ナット・アダレイ Work Song by Nat Adderley

STEREO 1167 RIVERSIDE SR – 7012
Work Song LP Nat Adderley
Nat Adderley – Work Song (LP)
Nat Adderley – Work Song (1960) – YouTube

Nat Adderley (1931 – 2000)
Work Song(ワークソング)をはじめJive Samba(ジャイヴ・サンバ)などの作曲者と知られるナット・アダレイはアルト・サックス奏者のJulian “Cannonball” Adderley(キャノンボール・アダレイ)を兄に持つコルネット奏者です。 やはりキャノンボール・アダレイが演奏しているOld Country(オールド・カントリー)はジャズスタンダードの作曲者であるCurtis Reginald Lewis(カーティス・R・ルイス)の作品ですがナット・アダレイがアレンジしたのでしょうか。 All You Need to Say (Never Say Yes)の方はナット・アダレイとニューヨーク出身のミュージシャン(アレンジャー、作詞家)のChris Caswell(クリス・キャスウェル)とのコラボのようです。
ナット・アダレイは最初は歌手として音楽界に入り、それから楽器演奏でトランペット、そしてコルネットへと転向し、1800年代初期に考案されたフレンチ・ホーン(又はフレンチホルン)も演奏するそうです。

ナット・アダレイは1951年にLionel Hampton(ライオネル・ハンプトン)楽団に参加した後、1955年にトランペット(管)のJerome Richardson(ジェローム・リチャードソン)やピアノのHank Jones(ハンク・ジョーンズ)やドラムのKenny Clarke(ケニー・クラーク)などと組んだクィンテットでアルバム「That’s Nat」を録音し(You Better Go Nowが美しい)、1956年には兄のキャノンボール・アダレイが結成したCannonball Adderley Quintet(クィンテット)のメンバーとなりましたが経営難もあり1957年に解散してしまい、キャノンボール・アダレイはマイルス・デイヴィスとジョン・コルトレーンのバンドに参加しました。 しかしその後のハードバップ又はファンキー・ジャズ全盛期の1959年に兄弟でソウル・ブルース・スタイルの五重奏団を結成して大成功しています。 キャノンボール・クィンテットのCannonball Adderley Quintet in Chicago with John Coltraneではジョン・コルトレーンと共演しています。 Miles Davis(マイルス・デイヴィス)の1958年のアルバム「Something ELse」に収録されたキャノンボール・アダレイをフィーチャーした”Autumn Leaves”は素晴らしいですが、1967年代にはキャノンボール兄弟の”Mercy, Mercy, Mercy(マーシー・マーシー・マーシー)”が大ヒットしました。
The Cannonball Adderley Quintet with Nat Adderley – Mercy, mercy, mercy LIVE – YouTube
Cannonball Adderley with Nat Adderley – Jive Samba 1963 – YouTube

Cornet
コルネットという角笛型のクリーム入り菓子パンがありますが、楽器のコルネットは金管楽器(リード楽器)の一種でトランペットよりも柔らかな音が出るそうです。 コルネットも演奏したジャズミュージシャンはKing Oliver(キング・オリバー)や、Red Nichols(レッド・ニコルス)などがいましたが、トランペッターのBix Beiderbecke(ビックス・バイダーベック)やLouis Armstrong(ルイ・アームストロング)も初期にはコルネットを吹いたようにジャズの初期に使用された楽器ですが第二次世界大戦後は廃ったそうです。 コルネットとトランペットとの相違点は管が2回巻きで伸ばした時の管の形が半分以上の2分3が円錐管であり、トランペットよりもちょっと小ぶりな楽器であることです。

Work Song
1960年にアメリカ南部の黒人囚人の強制屋外労働を憂う歌で別名が”Work Song”ともいう”Chain Gang”をSam Cooke(サム・クック)が作って歌い大ヒットしました。(チェイン・ギャングとは主に南部で1950年代半ばまで鎖に繋がれた強制労働に従事させられた囚人たちのこと) 一方、ナット・アダレイが1960年に作曲した”Work Song”はキャノンボール・アダレイの五重奏団の演奏で有名です。 他にもDuke Ellington(デューク・エリントン)、Count Basie(カウント・ベイシー)、Charles Mingus(チャールス・ミンガス)、Oscar Peterson(オスカー・ピーターソン)、J.J. Johnson(JJジョンソン)、Gene Ammons(ジーン・アモンズ)、Wes Montgomery(ウェス・モンゴメリー)、Quincy Jones(クィンシー・ジョーンズ)なども演奏しており、新しいところではポスト・バップのアルト・サックス・プレイヤーのSherman Irby(シャーマン・アービー)が2009年の日本デビュー・アルバム「Work Song -Dear Cannonball-(ワーク・ソング-ディア・キャノンボール-)」(ASIN: B001J5XMGE)にアダレイ兄弟の作品である”Work Song”と”Jive Samba”を収録しています。
Sherman Irby – Work Song (Work Song -Dear Cannonball) – YouTube
一方、ボーカル・バージョンではSammy Davis Jr.(サミー・デイヴィス・ジュニア)、Billy Eckstine(ビリー・エクスタイン)、Joe Williams(ジョー・ウィリアムス)、女性では黒人公民権運動(ブラックパワー)に積極的だったNina Simone(ニーナ・シモン)がカバーしており、白人ではBobby Darin(ボビー・ダーリン)、作詞者のOscar Brown Jr.(オスカー・ブラウン・ジュニア)自身も歌っています。(やはりボーカルバージョンではオスカーが最高!)
強制労働に従事させられた囚人の哀歌として1960年に”ワーク・ソング”に歌詞を付け自身の初アルバム「Sin & Soul…And Then Some」に収録したオスカー・ブラウン・Jrは、シカゴ出身のジャズ歌手にして作詞者で公民権運動にも関与した人物だそうです。 惜しくも2005年に亡くなってしまったオスカー・ブラウン・ジュニアですが、他の何人かの黒人歌手がやったように差別を訴える曲を歌うのだけではなく、人権問題をアピールした詩を発表したり議員にもなって活動しようとしたそうです。
☆日本では1966年に尾藤イサオがブルーコメッツをバックに”クサリにつながれて、朝から晩まで….もうシャバには戻れない”と歌ってヒットしましたが1967年の大島渚が監督した「無理心中 日本の夏」でフーテン役の桜井啓子が歌っていました。 ”Breaking rocks out here on the chain gang …”と歌われるワークソングの歌詞はWork Song Lyrics – Genius.com
♪アルバム「Sin & Soul & Then Some」からオスカー・ブラウン・Jrのワークソングが聴けるwfmuラジオのプレイリストはPlaylist for Inner Ear Detour with David – April 17, 2003(Listen to this show: RealAudioをクリック、クリップポジションを53:46に移動)
※ナット・アダレイといえばファンキーな”ワーク・ソング”が代表的な曲で、ワーク・ソングとはアメリカ版「ソーラン節」や「よいとまけ」といった民謡(労働歌)ですが、もっと哀愁や過酷な労働を憂う内容を加味して南部の黒人奴隷や囚人たちが労働中にリーダー格のひと声にその他大勢が応答してくり返し応唱する形式の歌は奴隷たちの故郷の西アフリカに先唱と応唱という歌の形があるそうです。(南部のワークソングは後の黒人霊歌やブルースとなりました)

About Nat Adderley’s Work Song – YouTube
Cannonball Adderley Sextet – Work Song – YouTube
Sammy Davis Jr. with Count Basie – Work Song – YouTube

Work Song STEREO 1167 RIVERSIDE SR – 7012
ページトップの画像は名曲”Work Song “がタイトルとなっているナット・アダレイの1960年録音の「Work Song 」の国内盤です。(パーシー・ヒースのチェロ演奏が珍しいこのLPには右下にRiversideのマーク有り) オリジナルはRiverside RLP 12-318でしょうか。 私が所有しているこの国内盤LPレコードは「モダン・ジャズ名盤蒐集会選定盤 37 – 12」となっていて、タイトルは「ワーク・ソング/ナット・アダレイ Work Song: Nat Adderley」です。 イントロでボルテージ100%(興奮度)となるこの盤のナット・アダレイの”Work Song”以外は受け付けません。
※名盤蒐集会とは1960年代初期にジャズ評論界の重鎮4人で構成され、毎月2枚のレコードを選定し推薦した由緒正しき”国内盤”LPレコードです。(お墨を付けたメンバーは油井正一、植草甚一、野口久光、藤井肇)
当時は学生だった私が貯めたお小遣いでステレオを購入したのも昭和35年(1960年)頃でしたが、実演ジャズ喫茶が100円、葉書が5円、山手線の初乗りが10円、初任給は1万円弱の当時でLP1枚の1800円はかなりの出費でした。 日本からの持ち出し外貨制限が500ドルで海外渡航が自由化されていない1960年代、1949年から1971年までは1ドルが360円の固定相場だったから輸入盤は高値の花、よって国内プレス盤が発売された次第です。
ナット・アダレイが1960年に作曲した”ワーク・ソング”は1962年にオスカー・ブラウンJr.が詞をつけたそうで多くのジャズメンが演奏しボーカリストが歌っています。 例えば1998年にニューヨークのブルーノート・クラブで録音されたRay Brown(レイ・ブラウン)とMilt Jackson(ミルト・ジャクソン)とのオスカー・ピーターソン・トリオが演奏するライヴアルバムで、ミルト・ジャクソン最後のセッション盤「The Very Tall Band: Live At The Blue Note」ではレイ・ブラウンのソロ・メドレーでナット・アダレイのWork Song(ワーク・ソング)のフレーズが聴けます。
演奏メンバーはコルネットがナット・アダレイ、ギターが録音当時37歳のWes Montgoery(ウェス・モンゴメリー)、ピアノが”モーニン”の作曲者でジャズ・メッセンジャーのメンバーだったBobby Timmons(ボビー・ティモンズ)、ベース(セロ)がSam Jones、セロ(ベース)Keter Betts(キーター・ベッツ)、ベースがMJQのメンバーのPercy Heath(パーシー・ヒース)、ドラムがホレス・シルバーが見出した新人Louis Hayes(ルイ・ヘイズ)です。 当時は新人トランペッターであったナット・アダレイのアドリブのきいたコルネットとギターと爪弾きのベースやセロのコンビネーションが絶妙の異色アルバムです。 ナット・アダレイのミュートを付けたエモーショナルなコルネットはまるでMiles Davis(マイルス・デイヴィス)のサウンドのようです。

Work Song
Work Song CD Nat Adderleyナット・アダレイの素晴らしいコルネットとセロとギターを前面に、リズムセクションは一流のピアニストやベーシストやドラマーが受け持った当時の演奏を蘇らせる再リリース盤です。
この他に1991年リリースの輸入盤CDや2008年リリースのUniversal Japan盤「Work Song [Original recording remastered]」や「Riverside mono RLP 1167 リバーサイド、モノラル盤12-318」など別のCDがあります。

この2004年リリースのRiversideアルバム「Work Song」は [Hybrid SACD]ですが、SACDの互換機が必要だとか、SACDとはSuper Audio CD(スーパーオーディオCD)のことでSACDは対応プレーヤーのみ再生可能ですが、Hybrid SACDは通常のCDプレーヤーおよび、SACD対応プレーヤーの両方で再生可能だそうですが購入したことがないので不明。(DVD-AudioとSACDの互換機DV-AX10をパイオニアが発表したと聞きますが)
※リバーサイドからはナット・アダレイが参加している五重奏団で「キャノンボール・イン・サンフランシスコ」や、六重奏団では「キャノンボール・イン・ニューヨーク」などがリリースされています。

アルバム「Work Song 」の曲目紹介
A面
1 Work Song(ワーク・ソング)
ナット・アダレイが自作自演するミュート・コルネットが魅力の定番曲。
2 Pretty Memory(プリティー・メモリー)
ボビー・ティモンズの作曲
3 I’ve Got A Crush On You(アイヴ・ガット・ア・クラッシュ・オン・ユー あなたに夢中、又はあなたに首ったけ)
ガーシュイン(ガーシュウィン)兄弟が作ったジャズ・スタンダードの名曲 Adderley-Montgomery-Jones trio
4 Mean To Me(ミーン・トゥ・ミー)
ジャズ・スタンダードをナット・アダレイのコルネットにウェス・モンゴメリーのギターがバック
5 Fallout(フォールアウト)
ナット・アダレイがオープン・コルネットで演奏する自作のファンキーな曲

B面
1 Sack Of Woe(サック・オブ・ウォウ)
キャノンボールが作ったファンキーな曲。
2 My Heart Stood Still(マイ・ハート・ストゥッド・スティル)
ロジャース&ハートの名曲をナット・アダレイががスゥインギーに演奏
3 Violets For Your Furs(コートにすみれを)
マット・デニス作曲のバラード Adderley-Montgomery-Jones trio
4 Scrambled Eggs(スクランブルド・エッグス)
なたね卵とか菜の花卵と呼ばれる炒り卵のことでアップテンポのいそがしい曲、ナット・アダレイのオープン・コルネットのソロが聴けますがSam Jones(サム・ジョーンズ)の作曲だけあってベースが効いている。

この傑作バップアルバムは2003年にCD化されたFantasyのOriginal Jazz Classicsシリーズの1枚で、オリジナル録音はNat Adderly Quartets(カルテット)としての初アルバムとなる1961年のRiversideLPだそうです。 クインテットの演奏メンバーはナット・アダレイがコルネットを演奏していますが、キャノンボール・アダレイのグループからベースのSam Jones、ドラムのLouis Hayes、ピアノのJoe Zawinulが参加、又マイルスと演奏していたピアノのWynton Kelly、ベースのPaul Chambers、ドラムのPhilly Joe Jonesなどです。
☆2000年リリースの「ナチュラリー! 」の他、2006年リリースの「ナチュラリー! (紙ジャケット仕様) ~ ナット・アダレイ」もあり。
♪ タイトル曲の他にSonny Rollins(ソニー・ロリンズ)の”Oleo”や”Love letters”など8曲を収録しているアルバム「Naturally」の試聴はNaturally – Amazon.com
☆1945年にVictor Popular Young(ヴィクター・ヤング)が作曲した人気のジャズのスタンダード曲”Love letters”についてはAudio-Visual Trivia内のKetty Lester(ケティ・レスター)

Soul Of The Bible
「Soul Of The Bible」(ASIN: B00008LPK3)
2003年のBlue Note 2枚組全14曲を収録したアルバムでキャノンボール・アダレイ名義になっているCDも見かけました。 オリジナルは1972年録音だそうですが現在は入手困難となっています。
試聴はSoul Of The Bible – Amazon.co.jp

Branching Out by Nat Adderley Quintet
Branching Out
Branching Out

オリジナルは1958年のナット・アダレイのRiversideでの初レコーディングです。 キャノンボール・アダレイ・クィンテットと再結成する1年前ほどの1958年にしていますが、「Branching Out」ではハードバップのジャズテナー奏者のJohnny Griffin(ジョニー・グリフィン)、”Summertime”が素晴らしいピアニストのGene Harris(ジーン・ハリス)のThe Three Sounds(ザ・スリー・サウンズ)とレコーディングしています。 ナット・アダレイのオリジナル2曲の他、ジャズスタンダードの”Don’t Get Around Much Anymore”などを収録しています。 試聴ができる国内盤の「ブランチング・アウト」(ASIN: B00154QS06)もあり。

Blues for Dracula
1958年にナット・アダレイとジョニー・グリフィンはピアニストのTommy Flanagan(トミー・フラナガン)やトロンボーンの Julian Priester(ジュリアン・プリースター)が参加したドラマーのPhilly Joe Jones(フィリー・ジョー・ジョーンズ)名義のRiversideアルバム「Blues for Dracula」でも共演しています。 ジョニー・グリフィンの作曲したアルバムのタイトル曲”Blues for Dracula”のイントロではホラー映画好きのドラマーのフィリー・ジョー・ジョーンズが1930年代に「Dracula(魔人ドラキュラ)」や「White Zombies(恐怖城)」などの恐怖映画に出演したBéla Lugosi(ベラ・ルゴシ)の物真似をしています。
♪ RiversideのLPバージョンの”Blues for Dracula”が聴けるwfmuラジオのプレイリストはPlaylist for Marty McSorley – October 29, 2008(Listen to this show: RealAudioをクリック、クリップポジションを1:07:14に移動)
ハロウィーンにもピッタリのアルバム「ブルース・フォー・ドラキュラ」の試聴はBlues for Dracula – Amazon.com

A Little New York Midtown Music
ナット・アダレイとジョニー・グリフィンとは1978年にもベースのRon Carter(ロン・カーター)が参加したNat Adderley Quintet(クィンテット)のアルバム「A Little New York Midtown Music」(ASIN: B00000HZP1)で共演しています。
試聴はA Little New York Midtown Music – Amazon.com

The Most Relaxing Jazz Standards in the Universe
2003年からリリースされているジャズ・コンピレーション・アルバム「The Most Relaxing Jazz」シリーズがありますが、このジャズのスタンダード集の2004年にリリースされた「The Most Relaxing Jazz Standards in the Universe」にはナット・アダレイが演奏する”Can’t Give You Anything But Love”がキャノンボール・アダレイの”Willow Weep for Me”とともに収録されています。(キャノンボール・アダレイといえば私は”Autumn Leaves”が好きですがこれはThe Best Blue Note Album In The Worldなどに収録されています)
☆Audio-Visual Trivia 内の「The Most Relaxing Jazz Standards in the Universe

Nat Adderley plays Sister Sadie
私が持っているRiverside(リヴァーサイド)からリリースされた33回転のLPで、Horace Silver(ホレス・シルヴァー)が作曲した曲を集めた「The Compositions of Horace Silver」(SR-3022)という33回転LP(オリジナルLPはおそらくRiverside 12″LP: RS 93509)があり、A面にナット・アダレイが演奏する”Sister Sadie”を収録しています。
♪ ナット・アダレイの”Sister Sadie”が聴けるwfmuラジオのプレイリストはPlaylist for Gaylord Fields – May 21, 2006(Listen to this show: RealAudioをクリック、クリップ・ポジションを1:10:13に移動)