アリダ・ヴァリ Alida Valli

Paradine Case / Movie (VHS)
The Paradine Case
Gregory Peck and Alida Valli in The Paradine Case (1947)

Alida Valli (1921 – 2006)
La scomparsa di Alida Valli è una grave perdita per il cinema di tutto il mondo.
近寄り難いほどの謎を秘め高貴ともいえる美貌の持ち主のAlida Valli(アリダ・バリ、アリダ・ヴァッリ、アリダ・ヴァリ)はクールなイタリアの演技派女優ですが、米映画デビューはサスペンス映画です。 1946年の「Notorious(汚名)」に続くAlfred Hitchcock(アルフレッド・ヒッチコック)が監督した珍しいロマンスが絡んだ法廷劇で、売らんかなとばかりにミステリアスな雰囲気を強調されたアリダ・ヴァリがヒロインとなった1947年の「The Paradine Case(パラダイン夫人の恋)」です。(イタリア語ではIl caso Paradineで、意味としては”パラダイン事件”であって”恋”ではない) David O. Selznick(デヴィッド・O・セルズニック)制作(プロデューサー)の映画では1940年の「レベッカ」から全5作品を監督したアルフレッド・ヒッチコックですが、天下のヒッチコックといえども容赦なくシーンをカットするセルズニックにはかなわないらしくこの作品を最後に契約していません。 音楽はヒッチコック映画では1954年の「裏窓」を手がけたFranz Waxman(フランツ・ワックスマン)でした。

夫殺しの罪で法廷に立たされたMrs. Maddalena Anna Paradine(パラダイン夫人)をアリダ・ヴァリが演じ、夫人を弁護しているうちに婦人の魅力の虜になり必死に無罪を勝ち取ろうとするAnthony Keane(アンソニー・キーン)はGregory Peck(グレゴリー・ペック)です。 毎回お楽しみになっているヒッチコック監督のカメオ出演のヒントは駅と楽器のチェロです。

当時は21歳という若さにもかかわらず美しいアリダ・バリは落ち着いた上品な未亡人を堂々と演じています。特に毒殺容疑で逮捕されるまでロンドン(カンバーランド)の屋敷の居間で亡き夫の肖像画を見上げてピアノを優雅に弾いているシーンは結いあげた髪や喪服姿の美しさに圧倒されます。(留置場では当然のこと無情にヘアピンも抜かれ髪も解かれる) 裁判で無実を訴えるマッダレーナ・アンナ・パラダインに惑わされた法廷弁護人のアンソニー(アントニー)は終盤で意外な事実を知ることになります。 シモン・フレイカー卿(サイモン)の主張では大佐の死は夫人の犯行だが、美しい夫人に対する恋慕の情を抑えられないアンソニー・キーン弁護士は戦傷で盲目となった大佐の世話をしていて、マッデリーナを邪悪な女呼ばわりする住み込みの使用人のアンドレ・ラトゥール(ルイ・ジュールダン)が大佐の自殺ほう助という説に持っていこうとする。 アンソニーの妻も傍聴していた裁判で、夫人が有罪と信じて召喚された若者アンドレは何度もの喚問に耐え切れず夫人との不倫を告白せざるをえなくなったが、法廷を出ていく自分に無関心を装う夫人を見たアンドレでした。 続く公判中に尋問されている夫人はアンドレが自殺したことを知り突如取り乱します。 大佐殺しの犯人は死んでしまったのです。 夫人は涙ながらにその召使いを愛していたのだと語り、自殺に追い込んだアンソニー弁護士を憎しみを込めて非難するのです。 このラストの緊迫した法廷劇が見所ですが、地位も名誉もある弁護士が美貌の容疑者を弁護して崩壊するストーリーの犯罪ドラマであってもファムファタール映画、もしくはフィルムノワールではありません。 多くを語らないこの映画で、夫人が遺産目当てに夫殺害を企てて若い使用人を利用したのだと想像しますが、想いを寄せる夫人と関係を持った若い使用人を許すまじとばかりに夫人を無罪に導びこうとしたものの、妻帯者の弁護士はこの後、一体どうしようとしたのか疑問が湧きます。 この法廷シーンで使用された荘厳な中央刑事裁判所(オールド・ベイリー)がセットだというから驚きます。
「パラダイン夫人の恋」には判事役を演じた名脇役のCharles Laughton(チャールズ・ロートン)とチャールズ・コバーン(サイモン卿役)も出演しています。 1939年に「The Hunchback of Notre Dame(ノートルダムの傴僂男)」でチャールズ・ロートンが演じた特殊メイクのセムシで寺男のカジモドが処刑寸前のエスメラルダをさらって聖域の教会に綱で渡るシーンは喝采ものでした。 一方チャールズ・コバーンといえば1953年の「Gentlemen Prefer Blondes(紳士は金髪がお好き)」でマリリン・モンローにティアラを盗まれる女好きのピギーことフランシス・ビークマン卿が記憶に残ります。
☆ちなみに魔女のような被告に情を移して悪魔になりかけたアンソニー弁護士を最後まで耐え忍んだ健気な妻を演じるイギリス女優のAnn Todd(アン・トッド)は美しい肩が強調されています。トッドは「パラダイン夫人の恋」の後、「情熱の友」や「マデリーン」など8年間結婚したデヴィッド・リーン監督の作品に立て続けに出演しました。

video「パラダイン夫人の恋」のトレーラーはThe Paradine Case Trailer – VideoDetective
「パラダイン夫人の恋」の映画パンフレットが見られるパラダイン夫人の恋 懐かしの映画パンフレット

The Paradine Case
ページトップの画像は「パラダイン夫人の恋」の海外版VHSですが現在は入手困難です。下記の画像は2001年版DVDですが、リンク先は入手可能な2008年リリースの日本語字幕版のDVDになっています。
The Paradine Caseパラダイン夫人の恋
アイルランドの血を引く俳優のグレゴリー・ペックが「パラダイン夫人の恋」の前に主演したヒッチコック監督の映画では1945年の「Spellbound(白い恐怖)」がありますが、ヒッチコック監督のカメオはエンパイア・ホテルのエレベーターのシーンをご覧下さい。 「白い恐怖」はモノクロ映画ですが最後の拳銃自殺のショットだけ一瞬赤く色付けられているのが印象的です。 グレゴリー・ペックはこの翌年の1947年には「A Streetcar Named Desire(欲望という名の電車)」を監督したElia Kazan(エリア・カザン)の「Gentleman’s Agreement(紳士協定)」でユダヤ人を演じた「郵便配達は二度ベルを鳴らす」のJohn Garfield(ジョン・ガーフィールド)と共に出演していますが、反ユダヤ主義をテーマにしたドラマで、自らユダヤ人差別を体験することになってしまうライターの話です。 共産党員の名前を出したエリア・カザン監督と赤狩りでハリウッドを追われて亡くなったガーフィールドとが組んでいます。 1986年の「Blue Velvet(ブルーベルベット)」などに出演したDean Stockwell(ディーン・ストックウェル)も子役で出演しました。  映画の音楽はAlfred Newman(アルフレッド・ニューマン)です。 グレゴリー・ペックが出演した大作というとタイトル・デザインをSaul Bass(ソウル・バス)が手掛けWilliam Wyle(ウィリアム・ワイラー)が監督した1958年の「The Big Country(大いなる西部)」という西部劇があります。 この「大いなる西部」では「Baby Doll(ベビイドール)」のCarroll Baker(キャロル・ベイカー)も出演しています。

The Third Man
アメリカ映画でデビューした後、イタリア女優のアリダ・ヴァリは1949年に名画座では定番となったイギリスのミステリ映画「The Third Man(第三の男)」に出演します。(ちょっとAlfred Hitchcock(ヒッチコック)が監督した1940年の「Foreign Correspondent(海外特派員」みたいな) Orson Welles(オーソン・ウェルズ)が演じる謎の男”ハリー・ライム”の恋人のアンナ役で脚光を浴びますが、オーストリアのAnton Karas(アントン・カラスもしくはアントーン・カラス)がツィターで演奏した”The Third Man Theme” もしくは”Harry Lime Theme”(第三の男のテーマ)”が一世を風靡しました。 Graham Greene(グレアム・グリーン)の原作を映画化した監督のCarol Reed(キャロル・リード)はカンヌ国際映画祭で グランプリを受賞しました。 戦後のウイーンを舞台にハリーの謎の事故死の第三番目の証人を探すべく調査を開始するハリーの友人にはJoseph Cotten(ジョセフ・コットン)です。 恐ろしい秘密を抱えたハリーなのに悪戯っぽい表情が印象に残りました。 アントン・カラスのツィターをBGMにアリダ・ヴァリが無表情に去っていくラストシーンは名場面として語り草となっています。
video「第三の男」のトレーラーはThe Third Man Trailer – VideoDetective

The Third Man DVD
「第三の男」の日本語字幕DVD(白黒ドルビー)
The Third Man第三の男
DVDは500円DVDや「第三の男」 (ユニバーサル・セレクション2008年第11弾)などもあり。
「第三の男」といえば忘れられないのがAnton Karas(アントン・カラス)のzither(チター)による演奏のテーマ曲です。

Senso (1954)
アリダ・バリが一番美しいと思う映画は「夏の嵐」です。
その後、19世紀イタリアの建築家であり作家のCamillo Boito(カミッロ・ボイト)の短編小説「Senso(官能)」を1954年にイタリアの巨匠と呼ばれるLuchino Visconti(ルキノ・ヴィスコンティ)監督が映画化したイタリア初のカラー映画「Senso(夏の嵐)」にアリダ・バリが主演しています。 アリダ・バリは美貌の敵国の逃亡兵に恋をしたがために母国を裏切ることになる悲劇のヒロイン、狂恋のLa contessa Livia Serpieri(リヴィア伯爵夫人)を熱演しています。 敵の兵士役には1951年にヒッチコック監督のStrangers on a Train(見知らぬ乗客)で主演したFarley Granger(ファーリー・グレンジャー)ですがリヴィアのいとこのロベルトを演じるのはヴィスコンティの「Ossessione(郵便配達は二度ベルを鳴らす)」で主演したMassimo Girotti(マッシモ・ジロッティ)です。 1860年代のオーストリアの占領に対するイタリアの反乱未遂が時代背景となっている史実に基づく時代劇(歴史ドラマ)で、「J’Irai Cracher Sur Vos Tom(墓にツバをかけろ)」などに出演したセクシーなChristian Marquand(クリスチャン・マルカン)がデビュー後まもなく出演しています。 劇中ではGiuseppe Verdi(ヴェルディ)の有名な歌劇” Il Trovatore(イル・トロヴァトーレ)”を伝説のオペラ歌手の誉れ高きMaria Callas(マリア・カラス)が歌います。
美しいアリダ・バリの伯爵夫人画像が見られるSenso Photos – FILM.TV.IT
※ヴィスコンティ監督の「Senso(夏の嵐)」はアメリカではかなり編集されて「The Wanton Contessa」として上映されましたがヒットせず、ヴィスコンティ作品が話題になった60年代までオリジナルは公開されなかったそうです。

アリダ・バリが美しい「夏の嵐」の日本語字幕DVD
Senso夏の嵐
「夏の嵐」の原語版VHSの「Senso (Sub)」(ASIN: 1572523719)も見つかります。

Caso Wilma Montesi
アリダ・バリ自身も上流家庭の出でしたが、アリダ・バリが「夏の嵐」で評判になった後の1954年のこと、「La dolce vita(甘い生活)」さながら、麻薬がつきものだったローマのハイソな乱交パーティに関係があった元夫の友人だった恋人の音楽家、その他イタリア貴族のご子息などの名が取り沙汰されてイタリアの政界財界を揺るがしたイタリアモデル殺人事件というどえらいスキャンダルが恋人の証人として喚問されたアリダ・バリから女優生命を奪い4年ほどは映画出演はありませんでした。(この時期には離婚していた芸術家の元夫との3P生活もスキャンダルに)
1957年にMichelangelo Antonioni(ミケランジェロ・アントニオーニ)監督の「Il grido(さすらい)」でイルマを演じ、1958年にBrigitte Bardot(ブリジッド・バルドー)の「Les Bijoutiers Du Clair De Lune(月夜の宝石)」でベベの叔母を演じた後の1960年には、カンヌ映画祭グランプリを受賞したHenri Colpi(アンリ・コルピ)監督のフランス映画「Une aussi longue absence(かくも長き不在)」に主演しています。 音楽を手掛けたのはGeorges Delerue(ジョルジュ・ドルリュー)でドルリューが作曲した”Trois petites notes de musique(三つの小さな音符)”をCora Vaucaire(コラ・ヴォケール)が歌いました。
「かくも長き不在」はかろうじてフランスのUne Aussi Longue Absence – Amazon.frにDVDのカバー画像が見られます。
「かくも長き不在」の写真と情報のあるフランスのUne Aussi Longue AbsenceについてはUne Aussi Longue Absence – DvdToile.com(キャストにカーソルを合わせると写真がみられます)

Les Yeux sans visage (1962) (VHS)
Les Yeux sans visage
顔のない眼 (1959年)

Les Yeux sans visage(The Horror Chamber of Dr. Faustus/EYES WITHOUT A FACE)
私がリアルタイムで観たアリダ・バリのモノクロ映画はMaurice Jarr(モーリス・ジャール)の音楽が効果的だった1959年のフランス映画「顔のない眼」です。 原作は脚本家のJean Redon(ジャン・ルドン)の空想的な同名小説をポエティックな作品作りのGeorges Franju(ジョルジュ・フランジュ)監督が映画化したこの残忍な新種フレンチ・ホラー映画はかなり怖かったです。 1958年に幻想的な少年の初恋を描いた「La première nuit(白い少女)」を最後の短編映画としたジョルジュ・フランジュ監督は1949年の屠殺場のドキュメンタリ「Le Sang des bêtes(Blood of the Beasts/獣の血)」が初期作品です。 毎日のようにお肉を食べている生活をしているのに屠殺には抵抗があるという矛盾を感じる御都合主義の自分がいますが、眉間に一発で倒し首の動脈を切って大量の血を抜き皮を剥ぎ、と続くと正視できない。(特に生きたままの子牛…子牛のステーキは柔らかいけど) なんとBGMがシャンソンの”ラ・メール”(血の海?)

1945年の「Les Enfants du Paradis(天井桟敷の人々)」で役者のFrédérick Lemaître(フレデリック・ルメートル)を演じたPierre Brasseur(ピエール・ブラッスール)が「顔のない眼」では外科医師を演じ、アリダ・バリは外科医の愛人で助手のLouise(ルイーズ)役で、犠牲になる娘達の誘拐係り及び死体(虫の息)遺棄係りです。 医師の過失から自動車事故を起こし、その結果愛娘が無残な顔になります。 自責の念にかられた狂気の外科医師は愛娘の破壊された顔を修復しようと努力します。 若い娘が次々と手術台に乗せられ、移植のために顔の皮をメスで剥がされるシーンは白黒映画なのに異様にリアルで気絶寸前でした。 被害者の娘の一人を演じたJuliette Mayniel(ジュリエット・メニエル)の恐怖に大きく見開いた「眼」がよけい恐怖を誘いましたが、この「顔のない眼」で広く世に知られるところとなったMaurice Jarre(モーリス・ジャール)の音楽が効果をあげています。
ジュリエット・メニエルは「顔のない眼」に出演した後、1960年にはGeorges Delerue(ジョルジュ・ドルリュー)が音楽を担当したGeorges Lautner(ジョルジュ・ロートネル)監督の「Marche ou crève(やるか、くたばるか)」に出演しました。
「顔のない眼」がデビューだったEdith Scob(エディット・スコブ)が演じた医師の娘のChristiane(クリスティアーヌ)は眼だけを繰り抜いた白い石膏マスク、まるで少女版ジェイソンのような仮面を付けてお人形のように屋敷を徘徊します。 このクリスティアーヌお嬢様が着ていた白いナイトガウンはパリのGivenchy(ジバンシー)がデザインしたそうです。 ジバンシーは1952年にの会社設立以来、1954年のAudrey Hepburn(オードリー・ヘプバーン)主演の「Sabrina(麗しのサブリナ)」の衣装を担当したのを始め多くの映画の衣裳を手掛けています。 1962年にジョルジュ・フランジュ監督の「Thérèse Desqueyroux(テレーズ・デスケルウ)」で妻に毒殺されかかる夫の妹役を、同じく1916年のLouis Feuillade(ルイ・フイヤード)監督の同名サイレント映画をフランジュ監督で1963年にリメイクした「Judex(ジュデックス)」で銀行家の娘を演じたエディット・スコブはLeos Carax(レオス・カラックス)が監督した2012年の「Holy Motors(ホーリー・モーターズ)」でDenis Lavant(ドニ・ラヴァン)が演じるオスカー担当のセリーヌ役で出演しラストシーンで白いマスクをかぶります。
死体遺棄場面で始まる「顔のない眼」の予告編はEyes Without a Face (1960) – Les Yeux sans Visage Trailer – YouTube

上の大きな「顔のない眼」の画像は「Les Yeux sans visage」の輸入版VHSですが現在は入手不可となりました。
下記は「顔のない眼」の日本語字幕版DVDです。現在はBlu-ray(ブルーレイ版)ASIN: B005FOPLP0も発売されています。
Les Yeux sans visage顔のない眼
ちなみに顔がテーマの映画というと「The Strange Love of Martha Ivers(呪いの血) 」のLizabeth Scott(リザベス・スコット)が主演して怪奇映画のTerence Fisher(テレンス・フィッシャー)が監督した1952年の「Stolen Face(盗まれた顔 )」がありましたがこちらは交通事故で頬から首にかけて傷を負った女性の顔を整形するストーリーです。

アリダ・バリは若い映画ファンには1974年の「L’anticristo(レディ・イポリタの恋人 夢魔)」やイタリアのホラー映画で1977年の音楽が怖すぎる「Suspiria(サスペリア)」や1996年の「サスペリア2000」で知られているかも知れません。 ちょっと「ローズマリーの赤ちゃん」に似たシーンもあるGiallo(ジャッロ)部門の「サスペリア」は一人では観られません。
魔女の潜むバレー学校の恐怖!サスペリアの写真が見られるSuspiria – FILM.TV.IT

アルフレッド・ヒッチコック監督の作品についてはAudio-Visual Trivia 内のVertigo(アルフレッド・ヒッチコックの<めまい>)