黄金の腕 The Man with the Golden Arm (1955)

Man With the Golden Arm (VHS)
Frank Sinatra in The Man with the Golden Arm
Frank Sinatra as Frankie Machine in The Man with the Golden Arm
Elmer Bernstein – The Man With The Golden Arm – YouTube.com

黄金の腕(1955年)
”The Man with the Golden Voice”(黄金の喉を持つ男)といえば60年代に人気だったイギリス人歌手のMatt Monro(マット・モンロー)ですが、この映画は原題は英語で「Man With the Golden Arm」(黄金の腕を持つ男)というヘロイン中毒の賭博師の更生物語です。
1944年の「Laura(ローラ殺人事件)」や1957年の「Bonjour tristesse(悲しみよこんにちは)」などで知られるOtto Preminger(オットー・プレミンジャー)が監督したモノクロ映画で、麻薬犯罪を扱った問題作であり、ヒューマン・ドラマでもあります。 主役の元ヘロイン中毒のギャンブラーFrankie Machine(フランキー)の役に飛びついたのが1968年にはGordon Douglas(ゴードン・ダグラス)監督の「The Detective(デカ)」や「Lady In Cement(セメントの女 )」で刑事を演じるFrank Sinatra(フランク・シナトラ)でした。 オファーを受けていたマーロン・ブランドを出し抜いてシナトラが契約し、当時シナトラの実生活での恋人だった「媚薬」のKim Novak(キム・ノヴァク)を出演させてお熱いところを見せています。 車椅子生活をするフランキーの妻ザシュ役で往年の美人女優のEleanor Parker(エリノア・パーカーもしくはエリナ・パーカー、昔はエレノア・パーカーと言う表示でした)が出演していますがフランキーと同じアパートに住むモリーを演じたキム・ノヴァクに食われました。(パーカーは2013年91歳で逝去) ヤクの売人ルイには「Mickey Spillane’s Mike Hammer(私立探偵マイク・ハマー)」のDarren McGavin(ダレン・マッガヴィン、ダーレン・マクギャヴィン)が演じています。

黄金の腕のあらすじ
ソウル・バスのタイトル・デザインにエルマー・バーンスタインのインパクトのあるテーマ曲で始まる映画です。 黄金の腕を持つ男、賭博師として凄腕のフランキーは博打場の手入れに合いデイラーだったので刑務所(更正施設)にぶち込まれたのですが病院でヘロインを絶って半年後にシャバに戻りました。 出所祝いにとムショのバンドから貰ったドラムセットを手に家に戻ったフランキー、ムショで練習したドラムで身を立てようと新しい人生に賭けるつもりなのに麻薬の売人のルイや賭博場を開いているシェイフカはデーラーになれと誘惑し、車椅子の美人妻ザシュは足の治療のために新しい医者に行きたいと元のバクチ打ちに戻れとのたまうのです。 なんか怪しい。 一人でいると寂しいからと呼子笛を吹くザシュはフランキーが出かけると車椅子から降り立って歩いているのです。 25歳のザシュは3年前にフランキーが起こした飲酒運転事故で車椅子の人となったので夫のフラキーは責任を感じています。 シェイフカにチクられバンド用の服の万引き犯人として留置場入りしたフランキー、ここを出たけりゃ万引き代金を払えと脅され、止むを得ずデーラーに返り咲く。 カードを配る手が震えるフランキーはモリー・オー(ノヴァク)が務めるクラブに行くと「天性がある」とお世辞を言われ芸名も披露する。(ジャック・デュバル) モリーとの生活を考えようにも妻の足が治らなければどうしようもないと言うフランキーだ。 リハビリの医師が紹介してくれたハリー・レーン氏から電話はこないし、ザシュが呼んだ新しい医者に事故のことを詳細に語られるしで居た堪れずに外に出るフランキーを酒場で待ち構えるのは「俺は待ってるぜ」の売人のルイ。 遂に目配せするルイを追って店を出たフランキーにテーマ曲が大音量でかぶさる。(この後もフランキーがヤクを打ちにルイの部屋に向かう時にテーマ曲が流れる) 靴底に隠した白い粉を用意して待つルイの部屋に入るなりシャツの腕を捲り上げるフランキー、半年前には2ドルだった一回分が5ドルに値上げされたのが悔しい。 家に戻ればドラムのスティックが棚の中に。 怪訝に思うも妻は動けないんだからと疑惑を振り切るフランキーはザシュを騒音で悩ませまいとドラムの練習にモリーの部屋を借りることに。

フランキーが賭博場に現れないと怒ったシェイフカとルイが突然やって来て慌てて車椅子に乗ったザシュにデーラーに戻れと罵られて酒場に行くフランキーはシェイフカとルイからザシュの治療費が出せると言葉巧みに乗せられて一回限りのデーラーを引き受ける。 が、追い打ちをかけるようにルイがヤクを誘惑する。 打った後、モリーのクラブに行くがモリーに見破られ、フランキーの釈明の余地もなく失望したモリーは荷物をまとめて部屋を出て行く。 フランキーは約束の勝負を怪しい位の腕前で勝ち、朝を迎えて一端家に戻るが手の震えが止まらずルイのいる賭博場に戻る。 フランキーの後を続けたシェイフカが負け込み、ヤクを打つ前にカードをさばけとルイに強要される。 二日も寝ずに勝負して疲労困憊のフランキーだが破産寸前のルイたちにイカサマを強要される。(映画の始めの方でタバコが消えるマジックを見せたフランキー) しかし負けそうになった客に見破られコテンパンにのされたフランキーはルイのところに行くが先に金を出せと売ってくれないので暴力を振るうが薬は見つからない。 バンドのオーディションに遅れるわけにはいかないとそのままスタジオに行くとドラムを担当する。(交代するシェリーは実在のシェリー・マン!) 当然の事、手が震えて演奏できない。 殴られた仕返しをしにルイがフランキーの部屋に突然やって来たので妻ザシュは歩けるという事実(秘密)を知られてしまう。 歩けるとバラすと脅された妻は懇願が通らないと悟り階段の踊り場から突き落とした。 恐ろしいことにルイは転落死させられたのだ。 それとも知らずフランキーは家に金がないので恥も外聞もなくモリーのアパートを訪ねる。 そこに訪ねてきた未練タラタラの元彼ジョニーからルイが死んだと聞かされる。 無実だというフランキーを信じてモリーは治療を説く。 療養所の代わりにモリーの協力でヘロインを断つ試練を乗り越えるのだ。 ここからがフランキーの正念場、その鳥肌ものの離脱はコールドターキーといわれる壮絶な禁断症状との闘いです。 ちなみに30時間以上も身体を椅子に縛りつけてこの経験をしたヘロイン中毒だったJohn Lennon(ジョン・レノン)がシングル”Cold Turkey”を1969年にリリースしました。
一方モリーはフランキーの妻を訪ねて証言の真否を問います。 ザシュは椅子に縛られている間はフランキーは自分のものだと癇癪を起こします。 夜が明けて手の震えもなくなったフランキーは家に戻るのですが、モリーを訪ねてきたジョニーが窓辺の二人を見つけて警察に知らせたので、別れ話をしているところにモリーを始めベドナーー警部らが入って来たので、フランキーを止めようと思わずベッドから降りて歩いた妻はルイどころか皆にも歩けることを見られてしまいこれ以上はフランキーの同情を買うことが不可能だと悟る。 ザシュは部屋を飛び出し呼子を狂ったように吹き鳴らしながらアパートの外廊下から身を投げて自ら死を選んだのだ。 「愛しているわ、とても…」 哀れ。 原作の小説ではルイを殺したのはフランキーで逃亡中に安ホテルの部屋で首を吊るのです。

フランスの作家で哲学者のSimone de Beauvoir(ボーヴォワール)がJean‐Paul Sartre(内縁の夫のサルトル)以外に持った恋人であるといわれるアメリカの作家のNelson Algren(ネルソン・アルグレン、又はネルスン・オールグレン)の小説「The Man with the Golden Arm(黄金の腕を持つ男)」の映画化です。 原題の”The Man with the Golden Arm”の腕は単数なので主人公フランキーのドラマーとしての腕にしては複数でないから変だと思っていた私ですが、いかさま賭博の腕のことだったのです。
※ネルソン・アルグレン(1909-1981)は1950年にこの映画の原作である「The Man with the Golden Arm」によりフィクション部門で初のNational Book Awardを受賞しました。 この作品でアルグレンが育った大都会「シカゴ」のあらゆる裏の社会を描きました。この小説の他にも詩やエッセイ、A Bottle of Milk for Motherや’How the Devil Came Down Division Streetなどといった短編も発表しています。 ネルソン・アルグレンとシモーヌ・ド・ボーヴォワールとの大陸横断の恋は通算で17年も続いたそうです。 アルグレン1947年にボーヴォワールがアメリカでレクチャー・ツアーをしている間に知り合い二人で南米に旅したこともありました。 その後アルグレンはパリでボーヴォワールの夫君であるサルトルにも会っています。 サルトルはアルグレンの出版物のフランス語訳を手伝ったそうです。 ボーヴォワールはアルグレンに著書「The Mandarins to Algren」を捧げ、なにがしかの交際はあったものの契約結婚の夫であるサルトルのもとを離れることはありませんでした。

Frank Sinatra in The Man with the Golden Arm映画「黄金の腕」はテーマとして麻薬を扱っていたので制作直後は公開できませんでしたが、The MotionPicture Production Code of 1930(映画プロダクション・コード)が変わり制作年の翌年に公開されました。
☆ フランキーのヘロイン禁断症状に耐えるシーンが壮絶!


Elmer Bernstein’s The Man with the Golden Arm
「黄金の腕」は初めて映画音楽にジャズを取り入れたアメリカ映画だそうです。
Key Witness(四人の恐迫者)」を監督したPhil Karlson(フィル・カールソン)の1966年のアクション・コメディである「The Silencers(サイレンサー/沈黙部隊)」ではDean Martin(ディーン・マーチン)が主演しましたが音楽を担当したのは映画音楽の巨匠の一人、Elmer Bernstein(エルマー・バーンスタイン)でした。 そのバーンスタインが「The Man with the Golden Arm(黄金の腕のテーマ)」の”Frankie Machine”を作曲しました。 Henri Verneuil(アンリ・ヴェルヌイユ)が監督しJean Gabin(ジャン・ギャバン)とAlain Delon(アラン・ドロン)が共演した犯罪ドラマで1963年のフランス映画「Mélodie en sous-sol(地下室のメロディー)」では映画のオープニングで流れるテーマ曲”Mélodie en sous-sol (Générique)”がMichel Magne(ミシェル・マーニュ)作曲なのですがちょっとバーンスタインの”黄金の腕のテーマ”を思い出させます。
そのバーンスタインは惜しくも2004年8月に亡くなりました。

Listen!
The Man With The Golden Arm – music by Elmer Bernstein & Title Design by Saul Bass – YouTube
ビリー・メイ楽団の演奏で”Man With the Golden Arm”と共に映画「サイレンサー」でVikki Carr(ヴィッキー・カー)が歌ったセクシーな”The Silencers”はアルバム「Ultra-Lounge, Vol. 7: The Crime Scene」(ASIN: B000002U22)に収録されています。
♪ 試聴はUltra-Lounge, Vol. 7: The Crime Scene – Qobuz.com

「黄金の腕」はバーンスタインの音楽と共にSaul Bass(ソウル・バス)が手がけた映画のタイトルデザインやポスターが絶品です!(モノクロ映画なのでノワール調)
「黄金の腕」のタイトルデザインが見られるThe Man with the Golden Arm – Title by Saul Bass – notcoming.com(画像を矢継ぎ早にクリックすると動いているように見えます)

video☆「黄金の腕」のトレーラーが観られるThe Man with the Golden Arm Trailer – YouTube
The Man with the Golden Arm – VideoDetective.com (左の画像をクリック)

The Man with the Golden Arm DVD
☆安い! 2006年発売の「黄金の腕」廉価版500円DVD!
The Man with the Golden Arm黄金の腕
2002年発売に字幕版DVDですが、英語版VHSビデオの「Man With Golden Arm」もあり。

「The Man with the Golden Arm」の1997年輸入版(英語)VHS(ASIN: 6303935273)は現在入手困難となりました。
The Man with the Golden Arm


オリジナルのソウル・バスによるポスターをがバー画像にした1955年リリースの「The Man with the Golden Arm」輸入版VHS(ASIN ‏ : ‎ B00ZL4Q4VO)は現在でも入手できます。
The Man with the Golden ArmThe Man With The Golden Arm


エルマー・バーンスタイン音楽による史上初のジャズのオリジナル・サウンドトラック!
演奏はPerez Prado(ペレス・プラード)とマンボの組曲にも挑戦したフリューゲル・ホーン奏者のShorty Rogers & his Giants(ショーティー・ロジャース)の編曲で、撮影ではシナトラを補佐したドラマーのShelly Manne(シェリー・マン)、アルトサックスのBud Shank(バド・シャンク)、トランペットのPete Candoli(ピート・カンドリ)などの豪華ジャズメンです。
THE MAN WITH THE GOLDEN ARM OSTThe Man With the Golden Arm/ O.S.T.
♪ 試聴はThe Man With the Golden Arm Soundtrack – Tower.jp(必聴は3番のElmer BernsteinとShorty Rogersなどが演奏する”Frankie Machine”)

DECCA DS-8 The Man with the Golden Arm Soundtrack
The Man with the Golden Arm Soundtrack私が持っている「黄金の腕」のサントラEP盤ですが、1955年の映画「Blackboard Jungle(暴力教室)」のテーマソングだったBill Haley & his Comets(ビル・ヘイリー楽団)の”Rock Around the Clock(ロック・アラウンド・ザ・クロック)”と抱き合わせです。
こんな組み合わせで売る方も売る方ですが買う方も買う方です。当時はヒットパレードで人気があった売れ筋の曲だけを抱き合わせて販売したことが多かったようです。

ボーヴォワールの恋人ネルソン・アルグレンの原作”The Man With the Golden Arm”のペーパーバック (原語版書籍) 1999年版
The Man With the Golden Arm
The Man With the Golden Arm
より価格の安い2005年版はThe Man with the Golden Arm [ペーパーバック]