炎のメモリアル Ladder 49 (2004)

John Travolta and Joaquin Phoenix - Ladder 49
John Travolta as Mike Kennedy in Ladder 49
炎のメモリアル(2004年)

2001年に「Swordfish(ソードフィッシュ)」でビルを爆破した男(トラボルタ)が2004年には炎の中から生存者を救出!
「炎のメモリアル」は同時多発テロで活躍した消防士たちに敬意を表す意図で制作されたヒューマン・ドラマ(というか鎮魂映画)で、John Travolta(ジョン・トラボルタ)が既にキャプテンのケネディ役が決定していた某俳優を退けて望んで出演した映画です。 同時多発テロがニューヨークで起こったために、オリジナルの脚本の舞台設定が偶然にも2001年のニューヨークだったのを急遽ボルティモアに変更したそうです。
ちなみに同時多発テロとは2001年9月11日にニューヨークでツインタワー(対の貿易センタービル)に旅客機が突っ込んでビルが崩壊し、ペンタゴン(国防総省)もテロ攻撃を受けたという歴史上でも異常な事件でした。
消防士の兄弟を扱った映画にGeorge Lucas(ジョージ・ルーカス)が開設したILM(Industrial Light & Magic)の特撮を使った1991年の「Backdraft(バックドラフト)」がありました。 こちらは「American Graffiti(アメリカン・グラフィティ)」に出演したRon Howard(ロン・ハワード)が監督したアクション映画「バックドラフト」では、バックドラフト(低温で燃え広がったところに空気が流れ込んで起きる爆発気流、もしくは逆気流)現象を利用した連続爆破放火事件が発生した1971年のシカゴを舞台にKurt Russell(カート・ラッセルの二役)が演じる兄が隊長を務める第17分隊に配属されたがヒーローの兄には負けたと退職し調査官の助手となって一連の火災殺人事件を調査する若者ブライアン(ウィリアム・ボールドウイン)が意外な事実を知る物語です。(鍵はTrychtichlorateトリクティクロレイト、毒性廃棄物事故の処理剤) 兄嫁にRebecca De Mornay(レベッカ・デモーネイ)や、調査官にRobert De Niro(ロバート・デ・ニーロ)と獄中の放火魔にDonald Sutherland(ドナルド・サザーランド)という大者俳優達が出演しています。 音楽はハンス・ジマーですがエンディングでも流れたテーマ曲が1993年から放映されていたテレビの料理番組「料理の鉄人」で使用されました。 カート・ラッセルは2006年の「Poseidon(ポセイドン)」でも火災に詳しい元消防士の市長を演じます。

「炎のメモリアル」はJay Russell(ジェイ・ラッセル)の監督で、主演の消防士のJack Morrison(ジャック)をJoaquin Phoenix(ホアキン・フェニックス)、消防署長のMike Kennedy(マイク・ケネディ)をしてジョン・トラボルタが演じて、アメリカのBaltimore(ボルティモア)での火災における消防士の生存者救出の様子をドキュメンタリー風に記録しています。 映画のヒーローである消防士のジャック役を演じたホアキン・フェニックスは2ヶ月も消防訓練を受け、このトレーニングによって高所恐怖症を克服したそうです。 映画には当時のボルティモア市長や2000人を越す数のボルティモア消防団員も出演したそうです。
映画のタイトルの「Ladder 49」とはジャックが所属する梯子隊49分署のことで火災現場で生存者を救出する最も危険な捜索救助隊(レスキュー)です。 ジャックは火災現場でポンプ車から水を放水する部隊に所属していたのですが同僚の殉職により人命救助活動を行う梯子隊に転属したのでした。

炎のメモリアルのあらすじ
以下のストーリーには驚くべき結末やどんでん返しはありません。 あるのは人の死を悼む深い悲しみと涙のみです。 それでもこれからビデオをご覧になる方は読まない方が楽しめます。
「炎のメモリアル」の冒頭は大きなビルが炎上するシーンです。 黒煙を立てて燃え盛る炎、その中で消防士たちや梯子車や救助ヘリコプターが集結した大掛かりな救助風景が描かれます。 その中にバルチモア消防署の梯子車隊に所属するジャック・モリソンの姿も見えます。 今回のビル火災はジャックがこれまでに経験した中でも最大の規模でした。 今にも焼け落ちそうな20階建てのビルの中で生存者を探す命がけの消防隊員たちの回りで階段は焼け落ち爆発もあちこちで起こります。 ジャックがビルの屋上から吊り下がり生存者を抱きかかえると登山のように反動を付けて体当たりしてガラス窓を破ってビル内に入りましたが、これは実際にあった救出方法なんだそうです。 このような状況ではまるでオーブンの中にいるようでスチールの階段なんて熱くて触れもしないだろう。 20階建てのビルの中ほどで怖がる生存者を勇気付けて脱出させた後、ジャックは爆発とともに燃え盛るビル内に閉じ込められてしまい、遂には焼け落ちた床の穴から数階下に落ちて気を失います。 ケネディ署長の元で訓練を積んで熟練したバルチモア消防署の消防士として成長したジャックでしたが、これまでも命の危険を伴う多くの勤務が最愛の妻の不満を呼び、今やジャックは人命救助の使命と家族の絆との分岐点に立っているというのに。 灼熱地獄の火災現場の床に落ちて身動きが出来ない状態で救助を待つ間、ジャックの回想シーンと現実の火災シーンが交互に描かれますが、映画観ている側が混乱するほどではありません。

ジャックが見習いとしてケネディ署長の下で第33消防隊に配属された日から現在の捜索活動をする49はしご隊に転属して活動したこれまでの回想です。
気絶から覚めたジャックは火災ビルに閉じ込められた現実に気付いたのですが、ジャックの窮地を報告された署長と連絡するも大規模な火災のため危険を伴い救助は遅々として進まないのです。
そのうちジャックは再び回想の中。
消防署の仲間たちの悪戯の思い出や数々の危険な経験を積んだエピソードの中にもジャックが運命の出会いをしたガートハントの思い出があります。 ジャックと同僚のデニスが買い物をしている時に知り合った二人連れのうち、運命の人、リンダに恋をして交際が始まったのでした。

一方、ビル内に到着した消防隊の仲間が防火扉を抉じ開けるとその中は見るも無残な焼け焦げ状態。 ジャックを呼んでみるが応答なし。 行く手を阻む鋼鉄を電気ノコで切断する間にも火は鎮火する様子もなく強まるばかり。
再度気絶から覚めたジャックだが身体は動かすことが出来ず再び回想の中。
回想ではリンダとの結婚式。 そして披露宴でのダンスではリンダがケネディ署長と踊りながら夫のジャックを守ってくれるように頼んでいる。 ケネディ署長を演じているジョン・トラボルタのダンスは「Saturday Night Fever(サタディナイト・フィーヴァー)」で有名ですが、2004年に「炎のメモリアル」の次に出演した「A Love Song For Bobby Long(ママの遺したラヴソング)」でもフィーバーではありませんがラストでダンスを見せています。
披露宴で隊員たちがコーラスしたのは、ファンク・グループのOhio Players(オハイオ・プレイヤーズ)が放った1974年の大ヒット曲でその名も”Fire”というようにイントロに消防車のサイレンが入っています。
Ohio Players – Fire – YouTube
さて極めつけは式の後、なんと消防車で新婚旅行に。 そして妊娠宣言! パパになったジャックでした。
回想は続いてジャックの一番の仲良しのデニスの殉職。 火災が起きたビルの屋上で消火活動に当たっていたデニスの足元が突如崩れ落ちて炎の中に転落したのです。 この火災シーンでもジャックが閉じ込められた20階ビルの火災シーンでも燃え盛る炎が全て本物だそうで迫力満点なのですが、これらはアメリカ各地で実際に起こった火災を撮影したのだそうです。 CGじゃない炎じゃ出演者はたまったもんじゃなかったでしょう。 死亡したデニスの家に消防署の赤い自動車で悲報を知らせに行く署長を涙を拭って見送るジャック。 ジャックはデニスの死をきっかけに転属を申し出たのでした。 放水して消火活動をするポンプ隊から人名救助をする梯子隊に。 現場では命がけの生存者救助が家庭に戻れば既にニュースで報道されて妻の知るとこととなる。 身重の妻はジャックに不安からくる不満をぶちまけるのだ。 しかし無事に赤ちゃんは生まれた。 赤ちゃんの額に滴る洗礼の水。
さて、現実に戻ると、ジャックの額に消火の水が滴り落ちている。 ふと我に返ったジャックは落下物をさけるべく辛うじて身体を移動だせる。 窮地を報告されたケネディ署長のジャッの救出作戦はジャックが横たわっている場所の裏側のコントロールルームだった。 必死で壁際ににじり寄り指示通りにレンガを削ってみる。
ここで又回想。 隊員たちの家族と一緒に娘の5歳の誕生日パーティー。 そして息子も加わった四人家族の幸せな生活。 そして明け方の4時に半鐘。 ベッドから飛び起きた隊員たちは6メートルものポールを滑り降りて防火服に着替えます。 火災現場では仲間が顔に大火傷してヘリで急送され、ジャックも手を負傷。 雪が降りしきるクリスマスイヴに起こった3階建アパートの火災では燃え盛る炎の中を取り残された少女を救出した後にミサで家族と合流し、人命救助で同僚ともども表彰されたこと。
さて、現実ではコントロールルームへのレンガ壁を有り合せの用具で慢心の力で壊しているジャック、ようやく小さな穴が空いて侵入できた時ジャックは地獄を見た。 そこは火の海。 ジャック救出劇は「危険につき撤退」を叫ぶジャックの要請で成就することはなかった。 ジャックをその場に置き去りにする他はないほど危険な状況だったのだ。
署長は不幸を伝えるべく赤い自動車でジャックの家を訪ねた。 そしてジャックからのリンダへの伝言を伝えたのだった。 「愛している。 初めて会った時からずっと。 子供たちを頼む…」

心は揺らいでも妻のたっての願いを聞き入れることなく命がけの任務についたジャックの最期にただ涙すれば済むことではない。 酸素ボンベも壊れ、生き地獄と化したビル内で身動きも取れずにいるというのに仲間を思って救助の手を自ら阻んだジャックの職務に対する責任感は美談で済むのか。
実は私の親戚にも消防署勤務の若者がいるのです。 登山の好きな大柄な青年ですが、奥さんや子供のことを考えると他人事とは思えません。 しかし、こういった危険な仕事は誰かがやらねばならないのです。 私たちもいつ消防士の助けを待つ身になるやもしれないのです。 消防署及び消防士の方々のご苦労に感謝します。 しかし、このような映画を観て自らを犠牲にする消防士という危険な職業を選ぶ人が多くなるとはとても思えません。 若い女性なら消防士と家庭を持つことを断念するかもしれません。 よって、この映画はひたすら人間離れした消防士の活動の尊さを伝える映画となっている感がします。

video「炎のメモリアル」の予告編が観られたアメリカのオフィシャル・サイトも日本のオフィシャルサイトも現在は終了しました。
「炎のメモリアル」のトレーラーが観られるLadder 49 Trailer – YouTube

Joaquin Phoenix and Billy Burke
Shine Your Light
Joaquin Phoenix and Jacinda Barrett左のリンダとジャックの画像はホアキン・フェニックスが演じるジャックとBilly Burke(ビリー・バーク)が演じる同僚のデニスがスーパーでナンパしたJacinda Barrett(ジャシンダ・バレット)が演じるリンダとその女友達との最初のデートのシーンで、「燃え盛る炎の中で人命救助なんてすごいわ。私にはとても出来ない」とリンダがジャックを賞賛します。

Shine Your Light by Robbie Robertson
「炎のメモリアル」の予告編やCMで流れている曲は涙をそそるエンディングで使用された胸を打つバラードで、The Band(ザ・バンド)のギタリストであるRobbie Robertson(ロビー・ロバートソン)が作った”Shine Your Light(シャイン・ユア・ライト)”です。
Robbie Robertson – Shine Your Light – YouTube
“The cry of the city like a siren’s song……Shine your light down on me”とロビー・ロバートソンが歌う”Shine Your Light”の歌詞はShine Your Light Lyrics – The Band

Robbie Robertson
ロック・グループのザ・バンドでギタリストとして名高いロビー・ロバートソンは1978年のMartin Scorsese(マーティン・スコセッシ)監督の映画「The Last Waltz(ラスト・ワルツ)」の製作に関わった後も何本もの映画の音楽を担当したり出演したりしています。

Ladder 49 DVD
2005年発売の「炎のメモリアル」日本語字幕版DVD
Dvd.jpg炎のメモリアル プレミアム・エディション


Ladder 49 Soundtrack
「炎のメモリアル」のオリジナル・サウンドトラックはWilliam James Ross(ウィリアム・ロス)が音楽を担当しましたが、ロビー・ロバートソンが歌った”Shine Your Light”や”Reflection-Adagio”の他、オハイオ・プレイヤーズの”Fire”やBonnie Raitt(ボニー・ラット)が歌う”Love Sneakin’ Up On You”など13曲が収録されています。
laddar_cd2.jpg炎のメモリアル オリジナル・サウンドトラック
2005年発売の国内盤サントラですが試聴が削除されました。アルバム全13曲が試聴できるのはSoundtrack.Net

Ladder49 SoundtrackLadder 49 Original Soundtrack


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2005年にカントリー歌手のジョニー・キャッシュ伝記「ウォーク・ザ・ライン」では自分で歌ってサウンドトラックを担当したホアキン・フェニックスは実際にプエルトリコ出身の歌手として活動しており、2008年には俳優引退宣言をしてラッパーに専念すると宣言したのですがこれがとんでもないことに。(詳しくは上記のウォーク・ザ・ライン参照)

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クエンティン・タランティーノが監督した「パルプ・フィクション」などいつもクールな役を演じるトラヴォルタが2007年の黒人差別にも触れたミュージカル映画「Hairspray(ヘアスプレー)」ではなんと女装してヒロインのママを演じます。