情欲の悪魔 Love Me or Leave Me by Doris Day (1955)

Love Me Or Leave Me (VHS)

 

Doris Day and James Cagney in Love Me or Leave Me (1955)
Doris Day – Love Me Or Leave Me (LP Greatest Hits) – YouTube

情欲の悪魔 (1955年)
「情欲の悪魔」は言語の題名は”Love Me or Leave Me”と”愛してくれないならほっといて頂戴”というような意味です。 日本語のタイトルが英語でいうと”the devil of desire(or, passions)”とスゴイですが、ドリス・デイが演じる人気歌手だったRuth Etting(ルース・エッティング)の伝記映画です。

ルース・エッティングが客相手の踊り子(dime-a-dance girl )から大スターに上り詰めるまでがCinemaScope画面で繰り広げられる大メロドラマです。 この楽屋裏話的伝記映画は数ある50年代のMGMミュージカル映画の中でも異色的大ヒットで、原作者で脚本を手がけたDaniel Fuchs(ダニエル・フックス)は同年のアカデミー賞原案賞を受賞しました。 監督はCharles Vidor(チャールズ・ヴィダー)で、主役は実在したTorch Singer(トーチ・シンガー)のルース・エッティングにDoris Day(ドリス・デイ)、ルースの夢をかなえようとするシカゴ・ギャングMartin “The Gimp” Snyderにギャングといえば!身長は165センチと低めなれど1938年の「Angels with Dirty Faces(汚れた顔の天使)」や1949年の「White Heat(白熱)」などで凄みのあるギャングを演じたJames Cagney(ジェームズ・キャグニー)が扮しています。 ギャング役が多いとはいえ、キャグニーは歌もダンスもこなす元ボードビリアンで、その世界の重鎮であったジョージ・M・コーハンを演じてオスカーの主演男優賞を受賞した「Yankee Doodle Dandy(ヤンキー・ドゥードゥル・ダンディ)」では素晴らしいタップの足さばきをご披露しています。 「情欲の悪魔」でドリスデイが演じるルース・エッティングと恋に落ちるクラブのピアノ弾きジョニーを演じたのは1953年の「百万長者と結婚する方法」で隠れ大富豪を演じ役得だったCameron Mitchell(キャメロン・ミッチェル)です。 ミッチェルは1954年の「Garden of Evil(悪の花園)」ではゲイリー・クーパーとリチャード・ウィドマークが主役を張っている中、ヒロインを手篭めにしようとした不届き者のダメ男ルーク・デイリーを、1955年の「House of Bamboo(東京暗黒街・竹の家)」では捜査官のロバート・スタックと犯罪集団ボスのロバート・ライアンが際立つなかボスに密告を疑われて風呂桶で射殺される損な子分を演じています。
ジェームズ・キャグニーは1957年に「Man of a Thousand Faces(千の顔を持つ男)」で怪奇映画のレジェンドだったロン・チェイニーを演じるなど多彩な役柄をこなし86歳の時心臓発作により亡くなりました。

舞台は1920年代のシカゴ、クラブのオシボリ屋(ギャングの縄張り事業)がクラブ歌手に捧げる盲目的で破壊的な愛の物語です。 ジェームズ・キャグニー演じる三流ギャング(チンピラ)のMartin Snyder(実際の名はMartin “Moe the Gimp” Snyder マーチン・スナイダー)は、しがない踊り子だったルース・エッティングを見初め、彼女のスターになる夢をかなえるため強引な手段で芸能コネを駆使して後押しをします。

映画はミラーボールが煌めくシカゴのダンスホールのシーンから始まります。 騒音の中、一人の男がルース(ドリス・デイ)に近づき手にコイン(10セント)を渡すと二人は踊り始めます。 そこに登場するは片足を引きずるマーチン・スナイダー(キャグニー)、清掃業実は界隈のチンピラギャングですが客とのトラブルでクビになった歌手志望だというルースに興味を持って楽団のピアニストのジョニーを雇って歌手に育てることに。 マーチンの後援を得てルースは売れていき結婚もするのだが、ハリウッドで映画出演が決まるが映画の音楽監督がジョニーと聞くと異常な嫉妬に狂ってしまう。 マーチンはルースの考えだとしてジョニーを音楽監督から外したがそれを知ったルースは激怒してマーチンと別れてしまう。 ルースとジョニーが一緒にいるとマーチンが駆け付けて来てジョニーを撃ってしまい刑務所に入れられます。 月日が流れ保釈されたマーチンは自分が全財産を投じたナイトクラブがオープンする夜に行ってみると、ルース・エッティング出演及びマーチン・スナイダー提供と書かれていました。 嬉し泣きしながらやっぱり自分の見込みは正しかったと呟くのです。 ちなみにこれを最後にキャグニーはギャング役を演じなくなりました。 ドリス・デイの舞台衣装は素敵ですが特に”Shaking the Blues Away”のブルーとラストでの”Love Me or Leave Me”のグリーンのドレスがゴウジャス。(愛してないなら消えて、新しい男ができたの…)

Doris Day sings “Everybody Loves My Baby” in Love Me or Leave Me – YouTube
Doris Day sings “Shakin The Blues Away” in Love Me or Leave Me – YouTube

James Cagney and Doris Day

この映画では観客は歌手のルース・エッティングに加勢します。 ルース・エッティングをスターの座に押し上げるためにギャングが使った強引な手段が、もぐり酒場から抜け出ようとするルース・エッティングをいかに傷つけたかが分かります。 しかし、この映画はルース・エッティングのギャングを利用する計算高さもまた知ることができます。 彼の強引手腕をを甘んじて受け、その代償として結婚までしているのですから。 ですが、成功を得るために愛していない結婚生活を続けたルース・エッティングにもミュージシャンとの恋が訪れます。 この映画を観ている人々は強引な脅しの裏の危うさを見せるキャグニーにはぞっとしますが、また同時に憎めず同情すらするのです。 その常に一枚看板のジェームズ・キャグニー自身がルース役をドリスデイにとプロデューサーに提案し配役順(主演)をドリス・デイに譲ったのですがオスカーの主演男優賞にノミネートされたのはキャグニーだけでした。
この映画で貴方はどっち派? 歌手?・・・それともギャング?

ジャズ・エイジといわれたローリング・20年代と30年代のアメリカでは「Sweetheart of Chicago」(シカゴの恋人)の異名をとったルース・エッティングを知らない人はいない位にラジオから流れてきたそうです。 そして、この映画「情欲の悪魔」でルース・エッティングを演じるのが我等が恋人「 ドリス・デイ」なのです。 1956年の映画”The Man Who Knew Too Much”(知りすぎた男)では結婚のために引退した元歌手役のドリス・デイが迫真の演技で歌う「Que Sera, Sera(ケセラセラ)」が1957年のアカデミー歌曲賞を獲得しましたね。
「情欲の悪魔」の情報と写真が見られ歌も聴けるThe Film Of Doris Day – Love Me or Leave Me

この映画はドリス・デイがLes Brown and His Band(レス・ブラウン楽団)専属歌手からMarty Melcherのエージェントで映画女優になった時期の作品です(Martyとは1951年に結婚しました)

辛口批評のFrancois Truffaut(フランソワ・トリュフォー)がこのミュージカル映画「Les pie`ges de la passion」(情欲の悪魔のフランス語のタイトル)を「ジャンルを超えて鋭く描がれている」(?)と批評しており、ジェームズ・キャグニーは彼の自伝のなかでドリス・デイを褒め称えていて、彼女がこの映画の後はホーム・コメディに戻ってしまったことを惜しんでいたそうです。

Listen

☆「情欲の悪魔」他、写真が一杯のドリス・デイの映画サイトDorisday.netの「情欲の悪魔」特集のページでオープニングに流れる音楽「Love Me or Leave Me」他が聴けます。(特大写真付き) この素晴らしいサイトは「知りすぎた男」、「パジャマゲーム」、「先生のお気に入り」、「夜を楽しく」などドリス・デイ出演映画が音声付で沢山あります。

Love Me or Leave Me
“My Blue Heaven(私の青空)”で知られるWalter Donaldson(ウォルター・ドナルドソン)作曲Gus Kahn(ガス・カーン)作詞の「ラヴ・メー・オア・リーヴ・ミー」は1928年に「Whoopee!」というブロードウエイの舞台でRuth Etting(ルース・エッティング)によって歌われました。 ”Love Me or Leave Me”はルース・エッティングやドリス・デイだけではなく、Lena Horne(リナ・ホーン又はレナ・ホーン)やNina Simone(ニーナ・シモン)、Billie Holiday(ビリー・ホリディ)、Anita O’Day(アニタ・オデイ)、Sarah Vaughan(サラ・ヴォーン)やPeggy Lee(ペギー・リー)そしてElla Fitzgerald(エラ・フィッツジェラルド)といった女性ヴォーカリストだけではなくてSammy Davis Jr.(サミー・デイヴィス・ジュニア)なども歌っている人気の曲ですが、演奏でもトランペッターのMiles DavisChet BakerをはじめテナーサックスのColeman Hawkinsなど多くのジャズメンに好まれています。
Love me or leave me, and let me be lonely…とドリス・デイが歌うLove Me or Leave Meの歌詞はLove Me or Leave Me Lyrics – LyricsMania.com

 
 
上記の画像はサントラCDですが、「Love Me Or Leave Me: From The Sound Track (1955 Film)」や「Love me or leave me soundtrack LP」というレコードもあります。 1927年から29年にルース・エッティングが歌いドリス・デイがよりロマンチックに歌った曲ではタイトル曲の”Love Me or Leave Me”の他に”It All Depends On You”、”Mean to Me”、”I Cried for You”、その他ではハリー・ジェームスが作ってHelen Humesが歌った”You Made Me Love You”などが好きです。 ちなみに”I’ll Never Stop Loving You”は作曲のニコラス・ブロズスキーと作詞のサミー・カーンがオスカー(アカデミー)の歌曲賞にノミネートされました。

情欲の悪魔のサウンドトラックCD曲目リスト
It All Depends On You by Ray Henderson, B.G. DeSylva and Lew Brown;
You Made Me Love You by James Monaco and Joe McCarthy;
Everybody Loves My Baby by Spencer Williams and Jack Palmer; Sam,
The Old Accordian Man; At Sundown by Walter Donaldson;
Love Me Or Leave Me by Donaldson and Gus Kahn;
My Blue Heaven by Donaldson and George Whiting;
Shaking The Blues Away by Irving Berlin;
Ten Cents A Dance by Richard Rodgers and Lorenz Hart;
I’ll Never Stop Loving You by Nicholas Brodszky and Sammy Cahn;
Never Look Back by Chilton Price;
Mean To Me by Roy Turk and Fred Ahlert;
Stay On The Right Side Sister by Ted Koehler and Rube Bloom;
I’m Sitting On Top Of The World; Five Foot Two by Sam M. Lewis, Joe Young and Ray Henderson.

Five Foot Two, Eyes of Blue

トーチ・シンガーとはTorch Song(トーチ・ソング)を歌う歌手のことで、トーチソングとはナイトクラブで演奏される悲しみを綴った恋歌(失恋や片想い)のことです。 ルース・エッティングの他に殿方の心を揺り動かすようなスウィングジャズ時代のトーチシンガーといえば黒人では” I Cried for You”のHelen Humes、”Can’t Help Lovin’ That Man”のLena Horne、”Lover Man”のBillie Holiday、”Dream a Little Dream of Me”のElla Fitzgeraldなど、白人では”Black Coffee”のPeggy Leeや”Cry Me a River”のJulie Londonなどが知られています。(男性の代表は”One for My Baby”のフランク・シナトラ)
また、冒頭に書いた「客相手の踊り子(dime-a-dance girl )」とはシカゴなどのギャングが仕切る場末のモグリ酒場などで一曲踊るごとに客から金を貰うダンサーのことですが、中には生活苦からか売春婦まがいのダンサーもいたそうです。

video

Ruth Etting
”My Mother’s Eyes”を歌うルース・エッティングが観られるRuth Etting Favorite Melodies(1929) – YouTube
ルース・エッティングのMean To Me、Let Me Sing and I’m Happy、Build a Little Homeが聴けるwfmuラジオのプレイリスト December 30, 1995: The Old Codger: Older than the first knock-knock joke(Listen to this show (MP3 128K)をクリック、最初から2番目の曲と12と13番目、でしたが私のブラウザでは不具合が起こるのでPop-up Playerにしています)
ルース・エッティングのIt All Depends on You、Ten Cents a Dance、Sweeping Cobwebs off the Moon、The Varsity Dragが聴けるプレイリストは Playlist for Old Codger with Courtney T. Edison – May 8, 1991(Listen to this show (MP3 128K)をクリック、最初から6番目から4曲続けて)

Ten Cents a Dance by Ruth Etting

ノスタルジックなルース・エッティングの歌声を聴いて下さい。
Ten Cents a Dance
試聴はTen Cents a Dance – AllMusic.com

※ドリス・デイの「Love Me or Leave Me」は、オリジナルのルース・エッティングがミュージカルで歌ったものですが、その他にも1930〜1940年代の歌手のTeddy Grace(テデイ・グレイス)がいます。 1938年頃に「Love Me or Leave Me」を歌ったテデイ・グレイスは、Bobby Hackett(ボビー・ハケット)やJack Teagarden(ジャック・ティーガーデン)などをバックに主に南部のラジオで歌った短命の歌手です。 当時は後に大物ジャズメンとなったロイ・エルドリ ッジテディ・ウィルソンが歌手のバックを勤めることが多かったようです。

「情欲の悪魔」で主演した歌手で女優のドリス・デイについて詳しくはAudio-Visual Trivia内の「Doris Day