ザ・インタープリター The Interpreter (2005)

Sean Penn and Nicole Kidman
Sean Penn and Nicole Kidman in The Interpreter
ザ・インタープリター(2005年)

The Interpreter
私を信じてくれる人が現れるまで生きていられるかしら・・・
2002年の「The Hours(めぐりあう時間たち)」では付け鼻メイクで別人のようなVirginia Woolf(ヴァージニア・ウルフ)を演じたニコール・キッドマンの素朴な美しさが評判の「ザ・インタープリター」は実際に起きた国連ビル内での未解決事件をヒントにして、1985年にOut of Africaでオスカーを受賞したSydney Pollack(シドニー・ポラック)が監督したサスペンス映画です。 なんとも奇遇なことに暗殺計画が国連通訳のシルヴィアだけが分かる現地語で話されていたのです。(ささやき声といえども国連の会議場なんかでそんな危ない話するなんて!) マトボに生まれ育ちアフリカ南部一帯の方言であるクー言語が分かるがために要人暗殺計画を知ってしまった国連通訳のシルヴィア・ブルームは当局に通報するも捜査官には容易に信じて貰えず苦悩します。(最初は)

ザ・インタープリターのあらすじ
アフリカのマトボ共和国の独裁者エドモンド・ズワーニ(架空の人物)大統領の歓迎アーチが見え、土煙を上げて車が走る道が冒頭のシーン。 車には現地人の男(平和主義者のゾーラ)と白人男(ラストで誰かが判明)とシルヴィア・ブルームの兄サイモン・ブルームの友人フィリップ・ブレ(フランスのジャーナリスト)が独裁者にテロリストとして殺された活動家のリストを手にしている。 これから大量虐殺現場の証拠でも押さえるのか、二人の男はサッカー競技場に入っていくとマトボのクー族とみられる少年たちがスタンドの中の屍体の山に案内する。 壁に書かれているのは「今こそ、ゾーラを!」
そこに子供の声が響く。 「誰か来た!」 二人が急いで外に出ると全員が一斉射撃をくらった。 発砲したのは先ほどの子供、「先生からだ。良い1日を」と白人男にトドメを撃つ。(先生とはズワーニのことか) これを見たフィリップアは慌てて車のドアから転がり出て身を隠し様子を伺うと車が入ってきて中から現れたのは立派なみなりの黒人と兵士一行。 激写。
場面変わって、ニューヨークの国際会議場、他言語が飛び交うなか、英語通訳室で通訳のシルヴィアが通訳しているシーン。 当然ながら規制、警備が厳しい国連内部。 退避命令で外に食事に行くため一人でバッグを取りに戻ったシルヴィアは通訳室で下の会議場から聞こえてくるささやき声(先生は生きてここを出られない)を耳にしたが、照明を点灯されて姿を見られたので驚いて逃げ出す。 それ以降、シルヴィアは確証はないものの尾行されている恐怖などを味わうことになるのです。 大量虐殺容疑で国際刑事裁判所(ICC)に引き出されないよう未来を賭けて国連で演説を行うズワーニ大統領とシルヴィアとを警護するため当局はシークレット・サーヴィス(要人警護警護班)を要請する。 任命されたのはトビン・ケラーとドット・ウッズの捜査官コンビ。 仕事柄、トビンはシルヴィアを疑う。 注目を集めるための作り話ではないかと疑うトビンに「死ぬ」と「消える」は違う、ズワーニは嫌いだが死を望むなら通報などしないと反論するシルヴィア。 てっきり自分を守ってくれると思っていたトビンが言うには彼の職務は暗殺対象者を警護することだからシルヴィアを調査するのだとまるでシルヴィアは守ってくれない言いよう。 そしてトビンはマトボと米国の二重国籍を持つシルヴィアが何か嘘をついていると断定し嘘発見器にかける。 現在同様に恐怖政治が行われていた少女時代、平和集会の帰りに両親と妹を独裁者側の地雷で亡くしたシルヴィアの真実とは。 マトボのクー族は悲しみを克服するために復讐すべき相手を溺死させずに助けることだとか。 死者のことは語らず、その名を口に出した時は悲しみを克服した時だとか。

アメリカ政府としては国連で演説するズワーニ大統領の訪米中に何か有っては一大事、NSA、CIA、FBIと万全を尽くしてとにかく無傷でお帰り頂かなくてはならないのだ。 ズワーニ大統領の暗殺を目論むであろう人間は虐殺された者の家族以外ならズワーニは暴君とみなす政敵の二名が浮かび上がる。 ささやき声はその声の持ち主を特定するのが難しいがもう一度聞けば分かるということにしてシルヴィアを囮として警護することにした当局はズワーニ大統領のラッド警護官にその旨を伝える。 しかし大統領を近距離で狙撃できそうな人物といえば、護衛官?
そんな時、家に戻ったシルヴィアは壁に飾っっておいた兄サイモンがくれた仮面をかぶった男を窓の外の非常階段で見る。 シルヴィアを驚かせた仮面の男ジャマールの住処を突き止めた捜査官が訪ねたが同居しているというジャン・ガンバ(以前バイクシルヴィアを車で追った黒人)が知らないと話す。 警備の隙を突かれた責任でかシルヴィアを自宅に連れて来たトビンは話す。 かけ落ちした妻が二週間前に死んだが、以前にシルヴィアが話したクー族の犯罪者に対する思いを引用して、事故を起こした男が生きていれば溺死させたい自分はクー族にはなれないと話す。
そんなシルヴィアに念願のフィリップ(兄と行動していた友人のカメラマン)からの電話が。 バイクで出かけるシルヴィアを追う捜査官たち。 フィリップはズワーニの政敵であるクマンの部下から連絡がきて一緒にズワーニに立ち向かおうと言ったがこれが罠でゾーラが殺されてしまいその責任を痛感しているとフィリップ。(なぜならゾーラはシルヴィアのかっての恋人)

近づくズワーニ大統領の国連演説を「暗殺された方がいい」と反対する亡命中の革命家クマンクマンが表明する。
そんな中、トビンは外出したガンバを尾行させ、部屋を調べると仮面男ジャマールの死体があり爆薬が仕掛けてあった。 爆弾テロリストらしいガンバはなんとシルヴィアが乗ってクマンクマンと話しているバスに乗り込んでくる。 シルヴィアがバスに乗り込むと「今さっきクー語を話した?」と聞いてくるクマンクマンに兄サイモンと恋人ゾーラに言及して感情的に「あなたは殺人者よ!」 同乗しているガンバの動きに潜入捜査官が身構えるが、兄を探してくれるというクマンと話が終わったシルヴィアはバスを降りる。 続いてガンバも降りるとバス内の捜査官から報告されたトビンの「全員バスから降ろせ!」の指令も間に合わず、ガンバが残した紙袋が爆発、バスは炎上、乗客を巻き込んでズワーニの政敵クマン・クマンは暗殺された。 このテロリスト・ガンバによるバス爆破シーンが呼び物でしょうか。 危機一髪で命拾いしたシルヴィアはトビンに隠していた全てを話す。 最愛の人を失った二人は喪失感を共有するのか傷を舐め合うのか自然と心が打ち解けたよう。(このシーンはちょっと無理がありそう)

カメラマンのフィリップが死んでシルヴィア宛の遺書が見つかり、真実が明かされる。 冒頭でフィリップとスタジアムに行った黒人男性と白人男性はシルヴィアの恋人だったゾーラと兄のサイモンだったのだ。 「ガンバの雇い主はいったい誰なんだ?」とシルヴィアの部屋の向かいの空き部屋で見張っているトビンが疑問に思った時、シルヴィアの部屋にそのガンバの姿が現れた。 シャワー中のシルヴィアいかに。 急行するトビン、ガンバは仕留めたが浴室はもぬけの空、シルビアは消えてしまった。 家に戻ったトビンにシルヴィアから「故郷に戻る」と留守番電話が。

そうこうする内にズワーニ大統領が到着、警護はトビンの同僚トッド・ウッズ捜査官等、沿道の「殺戮をやめろ!」のシュプレヒコールを縫って車は国連へ。 ズワーニの演説が始まると、倒れた警備員?捜査官?の傍で銃を組み立て着々と暗殺準備をする男の姿が交互に映される。 もうすぐという時にドアが開いて「ご苦労」と現れたのがラッド警護官、しかしトビンが気がついて駆けつけたので急いで狙撃人を撃ち殺した。 トビンには暗殺を阻止出来て良かったと話すが、トビンは銃の実弾を寄こせとラッドに自分の拳銃を突きつける。 一方、故郷に帰ったはずのシルヴィアは暗殺騒ぎで避難部屋に移動していた大統領の護身用の銃を奪って突きつけてズワーニ大統領の自身の著書「解放者の自伝」を読むように命じる。 この時、シルヴィアがここ(国連)でヤる気だと気付いたトビンは避難部屋に急行。 トビンの必死の制止に、ズワーニに冒頭の献辞を読ませたシルヴィアは銃を渡す。
リストアップが趣味だった兄サイモンがノートに記したズワーニによる犠牲者のリストを読み上げるシルヴィアの声にオーバーラップして、安全保障理事会がズワーニのハーグの国際刑事裁判所に送検することを決定したことを声明。
Drowning Man Trail (Atalago) – YouTube

意表を突かれたのは暗殺未遂が民族浄化政策と大量虐殺を正当化する芝居だったこと。 注目度を上げるためのヤラセ暗殺計画にまんまと乗ったなんて。
ちなみにこのページトップの画像はシルヴィアがトビンにサイモンのことを話すシーンですがラストにも同様のシーンがありますがトビンとシルヴィアの遠近感が微妙に奇妙。(トビンがデカく撮られて) ニコール・キッドマンは身長180センチでショーン・ペンは173センチなんだとか。

アフリカのマトボ(ジンバブエらしい)に生まれたシルヴィア・ブルームを演じるのは、「The Hours(めぐりあう時間たち)」で2001年のオスカー(アカデミー主演女優賞)を受賞し、「Moulin Rouge!(ムーラン・ルージュ)」でゴールデン・グローブの女優賞を受賞したNicole Kidman(ニコール・キッドマン)です。 次第にシルヴィアを信じるようになり協力するFBI捜査官(シークレットサービス)のトビン・ケラーにこれ又「ミスティック・リバー」でオスカー受賞俳優のSean Penn(ショーン・ペン)が扮しています。 職業柄、言葉の威力を信じるシルヴィアと行動によってのみ人を信じるトビーと観点の違う二人が協力して暗殺を食い止めるストーリーです。 トビン・ケラーの同僚であるドット・ウッズ捜査官としてCatherine Keener(キャサリン・キーナー)が出演しています。 ちなみに私が初めてショーン・ペンを見たのは1982年の「Fast Times at Ridgemont High(初体験/リッジモント・ハイ)」で教室で宅配ピザを注文するジェフ・スピコーリ役でした。 ショーンの声は特徴がありますが金髪で鼻がでかいので見た目がちょっとクセのあるOwen Wilson(オーウェン・ウィルソン)みたい。 その他に1989年の「We’re No Angels(俺たちは天使じゃない)」、1997年の「The Game(ゲーム)」、2001年の「I am Sam(アイ・アム・サム)」の他何本かは諸事情によりザッと観。(全てが重い作品だけど)

キャサリン・キーナーは1999年の「マルコビッチの穴」でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされて以来、特異な女優として注目を集めていますが、2005年にはオスカーの助演女優賞にノミネートされた「カポーティ」の他に40歳の童貞男などに出演しています。

video「ザ・インタープリター」のオフィシャル・サイトのTheInterpreterMovie.comで、下のView the TRAILERをクリックしてフォーマットを選ぶと予告編が観られます。
ヨーロッパでは2005年1月に公開され、アメリカでは4月、日本では5月公開です。

「ザ・インタープリター」の監督はシドニー・ポラックですが、製作総指揮にはG. Mac Brown(G・マック・ブラウン)に加えAnthony Minghella(アンソニー・ミンゲラ)も名を連ねています。 次作の2006年の映画「Breaking and Entering(こわれゆく世界の中で)」では逆にアンソニー・ミンゲラが脚本を担当し監督もしていますが、シドニー・ポラックが制作側になっています。 アンソニー・ミンゲラは今作の前年には話題の「Cold Mountain(コールド マウンテン)」を監督していますが、1996年の「The English Patient(イングリッシュ・ペイシェント)」や1996年の「The Talented Mr. Ripley(リプリー)」の監督としても知られています。
シドニー・ポラック監督の映画としてはMeryl Streep(メリル・ストリープ)とRobert Redford(ロバート・レッドフォード)が共演した1985年の「Out of Africa(愛と哀しみの果て)」でのレッドフォードが演じた憎いほどクールな冒険家は共感できませんでしたが、レッドフォードとNatalie Wood(ナタリー・ウッド)が共演した1965年の「This Property Is Condemned(雨のニューオリンズ)」が私が観た最初の作品で大好きな映画でした。
日本で2007年に公開される「こわれゆく世界の中で」はミンゲラ監督のお気に入り俳優であるJude Law(ジュード・ロウ)とJuliette Binoche(ジュリエット・ビノシュ)が出演する愛の破壊と真実の愛を追究するドラマです。

「ザ・インタープリター」以外で、国連が舞台の映画にはAlfred Hitchcock(ヒッチコック)が1959年に監督した「North by Northwest(北北西に進路を取れ)」がありましたが撮影が許可されず、今回初めてニューヨーク・マンハッタンの国連本部ビル内で撮影が許されたそうです。
1997年のニコール・キッドマンが「オーシャンズ12」で主演したGeorge Clooney(ジョージ・クルーニー)と共演した「The Peacemaker(ピースメーカー)」では国連前の通りで撮影しただけだったそうです。
「ザ・インタープリター」の撮影は、国連本部ビル内での4ヶ月に渡る撮影は国連業務に支障をきたさぬよう週末に行われたそうで、国連総会や安保理事会のエキストラは本物の国連職員も出演したそうです。

ザ・インタープリター DVD (2005年発売)
The Interpreter DVDザ・インタープリター
廉価版「ザ・インタープリター」(ASIN: B0009MUDV0)やブルーレイ版(ASIN: B003VTG19G)もあります。

ザ・インタープリターのサウンドトラック
映画の冒頭に流れた”Matobo”などエスニック風な曲も入ったJames Newton Howard(ジェームズ・ニュートン・ハワード)作曲のサウンドトラックCDです。 シークレット・サービスのトビンが留守電を聞くシーンでジュークボックスから流れた曲は1993年に「Short Cuts(ショート・カッツ)」など何本かのRobert Altman(ロバート・アルトマン)の映画に出演している歌手のLyle Lovett(ライル・ラヴェット)の”If I Had a Boat”だそうです。

The Interpreter SoundtrackThe Interpreter [Original Motion Picture Soundtrack]
試聴はThe Interpreter Soundtrack – AllMusic.com
アップテンポの”Assassin”の他はシンフォニー調ですがエンディングで”Atolago”が使用されています。
☆Atolagoはノルウエーの音楽家のKirsten Braten-Berg(シャーステン又はカーステン・ブラテン・バーグ)などによるアルバム「From Senegal to Setesdal」に収録されています。 このアルバムはノルウェイと西アフリカの4人のミュージシャンによる伝統楽器を使用したワールド・ミュージック(民族音楽)の名作となっています

Atolagoが収録されている民族音楽のアルバム
From Senegal to SetesdalFrom Senegal to Setesdal
試聴はFrom Senegal to Setesdal – AllMusic.com

映画と殆ど同じ、2005年発売の日本語版「ザ・インタープリター」文庫本はDavid Jacobsデイヴィッド・ジェイコブズ(著)、富永 和子(訳)
The Interpreter Bookザ・インタープリター (徳間文庫)

「The Silence Of The Lambs(羊たちの沈黙)」でアカデミー監督賞受賞したJonathan Demme(ジョナサン・デミ)による「Manchurian Candidate(クライシス・オブ・アメリカ)」(2004年)というDenzel Washington(デンゼル・ワシントン)とMeryl Streep(メリル・ストリープ)が出演したサスペンス映画がありましたが、国家的陰謀に孤軍奮闘するというテーマがインタープリターにちょっと似通っているようです。 「クライシス・オブ・アメリカ」は1959年に書かれたRichard Condon(リチャード・コンドン)の小説「Manchurian Candidate(傀儡)」を元にした1962年のJohn Frankenheimer(ジョン・フランケンハイマー)監督の「影なき狙撃者」のリメイクです。 ロバート・ケネディの暗殺の時も話題になったのがこの洗脳された「満州の候補者」風の暗殺者だそうです。

☆ Audio-Visyal Trivia内のニコール・キッドマン関連記事は「奥さまは魔女