティ)」でも使われています。

Lambert Wilson
「私生活のない女」は1985年のフランスのCésar Awards(セザール賞)ではヴァレリー・カプリスキーが最優秀女優に、テロリスト役のランベール・ウィルソンが助演男優賞、ガルニエとズラウスキーが脚本賞にノミネートされました。
私が初めてランベール・ウィルソンの映画を観たのが1983年の「Sahara(サハラ)」でした。 音楽がEnnio Morricone(エンニオ・モリコーネ)で、ドイツのジェームス・ディーンと呼ばれたモンプチのHorst Buchholz(ホルスト・ブッフホルツ)も出演していました。 「サハラ」では砂漠のSheik(王様)Jaffarを演じたランベール・ウィルソンの青い目があまりに綺麗だったので「私生活のない女」も観る気になったのでした。 「サハラ」ではBrooke Shields(ブルック・シールズ)が1984年のラジー賞(ゴールデン・ラズベリー賞)でワースト助演男優賞に輝いたのでした。 女優なのになぜ男優賞?かというと、ブルック・シールズが男ばかりの自動車レースに出場するために可笑しな付けヒゲの男装をしたからです。

その後のランベール・ウィルソンの活躍は素晴らしく、1987年に、こんどは1957年に「Kanal(地下水道)」を監督したポーランドのAndrzej Wajda(アンジェイ・ワイダ)の「Les Possedes(悪霊)」で1965年に「Genghis Khan(ジンギス・カン)」に出演したOmar Sharif(オマー・シャリフ)と共演しています。 1991年にClaude Chabrol(クロード・シャブロル)が監督した「Madame Bovary(ボヴァリー夫人)」に出演したIsabelle Huppert(イザベル・ユペール)とも共演した「悪霊」は劇中劇ではなく、ドストエフスキーの神と不信の問題を描いた小説の映画化で、野望のために自分の囲りの人々を破滅させていく冷酷な男の物語です。 ちなみにイザベル・ユペールというと監督をしたEva Ionesco(エヴァ・イオネスコ)の自伝的な映画「My Little Princess」で自分の娘(監督のエヴァ)を被写体にした写真家の母親を演じています。(エヴァ・イオネスコは幼児ポルノと云われた1977年の「Spielen wir Liebe(思春の森) 」で知られています)
最近では2005年のMatthew McConaughey(マシュー・マコノヒー)主演の「Sahara(死の砂漠を脱出せよ)」にYves Massarde(イヴ・マサード)役で出演し、2004年の「Catwoman(キャットウーマン)」のような悪役も演じますが2007年にも2本予定のある売れっ子の俳優「ランベール・ウィルソン」です。
フランスの俳優としてだけでなく歌手としても活動しているというランベール・ウィルソンが2005年のTV ミュージカル・コメディ「Lambert Wilson – Nuit américaine」でGeorge and Ira Gershwin(ガーシュイン兄弟)ナンバーを歌う写真が見られるLambert Wilson – Festival de Ramatuelle
日本でも2006年発売のランベール・ウィルソンのCDは「Lambert Wilson Sings Musical Comedy」、「LAMBERT WILSON: Nuit Americaine
♪ 試聴はフランスのNuit Americaine – Amazon.fr
女性歌手2名とピアニストとランベール・ウィルソンのSomething’S Coming、This Is The Life、Early In The Morning、Sonnetなど。
Lambert Wilson: Pas Sur La Bouche

La Femme PubliqueDVD

La Femme Publique DVD
「私生活のない女」を観るにはドストエフスキーの「悪霊」と「プラハの春」と呼ばれる1968年のチェコスロヴァキアでの改革運動を知っていると理解しやすいでしょう。
ページトップの画像はアメリカのAmaozn.comにあるフランス語版のDVDですがフランス語のFemmeに対する女性定冠詞のLAがLEになっています。 「私生活のない女」の日本語字幕DVDのカバー画像には惑わされないで下さい。 私は劇場で観たのですが、公開当時にも話題のスチール写真でしたので、「えっ、この映画を観たの?」と観ていなかった人々は怪訝に思ったようでした。 冒頭のヌードスタジオで踊る時のヘア丸出しも暗い廊下での全裸セックスシーンも短いので気になるほどではありません。
私生活のない女 (無修正版)
2009年リリースの日本語字幕版DVDは私生活のない女 (ヘア解禁)

ヴァレリー・カプリスキーの出演映画
新しい波に乗り遅れたヴァレリー・カプリスキー
女優志望の若い女「エテル」を演じたValerie Kaprisky(ヴァレリー・カプリスキー)は撮影当時22歳でした。 可愛くてスタイル抜群の当時売り出し中のパリジェンヌでしたが、惜しくもヌーヴェル・ヴァーグに乗り損なったといえるでしょう。 「私生活のない女」も含めて、これ以前もその後もソフトコアかエロティック(官能)映画ばかりで、全作おもいっきり脱いでいます。 健康的な肢体のヴァレリー・カプリスキーは大人の色気が出ないうちに消えてしまった感がします。 女優ヴァレリー・カプリスキーの問題は子供に毛が生えたみたいでちっともセクシーでないことでしょうか。
バレリー・カプリスキーの写真集と出演作品の写真集はValérie Kaprisky – FILM.TV.IT

Aphrodite(聖女アフロディーテ) 1982年
フランス世紀末のデカダンス文学(象徴派)の詩人だというPierre Louÿs(ピエール・ルイス 1870 – 1925)が1896年に著した美と官能の女神「Aphrodite(アフロディット -古代の風俗)」を元にRobert Fuest(ロバート・フュースト)が監督したソフトコア作品で、ブルジョア連中のギリシア神話風乱交パーティがテーマとなっています。 ホルスト・ブッフホルツが演じる死の商人の豪華客船に乗っている貴婦人を美女をCapucine(キャプシーヌが、その姪をヴァレリー・カプリスキーが演じます。
☆1928 Pierre Louys Aphrodite, Beresford Egan illustrated
ピエール・ルイスのアフロディーテには1929年にCharles Baudelaire(ボードレール)の「Les Fleurs du mal(悪の華)」に挿絵を描いたイギリスの画家であるBeresford Egan(1905 – 1984 ベレスフォード・イーガン)が描いたビアズレー風の退廃的アールデコの挿絵が載っているそうです。
ドイツのハンサム俳優として人気があったホルスト・ブッフホルツは1957年にオーストリア美人女優のRomy Schneider(ロミー・シュナイダー)と共演したドイツ映画の「Monpti(モンプチ わたしの可愛い人)から1960年のアメリカ西部劇の「The Magnificent Seven(荒野の七人)」、1961年にLeslie Caron(レスリー・キャロン)と共演した「Fanny(ファニー)」と次々と話題作に出演してきましたが、1998年にコメディ出身のRoberto Benigni(ロベルト・ベニーニ)が監督するイタリア映画「La Vita è bella(ライフ・イズ・ビューティフル)」で医師役を演じたのが最後のようです。
☆ヴァレリー・カプリスキーの「聖女アフロディーテ」の日本語字幕DVDは中古で3000円代でありますが、輸入版VHSの「Aphrodite」は中古で7000円ほどします。
Valerie Kaprisky in APHRODITE – YouTube

Breathless(ブレスレス) 1983年
ゴダールの「勝手にしやがれ」のリメイクをJim McBride(ジム・マクブライト)が監督しましたが脚本はオリジナルのままです。 映画のポスターは有名なデザイナーのBill Gold(ビル・ゴールド)が手掛けたコラージュ風のイラストで上部半分にリチャード・ギアの顔があります。
2004年に「シャル・ウィ・ダンス?」で中年ダンス狂を演じたRichard Gere(リチャード・ギア)が自動車泥棒のJesseを演じヴァレリー・カプリスキーは女子大生Monica役で共演しました。 ジム・マクブライト監督は1989年にJerry Lee Lewis(ジェリー・リー・ルイス)の伝記映画「Great Balls of Fire!(火の玉ロック)も監督していて、映画「ブレスレス」でもジェリー・リー・ルイスのロックンロール曲の”Breathless”がテーマ音楽になっている他、High School Confidentialも使用されています。
ヴァレリー・カプリスキーとハリウッドのセックス・シンボル「リチャード・ギア」のラブシーン画像が見られるValerie Kaprisky – Breathless – FILM.TV.IT

Breathless

Breathless DVD
ヴァレリー・カプリスキーとリチャード・ギアが共演したハリウッド版の勝手にしやがれ「ブレスレス」の2009年のDVDです。
Breathless
「ブレスレス」の字幕版 VHSもあります。

上記のDVD画像はアメリカのAmazon.comの商品(ASIN: B00004RYTA)です。

まだあるヴァレリー・カプリスキー出演映画
1984年 「L’année des méduses(サロメの季節)」
「私生活のない女」のすぐ後のヴァレリー・カプリスキー出演作は、オスカー・ワイルドの「サロメ」を元に「Christopher Frank(クリストファー・フランク)」が脚本及び監督したロマンス映画で、ヴァレリー・カプリスキーは小悪魔的な少女の役で、Jacques Perrin(ジャック・ペラン)が演じる中年男が少女の母親の恋人を誘惑。 60年代のジャック・ペランは「女は女である」や「気違いピエロ」などでジャン=ポール・ベルモンドと共演したアンナ・カリーナがゴダールと別れて結婚したほどの美青年でした。 1989年にはGiuseppe Tornatore(ジュゼッペ・トルナトーレ)監督の「Nuovo Cinema Paradiso(ニュー・シネマ・パラダイス)」で主人公のSalvatore ‘Toto’ Di Vita(サルヴァトーレ・ディ・ヴィータ)の白髪の中年期を演じています。 映画音楽はEnnio Morricone(エニオ・モリコーネ)ですがジャズ・ヴァイブ奏者のJoe Locke(ジョー・ロック)が手がけたニュー・シネマ・パラダイスのサントラでは美しい”Maturità (maturity)”が人気だとか。 その後ジャック・ペランは2001年にドキュメンタリー映画の「Le peuple migrateur(WATARIDOR I/ 渡り鳥)」を総監督してナレーションも担当していますが、2009年にもドキュメンタリーの「Oceans(オーシャンズ)」が日本で2010年1月に公開となります。
脚本家で監督のクリストファー・フランクは1977年のEdouard Molinaro(エドゥアール・モリナロ)監督の「L’homme Presse(プレステージ)」の脚本も担当しています。
☆1986年の「La Gitane(彼女はジタン)」はジャン・ポール・ベルモンドのコメディ映画でお馴染みのPhilippe de Broca(フィリップ・ド・ブロカ)監督です。

追記: 2007年11月のコメント欄にAndrzej Zulawski(アンジェイ・ズラウスキー)の監督デビュー作品で1971年に製作されたポーランド映画「Trzecia czesc nocy(夜の第三部分)」又は「The Third Part of the Night」のレビューが載せられ映画の写真も見られるサイトのご紹介を頂きました。 「私生活のない女」同様にアンジェイ・ズラウスキー監督が脚本も手掛けているそうです。 第二次世界大戦時の占領下のポーランドでドイツ・ナチスとレジスタンスをテーマにした難解な悪夢の物語で、日本では1995年に公開されたそうですがDVDはもとよりVHSもありません。 この作品は脚本はズラウスキー監督の父で作家のMiroslaw Zulawski(ミロスラフ・ズラウスキー又はミロスワフ・ズラウスキー)の戦時中の体験に基づいているそうで、父も脚本を担当したそうです。

ヴァレリー・カプリスキー 私生活のない女 Valerie Kaprisky (1984)」への2件のフィードバック

  1. 通行人 より:

    ttp://www.moviemail-online.co.uk/scripts/media_view.pl?id=298&type=Articles
    ズラウスキの処女作について、
    最近よい評論をみかけましたので。

  2. koukinobaaba より:

    「通行人」さま、貴重な情報を有難うございます。
    「夜の第三部分」は観ていないのですが、戦時下にポーランドが置かれた悲壮な状況と共にゲシュタボ、暴力、チフス、シラミなどかなり恐ろしそうな内容ですね。
    頂いたURLの頭が切れているので、念のため以下にコピーしておきます。
    http://www.moviemail-online.co.uk/scripts/media_view.pl?id=298&type=Articles

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